力本続きですいません!!
交互にと思っていましたが、眠気と疲れに勝てない…
とにかく、今月はラブ増しを合言葉に。
「あっ」
本郷さんが叫んだ。
台所で熱燗をつけていた俺は、何気なく視線を本郷さんの方に向ける。
たしか、こたつに転がってエロサイターの今週号を読んでいたはずだ。
「なんとした事だ! 俺が……こんな失態を……」
「何やったんだ? 本郷さん」
本当はもう少し温度をあげた方が美味しいお酒だけど、本郷さんが気になって仕方がない。
途中で台所に放置するよりは、ぬる燗を選んだ方がいい。
「はい。少しぬるめだけどいい?」
「力石の燗は美味いからいいよ。悔しいけど……」
最後の方、声が小さくなって、よく聞こえなかった。
まずはと、イカの刺身も一緒に持っていく。
「おお、こいつは豪勢だ!」
最近、本郷さんはイカが大好きだ。
前に食堂で一緒になった時は、イカフライを好きじゃないって言っていたはずなのに。
天ぷらもイカを食べるし、イカの煮付けも忘れない。
二人でスルメを焼いて飲むと、時間を忘れてしまう。
「で、どうした?」
「あ……せっかく忘れてたのに」
慌てた様子で、エロサイターを隠した。
「隠さなくてもいいだろ?」
「いや、今回のは、見せたくない」
俺は、本郷さんが雑誌のグラビアを見て、ニヤている姿を見るのは嫌いではない。
楽しそうな本郷さんがいいのだ。
巨乳が好きでも、爆乳が好きでも、本郷さんに代わりはない。
そんな所、すべてをひっくるめたのが、本郷さんなのだから。
「……気になるな。俺にも見せたくないほど、好きな裸があったのか」
「バカっ! そんなハレンチな言い方があるか!」
「違うの?」
「……ちょっと違う」
ちょっと、ときた。
本郷さんは、俺に謎かけを仕掛けてきたのか。
「ふうん……当てろって事だな?」
「流石の力石でも、多分当たらん」
「本当?」
俄然、興味が湧いてきた。
「雑誌、見せてくれよ」
「それだけはダメ」
「見ないと答えられない」
「……酒、飲んでからなら……」
今夜の本郷さんは、久しぶりに固い。
けれど、この固さがまたいい。
ゆっくり酒を飲んで、柔らかくなっていくのを見る楽しみがある。
「そろそろ、教えてくれよ」
イカの刺身と、マグロのぶつ切り。
エビとタコを追加して、本郷さんの気を引く。
隠してあった山芋も擦った。
こぼれ落ちそうな笑顔とは、今、俺の前にいる表情を言うのだろう。
「……笑うなよ」
「笑う? そんなグラビアがあるのか?」
別に、本郷さんは酔って意味不明な事を言っているようには見えない。
全く答えの出ない俺の方が酔っているのか。
「あのな……今週号の大特集は『突撃隣の爆乳美人』なんだよ」
「ああ。好きそうだな」
「それがな、載ってないの」
企画倒れという事か。
これだけ楽しみにしていた本郷さんの落胆も理解できた。
「なるほど……まあ、雑誌社も色々あるだろうから……」
「違うんだぞ、雑誌は仕事をちゃんとしてるんだぞ」
「どういう……」
「俺な、この本買う時、あまりにもテンションあがりすぎて、目の前にある一冊を掴んだんだ。何も考えずに、普通にだよ」
「ああ」
本郷さんは、恥ずかしいと言いながら、コンビニでこの雑誌を買う。
店を出た瞬間、足が浮いているのを、一度だけ見た事がある。
本当に、エロサイターという雑誌を愛している本郷さんだ。
「そしたら、先週号だった」
「……え?」
想定外の答えだった。
店が入れ替えを間違ったのか、まさか、わざと先週号を渡したのか。
「そういう事、あるのか? それって……」
「いや! 誰も悪くないんだ。発売日……明日なんだよ!」
「明日……」
「一日間違って……確認もせずに買ったのは俺なんだ。もう、自分が情けなくて情けなくて……」
本郷さんが両手で顔を隠した。
ものすごく肩が震えている。
笑ってはいけない。
今ここで、笑ったら、本郷さんが……。
「ハハハ! 本郷さん、やっぱり楽しすぎる!」
「力石っ!」
絞り出すような本郷さんの声に、俺の笑いは止まらない。
「ごめん、笑ったよ」
「ごめんじゃすまん」
「じゃあ、今度は熱燗つける」
「……むむ……力石の熱燗か……」
俺の燗酒は、本郷さんの胃袋をしっかりと掴んでいる。
「機嫌直して。朝になったら、買いに行くの付き合うから」
「……寝すぎてたら起こしてくれ」
「わかった」
そっと立ち上がって、台所に向かう。
本郷さんの目が、俺の背中を追っているのがわかった。
「また笑っただろ!」
すぐにバレてしまった。
笑いをこらえながら燗をつけるなんて初めてだ。
「……ほんと、本郷さんは俺に、初めての事ばっかりさせてくれるなあ……」
本郷さんには悪いけど、実に嬉しくて、ワクワクする言葉の響きだった。