本郷さんも力石も、職業が不明なので、休みの日も不明です。
不明ゆえに自由に妄想出来ると信じて! 平日休みだったり、祝日あったりと、適当にいきます。
「力石よ、コーヒー飲む……か」
こたつで力石は眠っていた。
興味がないといった顔をしていたくせに、気がついたら俺の大事なエロサイターを読んでいる。
俺にも覚えがあるけれど、こたつにもぐって雑誌を読みながら寝落ちするのは、最高の贅沢だ。
「寝てたらコーヒー飲めないだろ……」
起こそうと、そっと近寄る。
力石は、身動きひとつしない。
今夜の晩ご飯は、俺の作るカレーだ。
大昔、結構真面目にカレー作りにハマった時があって、その話をした途端、力石が目を輝かせた。
いつになく力石が可愛く見えたのは、カレーに執着する表情が子供っぽく思えたからか。
騙されてはいけない。奴は魔狼なのだ。
いつ牙を剥いてくるか……
なんて思いながらも、嬉しくなった俺は、さっきまで台所で仕込みをしていた。
「本郷さんのカレーが食べたい」
そう言う力石の声が、ずっと耳の中に残っていた。
何かを企むような声ではない。
普通に、俺に甘えてくれた。
張り切って、ジャガイモの皮をむきすぎたのは、まあいいだろう。
「……俺のカレー……俺にはすごく美味いんだけど、力石の口に合わなかったらどうしよう……」
カレーも世界が広すぎる。
俺にも好みがあるように、力石にも好みがあるのだ。
あれほどの、食の宿敵だ。
「なんだ、この程度か」
なんて笑われたら、俺は死んでしまう。
「力石め。エロサイター読みながら寝るのは、俺にとっても最高の贅沢なんだぞ、こいつ」
そっと、頭を撫でてやった。
叩くなんて出来ない。
俺は甘すぎる。
「ん……」
「あ、ごめん。起こした」
力石が目を覚ます時の顔は好きだ。
こんな無防備な瞬間があるだろうかと思う。
「……カレーの匂いがする……食べる……」
「晩まで寝かせるぞ。コーヒーでも飲まんか?」
「カレーを、飲むのか?」
「バカ。ちゃんと聞け」
今度はポカリと叩いた。
さっきまでの甘さは、起きた力石には見せない。
「んん……すごく寝てた、今。何か夢見てたけど……忘れたなあ……」
「コーヒー、どうだ?」
「飲む。本郷さんのいれるコーヒー、好きだよ」
「インスタントだぞ」
寝起きの力石は、普段と違ってぐっと年下な顔だ。
魔狼の欠片もない。
ゆっくりと体を起こした力石が、ひとつ大きなあくびをする。
「おまえな、こんな時間に寝てたら、夜に眠れんぞ」
「夜は起きてるからいいよ」
「夜行性め」
「寝かさないぜ、本郷さん」
あ、そのための昼寝か。
どれだけ張り切るつもりなのか。
力石の陣立に、倒れそうになった。
「付き合いきれん」
「そう言うなよ。じゃあ、今からでも?」
「バカ! 何を……コーヒーだ!」
立ち上がって、台所に戻った。
力石が笑っているのが聞こえる。
体力の有り余っている若造は、これだから……困……ったりはしないんだけど。
「なんか遊ばれてる気がするなあ……くそ、コーヒー、死ぬほど濃くするぞ」
力石のカップに、いつもの量でコーヒーをいれた。
俺はとても大人だ。