あっという間に桜の季節も終わりです。
けれど、本郷さんと力石の妄想に終わりはなし!!
まだしばらく短い話ですいません(が、甘さは込めまくりです)
降り注ぐ花びらの数が減ってきた。
薄い花の色が、明るい緑の葉に変わる。
あっという間の季節だった。
「……淋しいよな……」
「どうした、今夜は」
「あっ……」
目の前に力石がいるのを忘れていた。
さっき、お猪口に酒を注いでもらったのに。
「もう酔っ払ったのか?」
「いや、そうじゃなくて……ほら、桜がな、バイバイって……」
俺は何を言ってるのだろう。
力石が笑いをこらえている。
「バイバイねえ……」
「木の枝から降ってくる感じって、そうじゃないか?」
「本郷さんらしいね」
バカにされたのか、尊敬されたのか。
力石の表情からはわからない。
いや、力石はまだまだわからないことだらけだ。
「この間、花見するって話してたのにな」
「今年はすごく早かったよ」
力石の箸が、烏賊をつまんだ。
俺が取ろうと思っていた身の隣だ。
そんなことが嬉しい。
「……笑顔になった」
「俺?」
思わず力石の顔を見つめてしまう。
「桜は終わったけど、他の花はこれからだぞ」
「ん?」
「花見ってのは、桜だけに限ったことじゃない」
「確かに」
「ツツジを見ながらだって俺は飲めるね!」
「本郷さん、チューリップでも飲めるだろ」
どうしてわかるんだろう。
花は嫌いじゃない。
自分の家で育てることは難しいから、あちこち咲いているのを散歩しながら楽しむ。
健気に咲いている道端の花だって悪くない。
「俺も花は嫌いじゃない」
力石が呟いた。
優しい響きに見とれてしまう。
「……へえ、お前は花とか貰いすぎて、嫌いなのかと思ってた」
「貰いすぎって……ないなあ」
「そうかねえ」
「そんなもんだよ」
力石の目元と口唇が笑う。
格好いい男の仕草だ。
悔しいけれど、俺には真似できない。
「俺、本郷さんと花見するのは好きだから、いつだって付き合うよ」
「そうか……じゃあ、力石は酒担当な」
「おお。それじゃ本郷さんは肴担当か。楽しみだな」
しまった。
俺が試されるようなことを言ってしまった。
ハードルが上がる。
力石に負けるわけにはいかないのに。
「まあ、どっちも楽しみってことで」
お猪口が差し出される。
軽く合わせて、ゆっくりと飲む。
今夜くらいは一時休戦だ。
こういう夜も悪くない。
花を愛でる力石が、すごくいい奴に思えた。