謎なタイトル…今回最後まで決まらなかった。
いつも変な話だけど、より一層変すぎる…イチャ甘。
「オニのパンツはどうして強いんだ? そもそもオニはパンツなんざはいてるか? あれ、腰巻じゃねえのか?」
不思議な独り言に目が覚めた。
暖かい布団の中。
そっと隣を眺めたら、すでに起きている本郷さんは、雑誌を引き寄せて読んでいた。
「……おはよう、本郷さん」
「お、起こしちゃった?」
「起きるところだった……」
俺の寝起きが悪いのは、本郷さんもよく知っている。
「力石よ。二月はオニの月だろ」
「オニ……ああ、でも節分は終わっただろ?」
「今読んでた雑誌に、面白いのが載っててさ。朝から読んじまったぜ」
肘をついた状態で、腹ばいになっている本郷さんの脇のあたりは暖かい。
思わず頭をくっつけた。
「……おまえな……朝からオジサンを嗅ぐってのは……変態すぎるぞ……」
「別に匂いを嗅いだわけじゃないんだけど……」
本郷さんといると暖かい。
今年の冬は、本当によく眠れる。
今まで、こんなにも熟睡した冬はないくらいだ。
他の何でもダメだった。
俺には本郷さんが一番みたいだ。
「それで? オニがどうしたんだ?」
「お、力石よ。ちゃんと俺の話を聞いてたんだな。オニといえば、パンツだろ」
子供の頃の歌にあった。
オニのパンツはいいパンツ。
歌を思い出していた時に、本郷さんが鼻歌まじりに歌った。
一瞬で目が覚めた。
本郷さんの歌声で起きるなんて、今日は信じられないくらい贅沢だ。
「このページの広告なんだけどな、オニのように強いパンツで美女をノックアウト! だってさ。本当かな」
「どれ……」
俺も体を起こして、本郷さんと雑誌を眺める。
いつもより密着しているのに、本郷さんはまだ気がついてない。
「下着の広告か……」
「パンツなんざ、すぐ脱いじゃうだろ。いいも強いも、美女の前では意味がなくない?」
広告なんてインパクト勝負だ。
なんて事のない下着も、朝からこれだけ本郷さんを引きつけていたら、大成功だろう。
「俺、買ってみようか? 本郷さんは履かないタイプっぽいな……」
「なに……お主、一人でモテる気か……」
「……本郷さんこそ、俺がいるのにモテる気かい?」
へ? と、俺を見た本郷さんは、あまりにもくっついている事にようやく気がついたらしい。
視線をあちこちにやって、俺との距離を確認している。
その動きは楽しくて可愛い。
「バッ、バカ! 俺はだな、紳士の嗜みとしてだな!」
「じゃあ俺も、紳士の嗜みとして……」
「おおお主なんざ、まだまだ若造だ! 紳士なんてツラじゃ、ぬ!」
あんまりな言われ方だ。
確かに、紳士なんて言葉は俺には確実に似合わない。
そんな風に振る舞った記憶もないし、これから先もないだろう。
そこまでして、美女にモテたい本郷さんに複雑な気持ちが沸き起こる。
本郷さんは、あんなにも格好いいくせに。
ずいぶん一緒にいるような気がするけれど、俺の知らない本郷さんの時間は、まだまだ長い。
日中、不意打ちで出会う事が多いとはいえ、どこでどうしているかは自由だ。
本郷さんも聞かないし、俺も聞かない。
自由なんだけど……
「じゃあ俺は、本郷さんの前でだけ履くよ」
「なぬ?」
「強くていいパンツは、本郷さんにだけ見せる」
「お主……」
本郷さんの口元が震えている。
俺の気持ちが伝わっただろうか。
「お主は、モテパンツなんざ履かなくても、十分すぎるほどモテてる。その心意気やよし!」
パシッと背中を叩かれた。
「その覚悟に免じて、俺はこのパンツを諦める」
「え、買うなとは言ってないぜ?」
「いやいや。これで俺がモテモテになったら、俺の魅力じゃなく、パンツの力って事になるだろ。そいつはいかん」
本郷さんは一人で納得して頷いている。
「今は別にパンツを新しく買わなくても、十分新しいのは置いてあるし……その分、美味い肴でも買う方が、俺の陣立も広がるというもの!」
「……なるほど」
「オニの話なんかしてたら、豆食べたくなってきたぜ!」
そういえば、節分の豆まきはしなかったけれど、本郷さんはわざわざ豆を買ってきた。
季節物だからと言いながら、年の数以上食べていた気がする。
「俺は、豆なら……そうだな。豆のカレーが食べたい……」
「なぬ!」
俺が何気なく呟いた途端、本郷さんが布団から転がり出て、叫んだ。
「え? カレー、美味いだろ?」
「豆のカレーだと……? 朝から強烈な陣立ぶち込んできやがった……! 迎え撃つ俺の豆は、豆まき用でいいのか? もっと強い豆は……」
「本郷さん、そっち寒いぜ」
俺の声は聞こえてない。
ああ、いつもの本郷さんだ。
バカバカしくも、心配しすぎた。
パンツが原因なんて、本郷さんの言う通り、俺もまだまだ若造だ。
「豆をこの世で一番美味そうに食べるのは、鳩に決まってる! 鳩……鳩サブレか!」
「……鳩サブレ? 今日買って帰ろうか。あれ、美味いよな」
「ぎゃー!」
再び本郷さんは転がって、布団から遠ざかった。
そんなに広くない部屋なのに、本郷さんは縦横無尽に動く。
「オニに負けて……鳩にも負けた……」
「よくわからんけど、俺、そろそろ起きるよ」
「おお……」
髪の毛がくしゃくしゃになった本郷さんが、そっと布団に戻ってきた。
「力石は……やっぱり格好いい男だよ……」
おかしな褒められ方をした。
本郷さんのおかげで、オニを退治するのは、パンツとカレーと鳩サブレ、なんて一人で笑ってしまった。