ちょっとだけ花見してきました。
今年はあっという間に咲いたから、花はずいぶん終わっていたんですが、そんな枝の先に今から咲く蕾がふくらんでいたりして、春はいいなあとしみじみ思いながら妄想しました。
(長い)
いつも通りの本郷さんと力石で。
毎年、桜は一人でゆっくりと楽しむ。
別に場所はどこでもいい。
名所に行く時もあれば、近所の細い一本の木を見上げる時もある。
本郷さんと出会ってから、花見の仕方が変わったとは思わないけれど、一人でいるよりずっと賑やかで忘れがたい時間が増えていくような気はする。
毎日、あちこちを見上げては、花を楽しむ。
本郷さんもそう言っては足を止める。
優しいこの人と、同じ感覚でいられる事がすごく嬉しい。
「おお! ここはまだ花が残ってるぞ、力石!」
嬉しそうな声が俺を呼ぶ。
さっきの店で、少し酒をひっかけた。
今夜はこのまま本郷さんの家で飲み直す予定だ。
いつものように熱燗二合くらいは飲めばよかったのに、俺をじっと見て半分にした。
「飲まんの?」
「酔いすぎると、迷惑かけるだろ……」
「迷惑? 誰が?」
「俺が」
俺は、迷惑をかけられた事なんて一度もない。
本郷さんと飲むのは楽しくて、正直、他の誰にも譲りたくないくらいなのだ。
じっとその顔を見つめたら、少し眉をひそめて目をそらしてしまった。
横顔は、尖った口唇の先がよくわかる。
俺の大好きな先は、後でゆっくりと舐めたい。
「だってな、高知の店で寝ちゃったし、串カツの店ではパンツ一丁になったし……」
「あったっけ?」
「あったよ! もう忘れたのか? 朝起きて、壊滅的な打撃を受けたんだぞ、俺は」
「ふうん……」
本郷さんはずっと気に病んでいたらしい。
たしか、高知の店は、眠る本郷さんを置いて帰った。
串カツの店では止めようと思えば止められたのに、俺は見ているだけだった。
悪いのは本郷さんだけど、俺だって同じくらい悪いだろう。
「じゃあ、俺が謝る。ごめん」
「え、何で? 力石が謝る意味ない……」
「だったら本郷さんだって、謝る意味はないよ」
「……ぬぬ……?」
首を傾げる本郷さんを、強引に押し切った。
「ほら、桜を見ながら帰ろうぜ。そこのは今、本郷さんが先に見つけた花だよ」
「おお……そうだった。力石よりも先に、俺が見つけたんだったな!」
突然元気が出た。
本郷さんはこうでなくては。
「あ、本郷さん」
「ん?」
本郷さんの手を取って、少し強引に指を絡める。
こうすれば、すぐにはほどけない。
ああ。嫌になるほど、俺も酔っている。
俺が、本郷さんと手をつないでいたいだけなのだ。
とてもいい言い訳が出来た。
「力石よ」
「ん?」
「手を離すと、転ぶ……ぜ」
本郷さんが、つないでいる手に力を込めてくれた。