本郷さんも力石も、カレーが好きだから(妄想)カレーばっかり……
「こたつで食べるカレーもまた最高……」
今夜は力石がカレーを作るという。
あれほど、俺の作るカレーが美味しいと絶賛していたくせに、ここで己の陣立をぶつけてくる気だ。
実は褒めていたのは俺を油断させる作戦で、力石の作るカレーが最高級に美味かったら、きっと俺は爆死する。
嬉しそうに作っていた俺の甘さよ。
恥ずかしい。
「本郷さん、野菜をハートとか星とかに切ってあげようか?」
「そんなの喜ぶ子供じゃ、ぬ!」
「ええ、楽しくない?」
「ぬ! ぬ!!」
台所で力石が笑っている。
あやつ……そういうカレーを作った事があるのか。
そもそも、力石はモテ男だ。
あちこちで出会うたび、違う美女を連れていたのを目撃している。
あれは嘘でも夢でもない。
そして、この部屋でのんびりくつろいでいる時に、ふと連絡がきてるのも、知っている。
スマホをちょっと見て、短い時間で返信をして、そのまま。
会いたいと思う美女もいるんじゃなかろうかと、それとなしに背中を押しても、こたつに根を下ろして出かけようともしない。
もしかして、スマホのやりとりだけで満足できるような、ハレンチな返事をしているんじゃなかろうか。
だとしたら、力石はどれだけ凄腕の魔狼なのか。
「本郷さん、普通の家カレーっぽい味にするけどいいよな?」
「家カレーって?」
「専門店みたいなスパイスは多くなくて、給食っぽいの? 大人の」
給食のカレー。
死ぬほど好き。好きすぎる。
「わかった」
俺の顔を見て、力石がまた笑う。
力石は、返事しなくても俺がわかるみたいだ。
俺も、それで十分満足だ。
「なあ、力石」
「何?」
「そういう……専門的なカレーも作るのか?」
「まあ、店の方が美味しいと思うけどさ、本郷さんが食べたかったら、頑張ってみる」
俺が作るカレーは、どちらかというと家カレーに近い。
それだけでもう力石に負けている。
「……力石カレーと本郷カレー……両者一歩も譲らぬ戦いが始まる……」
「何? 聞こえなかったぜ」
「いや、なんでもない! 楽しみにしてらあ」
美味しそうな匂いがしてくると、感覚が鈍ってくる。
力石には負けたくない。
けれど、俺のためにと作ってくれるカレーは、たまらなく嬉しい。
「力石よりは食べんとな! 二杯……いや、三杯はがっつり食べるぞ」
「食べ過ぎて動けなくなっても、本郷さんちだもんな。大丈夫」
力石が戻ってきた。
俺もこたつから体を出す。
「今日のカレーは美味く出来たと思う」
「楽しみだ」
「ニンジン、一つだけハートの形にしてみた」
オジサンがハートのニンジンを食べるなんて状況が恥ずかしい。
「……おまえなあ……」
「味は一緒だろ? もうずっと本郷さんに作りたかったんだ」
「……他にも……お主のカレー……家族とか……」
「本郷さんの事?」
ひっくり返りそうになった。
家族が、俺?
力石は今そう言った。
「バババ、バカ!」
「初めて作ったんだぜ。このカレーは本郷さんにだけ」
恥ずかしいけれど、嬉しそうに笑っている力石の気持ちは伝わってくる。
俺の作るカレーと、グッと差をつけやがって。
「……まあ、せっかくだから、食べてやる……」
「ああ」
ハートのカレーは、力石が作るカレーの定番となった。