三月が近いというのに、まだまだ寒い。
本郷さんちのこたつは健在です。
「ただいま」
ちょっとコンビニまで散歩ついでに買い物をしてきた。
もちろん本郷さんも誘ったけれど、何やら真剣にエロサイターを読んでいるから置いてきた。
たまには一人で行くのもいい。
缶ビールと、新作のチョコレートのスイーツ。
本郷さんは甘いのが好きだから、きっと気にいるだろう。
結局、一人で行っても、本郷さんの事ばかり考えている。
「……本郷さん? トイレ?」
買い物袋を台所で片付けて、部屋を覗く。
本郷さんはこたつで溶けるように眠っていた。
なんて無防備な寝姿だろう。
もしも俺が悪い奴だったら、こんな本郷さんは一撃だ。
「デザートは……起きてからでもいいか」
そっとこたつに近づいて、本郷さんの側に座り込む。
開きっぱなしのエロサイターがあるから、確実にこれを読みながら寝落ちしたようだ。
多分、とても幸せで贅沢な時間だっただろうな。
「どこ読んでたんだろ。まさかパンツは脱いでないだろうな……」
こたつ布団をめくってみて、自分の想像の下品さに反省する。
改めてエロサイターを手に取る。
覚悟のヌードとか、秘蔵お宝ヌードとかの特集かと思った。
大事な人とゆっくりすごす日常。
「……こんな記事、載ってたんだ……」
俺もつられて読んでしまう。
目が覚めるような特別な内容ではなかった。
たまには甘い物でも一緒に食べたら楽しい。
この手の雑誌には珍しいけれど、心に響いた。
「あ。甘い物」
さっき買ったのは偶然だ。
いつもなら、コンビニで買うのは酒か肴。
「……本郷さんの念が伝わったのかな……」
食べたいと思っていたのなら、それはそれで嬉しい。
「本郷さん、起きろよ。本郷さん」
「ん……屁が……」
「え?」
「屁が出る……」
いつも通り。
少し体を揺すったら、思い切り放屁した。
実に本郷さんらしい眠り方だ。
「屁はいいけど、デザートあるから、起きたら一緒に食べよう」
「土左衛門……」
「デザートだって」
唇に、そっと指を押し当てた。
パクリ、と、魚が針に食いつくかのように、本郷さんが俺の指をくわえた。
「……違う」
本郷さんが目を開いた。
「おはよう」
「あれ? デザートは?」
「冷蔵庫にある。今、本郷さんがくわえたのは、俺の指」
「な……なんで! そんな物、食えん!」
「俺も食われたら困る」
眉を撫でて、額の真ん中を撫でる。
「……ああ、俺寝てたか……」
「チョコレートのデザート、食べるだろ?」
「おお、いいねえ。俺、コーヒーいれるぜ。ちょっと待ってくれ」
俺がいれてもいいけれど、本郷さんのいれるコーヒーの方が美味い。
起き上がる本郷さんと逆に、俺がこたつに潜り込んだ。