日中、ふと思いついたのを書き留めたりするんですが、昨日、あとで見返したら全く内容覚えてませんでした……意味ない〜(涙)
そのメモが「おいしい足」
私はどういう本郷さんと力石を書くつもりだったんでしょう。
とりあえず、多分考えてたのとは全然違う話で、ラブ増し。
「本郷さんって、本当に美味しそうだね」
力石が突然、喉の詰まるような事を言った。
「そ、そう、かい?」
「すごく食べたい」
普段なら、気の利いた何かを返して、そのまま食べ続けると思う。
しかし俺は今、何も食べていなかったのだ。
注文した品は、まだ一皿もきていない。
力石は、何を言っているのだろう。
冷えたビールをぐっと飲み干す。
ああ、もしかして、このビールか……と思ったけれど、これは力石も同じ物を飲んでいる。
意味がわからない。
「味見したいっていうのは、失礼な話だから、本気で食べさせてもらいたいな」
「お、おお。喜んで……」
「本当?」
力石が目を丸くした。
俺の答えは間違っていたのだろうか。
「鳥の唐揚げ、お待たせしました」
「お、きたね。本郷さん、ここの唐揚げ、すごく美味しいんだよ」
「へえ」
箸を伸ばして、力石よりも先にひとつ取る。
どこの店にでもある唐揚げは、やはりその店で味が違う。
ここのは確かに美味い。
力石が知っていたのは悔しいけれど、否定するほど子供でもない。
「あ、わかった」
「何?」
「あ……いや、こっちの事さ。ハハハ」
突然、閃いた。
もう一杯ビールを追加して、穏やかに待つ。
力石は唐揚げ二個目に入った。
負けてはいられないけれど、まだ料理はやってくる。
「本郷さん?」
「美味いな、力石」
「ああ」
さっきの力石の、謎の発言。
もしかして俺は、俺にも見えない何か特別な料理を食べていたのではなかろうか。
この店に入った瞬間、注文されていて、ビールと共に先にやってきていた謎の一品。
それは、選ばれた人間にしか見えない、幻の珍味なのだ。
力石のヤツ、それを隠しきれず、俺に訴えてきたのか。
俺が食べてない時点で、反則な気もするけれど。
「そうだったのか……」
「……何だよ?」
力石が首を傾げている。
なるほど。
「王様の耳は何かの耳、だったよな」
「……唐突だな、もう酔った?」
違った。
裸の王様だ。
「待てよ、あれは本物じゃなかったんだっけ……」
「ロバの耳? あれは普通にロバの耳だろ」
「あ、ああ、それはそうなの」
力石には見えて、俺には見えない美味い物。
そんな物がこの世にあるなんて、とてもじゃないけれど、耐えられない。
気になる。
気になって、食べたくなる。
「あのさ、力石よ……」
「ん?」
「お待たせしました、フライの盛り合わせと、ポテトサラダと……」
「あ、すいません」
輝かしい皿が目の前に広がっていく。
力石が笑顔で受けると、元々感じのいい店の人の表情も和らぐ。
俺も、一緒になって笑っていた。
とても穏やかな俺たちのテーブルだ。
「本郷さん、食べろよ」
「ぬっ、イカがあるっ……俺、イカな!」
「はいはい」
力石はためらいもなく、玉ねぎのフライを取った。
俺の勝ちだ。
「なあ、本郷さん。さっき何を言いかけたんだ?」
「あ、もういい。なんか謎は解けた」
「よくわからんけど……俺は意味不明だよ」
「力石はいいヤツだって事だ」
遠慮なく、イカにかじりついた。
力石は玉ねぎで、俺はイカ。
こんな美味いフライはない。
「……イカのフライで、そんなにも幸せそうになるんだな、本郷さんは」
「お? おお……」
「まあ俺は、あとでゆっくり本郷さんを食べるからいいけどね」
何?
美味そうの意味。
「お、俺……食べ……?」
「食べてる本郷さん、見てるだけで、ものすごくくる」
「くるって……」
ようやく力石の言葉の意味がわかった。
俺の考えは、明後日の方向以前の物だ。
力石に気づかれたら、恥ずかしくて死んでしまう。
「帰る前に、栄養ドリンクでも買っていく? 本郷さん、必要だろ」
「おまえなあ……」
「夜は長いし」
「すぐに寝る」
「冷たいなあ。少しはゆっくり付き合ってくれよ。イカでご機嫌だろ?」
そういうつもりで、力石は玉ねぎを取ったのか。
今夜は最初から、俺の負けだった。
決して嫌な負けではないけれど。
「少しだけ、な」
一瞬、力石の口元が嬉しそうに揺れた。
イカにほだされた訳ではない。
俺だって、力石にこんな顔をさせる事ができるのだ。
それがわかって、嬉しくなった夜だった。