イチャイチャしすぎてる気がする!
(けどそれでいい)
「本郷さん、今日ちょっと帰ってくる」
「あ、そう言ってたっけ。もうそんな時間か」
いきなり上着を着始めるから、何が始まるのかと思って見ていた。
ちらりと俺を見た力石が笑う。
俺も、全力で笑い返した。
ここしばらく、力石はずっと俺の家にいる。
まるで一緒に暮らしているかのような感覚に、思わず頭を振ってしまう。
まだ、まだまだ一緒には暮らしてない。
「何か、買って帰る物ある?」
「ん? 別に……今の所は……」
酒もあるし、肴もある。
米もトイレットペーパーも困らない程度に買ってある。
夜中に腹が減った時用の夜食も完璧だ。
「力石、帰ってくるの、いつ?」
「今夜」
「なんだよ、その超特急」
「本郷さん、淋しいだろ?」
「なっ……」
力が抜けそうだった。
力石の実家は埼玉だ。
近すぎて、帰るなんて言う距離じゃない。
マメに顔を見せに帰っている分、大事にされて育ってきたに違いない。
力石の育ちの良さは、一緒にいるとよくわかる。
いいんだろうか。
俺なんかと一緒にいて。
「あのさ、俺、ずっと一人でさ、長いのよ。一人。淋しいも何も……」
「俺は本郷さんがいないと淋しいぜ?」
まっすぐ、俺の目を見て力石が笑う。
今の笑いは、俺を笑ったんだろうか。
「いや……俺も……いやっ! そうじゃなくて!」
「帰る場所がここなの、すごく気に入ってる」
朝、別々に仕事に出て、各々の時間を過ごしている。
たまに昼の定食屋で顔を合わせては、一緒に食べたりして、また時間が離れる。
そして夜はまた一緒になる。
それがもう当たり前の日常だ。
一人が長かった俺は、どこにいったのだろう。
「……じゃあ、帰ってきたら、軽く晩酌やろうぜ」
「寝てていいよ」
「いいや。待ってる」
そう言って、起きていられた事なんてないんだけど。
帰ってくる力石は、待っていたい。
「実は今日、祖母がいなり寿司を作ってくれてるんだ」
魔狼と稲荷。
なんという組み合わせだ。
フサフサの尻尾で俺を払いのける陣立に思える。
ああ、俺はいなり寿司も大好きなのだ。
「お主、本当にいい孫だな」
「美味しいからさ、楽しみにしてて」
「おお……そいつはもう……たまらん」
夜が輝く。
「じゃあ、ちょっと帰ってくるから」
「早く行け!」
嬉しそうに帰る力石を、そっと窓から見送るつもりが、あっさり気づかれてしまった。
大きく手を振る姿は、俺が祖母でもいなり寿司をたっぷり作って持たせてやりたい可愛さに溢れている。
「……力石が可愛くみえるなんて、俺、死ぬんじゃないだろうか……」
一人で呟くと、どうにも部屋が寒くていけない。
慌ててこたつに潜り込んだ。