ふと気がついたんですが、本郷さんちでだらだらしてる妄想ばっかり……
寒いからいいか〜と強引に思い込んですいません。
のんびりだらだらは、自分の好きなテーマ(と言っていいのか?)です。
(後半、帽子の存在忘れてたので修正しました)
本郷さんちのこたつが好きすぎて、一日中寝ていられる。
そんな俺を心配したのか、近所を散歩に行こうと言い出したのは本郷さんだ。
コンビニで酒を買うという目的を作ったのに、途中の神社に吸い込まれた。
「もう初詣じゃないけど、ちょっと拝んで行こうぜ」
「本郷さん、信心深いんだな」
「小さなところからコツコツだぜ」
何がどうコツコツなのかわからないけれど、神仏に対して無造作でないのは本郷さんのいいところだ。
なんてしみじみ思ったのは一瞬だった。
「宝くじが当たりますように!」
「え」
賽銭を投げて、いきなり本郷さんが叫んだ。
思わず見つめてしまう。
「……あれ? 俺、声に出しちゃってた?」
「普通に聞こえてきたぜ」
「えっと……まあ、穏やかに……」
バツの悪そうな顔をして、本郷さんは帽子で顔を隠した。
コツコツと、こうやって願い事をしているのかと思うと、おかしくて可愛くてたまらない。
「なあ、欲望に忠実な顔、見せてくれよ」
「バカっ! なんか、お主の言い方、ハレンチなんだよ!」
真っ赤な顔が帽子の隙間から見える。
本郷さんの耳の形もとても好きだ。
震えている指の先もいい。
「そう思う方がハレンチだと思うけど」
「なんだと!」
きゅっと帽子をかぶり直した本郷さんが、俺に拳を向けてきた。
「こいつめっ、くらえ! 必殺ロケットパンチだ!」
とりゃ、って叫びと共に、俺の腹に本郷さんの拳が触れた。
痛くも痒くもない。
おまけに、ロケットパンチなんて、何十年ぶりかに聞いた。
必殺も、考えてみたらすごい単語だ。
「ハハハ!」
思わず、大声で笑ってしまった。
年があけてから、本郷さんと一緒にいて、どれだけ笑っている俺だろう。
きっと、今までの俺を知る色んな人が驚くかもしれない。
本郷さんといると、普段使わない筋肉を使い倒している。
健康にもなるわけだ。
「……力石、笑いすぎ……」
「宝くじは当たるかどうかわからないけど、ロケットパンチは俺に当たったぜ?」
「なぬ?」
大きく目を見開いた本郷さんが、絶望的な顔をした。
こんなわかりやすい表情もない。
「しまった……俺の願いは宝くじ当選だったのに……まさか、神様はロケットパンチを優先したのか」
「わからんぜ。今のはものすごく念がこもってたしな」
「こもってない! 優しく……穏やかにやったぞ!」
言い訳がましい。
声が震えていくのが、本郷さんらしくてたまらない。
「ものすごく痛かったのにか?」
「へ? 痛かった? 今のが?」
「……骨が折れたかもしれん」
わざとらしく腹を撫でる。
「今のは嘘だ」
「どうして?」
「お主の眉はピクリとも動いとらん」
眉で見破られるとは。
見てないようで本郷さんは俺を見ているのだ。
「ああ、嘘だよ。ちっとも痛くなかった」
「……よかった……じゃあ、俺のパンチはなかった事に出来るな」
社の方に向かって、深々と頭を下げる。
落ちた帽子は俺が慌てて拾った。
「宝くじ、お願いします。今度こそ一等で」
こんな願い事をしてもいいんだろうか。
なんて思ったけれど、本郷さんは真剣だから、少しでも伝わるといい。
「……本郷さんに当たりますように」
形が崩れないように、そっと帽子を撫でながら、本郷さんの願いの後押しをした。
我ながらいい願い事だ。
「力石、宝くじ、いらんのか?」
顔をあげた本郷さんが、俺にしがみつくように寄ってきた。
「俺買ってないし、願うならもっと違うのにするさ」
「へっ? 宝くじ一等よりすごいのがあるのか?」
「まあな」
おかしくらい眉をひきつらせて、本郷さんは宝石だの金塊だの、ブツブツ呟いている。
俺の願いなんて単純だ。
本郷さんの側で笑っていたい。
こんな最高の願いは他にないだろう。
「叶うといいなあ」
「おまえっ、どんな欲深……」
いきなり本郷さんに腕をとられた。
俺が落としてしまわないように、そっと帽子を持ち主に返す。
やはり、帽子は本郷さんが一番よく似合う。
「……本郷さん?」
「バチあたる前に帰るぞ。ああ、帰りに酒買って、ここに置いて帰ろう」
「不法投棄?」
「バカ! お礼とお詫びだ」
思いがけず、本郷さんとくっついて歩いている。
コンビニまで、もう少し先だ。
本郷さんは、どのあたりで俺の腕を取っている自分に気がつくんだろう。
そして、その時、どんな顔をするだろう。
想像するのが楽しくて、俺はしばらく笑っていた。