ツイッターでは延々ネタ呟いてます(迷惑)
140文字弱で(タイトルと一行空くので)どれだけ萌えを書き出せるかというお題に勝手にチャレンジ中なのですが、それで一本書いた気になるのが悩みの種です。
……で、書いてみたんですが、多分全然違う話になってしまいました。
今回も、ラブと甘さは増し増しで。
本郷さんの服は、履いているパンツを残して、俺がきちんと片付けてしまった。
「風呂……入ってくるわ」
「大丈夫か?」
「平気、平気」
昨日の本郷さんは、立てないくらい飲みすぎて、結局風呂に入るタイミングを失った。
さすがの俺も、意識を失った大の男を抱えて風呂には入れない。
「やっぱ人間、風呂が一番だよ。ちゃんと入らんと……朝も急いで家を出ちゃったしな」
「俺、別に気にはしないけど……」
「何をいうか。俺はオジサンの臭いがするんだぞ!」
オジサンの臭い。
その一言は、ずっと本郷さんの心に残っている。
少し前の夜だ。
店でばったり出会い、いつものように一緒に飲んでいた。
隣にカップルがいて、本郷さんはチラチラとその女性の胸を見ていた。
「やめなよ、本郷さん」
「何を……俺は、別に……」
確かに、さりげない見方ではあった。
元々本郷さんは、黙っていると落ち着いた大人の男だし、夜の店のマナーもきちんとしている。
「なんか、オジサンの臭いするよね」
「こらこら……」
席を立ったカップルが、俺たちの隣を抜けていく時、そんな事を言って笑った。
もちろん、直接本郷さんに言った訳ではない。
本郷さんが視線を送る度、俺も同じように見ていたのだから、俺に対する言葉だったのかもしれない。
けれど、本郷さんの落ち込みときたら、悲しみを通り越して滑稽ですらあったのだ。
その後、すぐに帰るという本郷さんを一人に出来ず、家まで送り届けた途端、部屋の中で転がり始めたのにはさすがの俺も動揺してしまった。
「ぬおおおお! 俺、俺は! やっぱりオジサンの臭いだったんだ!」
「……そんなことないって」
「モテ男の力石にはわかるまい! あんな……天使のような爆乳のオナゴに……オジサンの臭いって……そんな言葉攻め……あああ」
「喜んでるのか? もしかして……」
酔いも完全に覚めてしまうんじゃないかと思うほど、本郷さんは転げ回って悲しみを表現した。
強引にその身体を抱きしめてあげてもよかったけれど、あまりにも本郷さんの動きがおかしくて、冷蔵庫からビールを取り出して、しばし眺めてしまったのは俺だ。
結局本郷さんは、そのまま寝入ってしまった。
忙しくて、可愛くて、たまらない人だ。
布団を敷いて、電池が切れたかのように重くなった身体を定位置に放り込んで、俺もそっと隣で眠ることにした。
別に、オジサンの臭いなんてしない。
俺は熟睡出来る、匂いと熱だ。
「あんな一言、忘れてしまえよ……」
完全に眠っている本郷さんに、小声でそっと囁いて、抱きしめる。
そのまま朝を迎えたのだ。
「風呂はいいけどさ、寝るなよ」
「おまえなあ……俺はそこまで酔っちゃいないって」
不安なのは、すでにトレンチコートを一人で脱げないところだ。
どう見ても、本郷さんは酔っている。
「おかしいなあ……力石、何かしたんじゃないか?」
「何を……」
「俺のコート、これだよな?」
ボタンを外す指先が、何度も滑っている。
「ほら、本郷さん」
思わず手を伸ばしてしまった。
ボタンを外して、コートから本郷さんの身体を抜き取る。
少し腕がひっかかったけれど、コートはきちんと脱ぐことが出来た。
「ぬおっ! コート生きてる! 勝手に飛んでいった!」
