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おもいつくままに

色々と止まらなくなり、ひとまず置き場所をつくりました。

138 □ バレンタインデー

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138 □ バレンタインデー

特別に甘い日!
だけどハレンチ度は低い……(想定外)





とうとうこの日がやって来た。
一年に一度、男なら誰でもそわそわする日。
甘ったるいチョコレートが世界中を支配する、恐ろしい一日。

バレンタインデー。

俺はもうすでにオジサンだし、ずっと一人でいて何の問題もないから平気だけど、力石は違う。
あれだけ違う女性を連れ歩いていた男だ。
虫歯が腫れ上がるくらい、チョコレートを貰うだろう。

「……力石よ……」
「何だい?」

朝の四時から眠れない俺と違って、いつもと全く変わらない動きの力石がいた。
こたつにもぐって、エロサイターを読んでいる。

モテモテの日にエロサイターなんざ、どうして読んでるんだって叫びたくなる。

「今日は忙しいんじゃないのか?」
「別に」
「そうなの?」
「いつも通りの日曜だぜ」

パラリとめくったページに、大きくチョコレートの広告が載っている。

「力石、それだ」
「え?」
「何か……ビンビン来ないか?」
「……ちっとも」

力石は、モテ男人生を驀進している割に、気が利かないところがある。
今日なんざ、美女たちは町中力石を探し回っているんじゃなかろうか。

「ああ! もしかして俺、誘拐犯?」

どこを探してもいない力石は、俺の家にいるのだ。
もうずっと。

「……ユカイ? ハハハ、本郷さんは愉快だよな」

こいつ。
粋で格好いい俺を愉快だと言った。

「いや、ほら……えっと……あ、そうだ。犬は庭駆け回るだろ? 魔狼もそうだと思うんだ」

銀色のツヤツヤした毛を持つ態度のでかい狼が、俺の頭の中を駆け回る。
力石は魔狼だ。
最近でこそ穏やかだけど、いつまた牙を剥いて戦いを挑んでくるかわからない。

「犬だってさ、最近は寒いからこたつの中で丸くなるって聞くぜ?」
「マジか! 猫も犬もじゃ、俺とかこたつから追い出されるんじゃないか?」
「飼う気ないだろ。本郷さんちにいるのは……あいつくらいだ」

力石が指さした先に、豪徳寺で買った招き猫がいる。
あやつはこたつには入らないだろう、多分。

「そいつはちょっと安心だぜ……」

力石は魔狼ではなく、犬だったのか。
俺といると、どんどんモテ要素がなくなっていくようだ。

「……もうちょっと後にしようかと思ったんだけど……」
「何だ? 出かけるのか?」
「もしかして、俺、邪魔してる?」
「へ?」

力石の眉が、五ミリも下がっている。
こんなにも悲しそうな顔をしたのは初めてだ。

「邪魔って……何が?」
「本郷さん、大事な用でもあるのか?」
「そんなのはない、けど……なんで?」
「俺を出て行かせようとしてる。ここに誰か呼ぶ予定?」
「バカ! そんなの、百年前からないってば!」

出て行かせるなんて、とんでもない誤解だ。
力石がいない日曜日なんて考えられない。
もうずっとここにいて、俺の目の前が力石の居場所だと、この部屋だって認識しているくらいなのに。

「お主を探して、さまよい歩く美女たちを思うと、胸が締め付けられるんだ」
「……そんなの、いないけど」

あっけに取られるほど、力石はあっさり言い切った。

「おお……余裕だな、おまえ。あれだけあちこちでご飯食べてた美女たちは、力石のためにチョコを用意したりするんじゃないのか?」
「義理チョコね」
「義理? なんだと?」
「今日は大事な人と過ごすから、チョコはいらないって言った」

俺の足元がガラガラと音を立てて崩れた。

「本郷さん?」

亀のようにうずくまって、今の力石の言葉を考える。

「……そいつは、乙女心を粗末にしすぎじゃないのか?」
「乙女なんていないけど」
「失礼だぞ、バチあたる……」
「じゃあ、大事な本郷さんには失礼じゃないのか?」

突き刺さるような一言に、思わず力石の顔を見上げた。

「俺は本郷さんが一番大事だから、本郷さんの事しか考えてないんだ」
「そ、それは……サンキュウ……」

力石が吹き出した。

「なんだよ」
「いや、いきなり英語で返されるとは、思ってもなかったから……不意打ちだ」

俺だって、英語くらいペラペラだ。
ちょっと行っただけのドイツ語を普通に喋る力石には、かなわないが。
ああ、力石は非常に勉強家だった。
俺だって、最高級の宇宙語くらいマスターしなくては、釣り合わない。

「もしかして本郷さん、チョコ欲しかった?」
「……いらん……けど、いらん事も、ぬ」

こたつから出た力石が、台所に消えて、何やらでかい包みを持って戻って来た。

「高級で少ないのと、いつでも食べられるけど絶対に買わない量のと。真面目に悩んで……」

驚くほど重い包みを渡されて、そっと開ける。

「両方にした」
「おまえなあ……」

俺が子供の頃から見慣れているチョコレートの山と、包装紙からオーラの漂う恐ろしげな小箱が現れた。

「俺の気持ち」
「……力石……お主、これを買って来たのか」

バレンタインデーは、女子が男にチョコを送る日だ。
それでなくても近寄りにくい売り場に、目の前のモテ男はどんな顔で突撃したのか。

「本郷さん、甘いのも好きだからな。嬉しい?」
「……し、い」

両手でチョコを鷲掴みにした。
男の俺の手でも掴みきれない量だ。
力石の気持ちが伝わる。

「嬉しい」
「よかった」
「嬉しいから、お主には一個もやらん」
「え、少しくらい分けてくれよ」

全部、俺一人で食べるのが、俺の答えだ。

「力石の分はな、来月のお返しを待ってろ」
「……今、キスひとつでもいいんだけど?」

目の前の口唇は、絶対に甘くて優しいに決まってる。

あえて、きつく目をつぶって、チョコを頬張った。

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プロフィール

HN:
タケル
自己紹介:
本力にどハマりしました。
そしてドラマ版を見たら、本郷可愛さにグッと胸掴まれて……(萌えは勝手です)結局、二人が好きなのだと、自分で納得。

小話は「■ 本力」「□ 力本」分けてみました。
ほぼ変わりはないけど、ひとまずの目安にしていただけたらです。
(小話が増えてきたので、自分の確認の意味も込めて、番号も振ってみました)

とにかくもう、二人が可愛くて(格好よくても含まれる)たまらんので、日常っぽい短い話や、覚え書き等、こそっと置いていきます。

※ 原作の感想は、金曜の朝頃、バレはないように萌え語ります……(この発散もしたくて作ったブログなので)


つぶやき @takerun_001
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サークル 本郷格好委員会

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