「そうか。本郷さんはスーツを着てたな……」
風呂に入る前に、服は脱いでしまわなければならない。
本郷さんの道のりはまだまだ長い。
ネクタイも外せそうにないから、俺がひっぱってあげる。
一瞬間違えて締め上げるところだった。
危ない。
そんな俺の失敗に気づきもせず、本郷さんは全身を委ねていてくれる。
コートを脱がせて、ワイシャツも脱がせて、その下からランニングだ。
玉ねぎを思い出してしまった。
「玉ねぎは太ってるから違うか……」
「ん? 玉ねぎ、好きなのか?」
「ああ、生もいいし、煮たのも焼いたのもいいね」
玉ねぎか、と、本郷さんが呟く。
「……男は泣いたりしないけど、玉ねぎを刻んでいる時だけはいいんだぜ」
どんな格好いいセリフだろう。
そのまま風呂に向かう、パンツ一枚の背中に惚れ直してしまった。
本郷さんを風呂に送って、しばらくテレビをぼんやりと見ていた。
面白くもない番組が流れて、何の気なしに飲みかけのビールを片付ける。
「本郷さんの匂いは嫌いじゃないからな……俺は」
言葉にして、恥ずかしさが湧いてきた。
こんな真面目なセリフ、本郷さんに聞こえない方がいい。
「そうだ。風呂場で死ぬのって、酔って入った時じゃなかったっけ」
すでに半分睡魔に襲われている本郷さんだった。
風呂の中に沈んでいき、俺が覗いた時に死んでいたらどうしよう。
「本郷さん!」
慌てて風呂場のドアを叩いた。
激しい水の音がして、本郷さんは湯船につかっている事がわかる。
そのまま、有無を言わさず、扉を開けた。
「本郷さん、大丈夫?」
「にゃっっにっ? 力石、覗くな!」
「……何を今更」
本郷さんが、濡れた髪の毛を激しく振るい、顔を両手で隠した。
「顔は……隠さなくても平気じゃない?」
「こんな顔、誰にも見せたくないんだって!」
風呂の音の反響が、今夜の本郷さんの違いを教えてくれるようだ。
正直、顔だけ隠す意味はあまりないと思う。
「俺は見ていたいけどな……」
「オジサンを見る趣味か!」
「趣味っていうか……本郷さんだけな」
指の隙間から、ちらりと俺を見上げてくる。
「むむむ……」
「……なあ。俺も入っていい?」
「どっ、どこに?」
「風呂。いいだろ?」
本郷さんよりスマートに、服を脱いでいく。
ズボンが少し濡れてしまったけれど、このくらいなら朝には乾いているだろう。
多少濡れていても、俺は少しも気にしない。
「一緒にって……この狭い場所で……風呂が壊れる」
「じっとしてたら平気だよ」
「風邪ひくだろ!」
本郷さんは頑なだ。
全部脱いだ俺は、しゃがみこんで本郷さんと視線を合わせる。
「大人しくしてる」
「風呂は……身体を洗って、温まるところだ……」
「酔っ払った本郷さんが、眠りこけないか、見張ってるところだよ」
「そんな酔ってない!」
またもや、顔を隠してしまった。
本郷さんの仕草は可愛い。
「……隠すところは他にもあると思うけど……」
「な……」
さっきのように、指の隙間から俺を見た本郷さんは、ようやく俺の視線に気がついた。
「どこっ、見る……反則……」
「本郷さん、隠したの顔だったから、こっちは見せてもいいのかと……」
「ダメだ! 俺、すぐに出るから、力石はその後でゆっくり入れ!」
「嫌」
「へっ?」
「たまにはいいだろ。二人で狭い風呂も、なかなか楽しい」
別に、ここで何をする訳でもない。
本郷さんの期待に添えるのは、風呂を出てからだ。
狭いという不自由さと、可愛い仕草を秤にかけたら、誰だって後者を選ぶだろう。
金魚のように口をパクパクさせる本郷さんは、やっと俺からのキスを受け取ってくれた。