今日は昼間が暖かかったのに、夕方から冷え込んで来た!
でも本郷さんも力石も、季節に左右される格好じゃないから、まあ問題なし。
「本郷さん、お先に。風呂ちょうどいいぜ」
「お、んじゃ俺も入ってくるか」
慌てて雑誌を閉じた姿は、見ない事にしてあげた。
「……ちょいと、力石さんよ」
「ん?」
「もしかしてお主、今『本郷さんがまたハレンチな特集読んでたな。やっぱり生粋のハレンチ男だぜ』なんて思ったんじゃなかろうな」
本郷さんが俺を見つめている。
穴が開きそうだ。
「……特集、読んでた?」
「いやっ、読んでない! 別に、これが最後の覚悟のヌードなんてさ! そんな毒々しいタイトル、興味のかけらも、ぬ!」
大げさに両手を振り回す。
やっぱり。
一瞬笑ってしまったのは、本郷さんに伝わった。
ぎゃあと叫んだ本郷さんが、大げさに頭を掻きむしる。
わかりやすくて、見てるだけで楽しい本郷さんだ。
「おいおい、今更……」
「今更って何? 俺、そんなハレンチに思われてるって事?」
「ハレンチも何も……エロサイターのエッチなページは、本郷さんの大事な宝物だろ?」
エロサイターはなんてことのない雑誌だけど、本郷さんはとても深く愛読している。
なんてことない、なんて思いつつ、俺もたまにめくっては、都内のいい飲み屋巡りなんて記事を楽しんでいる。
たまに面白い四コマ漫画なんかあって、つい笑ってしまうのは内緒だ。
「……風呂……入ってくる……」
肩を落とした本郷さんが、風呂に向かう。
「背中、流してやろうか」
「お主、今出て来たばかりだろ。ふやけるぞ」
たまには一緒に入りたいのに、風呂が狭いからと、本郷さんは逃げる。
「あ、今度一緒に銭湯に行こうぜ」
「戦うのか!」
「……風呂」
ここで勘違いされるとは思わなかった。
振り返った本郷さんが目を見開いて、震えている。
「本郷さんって本当に楽しいな」
「うるさい……」
そう言って、ペロリと舌を出した本郷さんは、今日一番可愛い顔をしてくれた。
こんなに可愛い本郷さんを、一人で風呂に入らせるなんて。
「……男としてどうだって話になるんだよな」
「何?」
「やっぱり俺も一緒に入る」
「だから!」
「本郷さんがさっき読んでたエロサイターの特集と、俺が本郷さんと一緒に風呂に入りたいって思うの、どっちがハレンチだと思う?」
ムムッと本郷さんが唸った。
動きが止まって、真剣に考えているようだ。
ああ、この顔だってたまらない。
「……エロ、サイター……」
「マジで?」
どれだけエッチな特集だったのか、逆に興味がわいてきた。
「じゃあ、風呂出たら、俺にも読ませてくれよ」
「バカ!」
「普通に背中流してあげるからさ」
普通にって……と言いかけた本郷さんの背中を強引に押した。
やっぱり、一緒に入る運命だったのだ。
「狭いんだから、ハレンチ厳禁だぞ」
「はいはい。じゃあ、ハレンチなのは、そのうち温泉にでも行こうぜ。春になったら桜の季節だ。景色のいい温泉、探しておくから」
「温泉は大歓迎だけどな、ハレンチ前提ってのはどうかと思うぞ。色んな方向に失礼だ」
律儀な本郷さんは、欲望だけに忠実ではない。
「じゃあ、観光もして……本郷さん、寺社仏閣好きだよな? どこに行くか、考えるの楽しそうだ」
「おお……たしかにな」
本郷さんが嬉しそうな顔をしてくれた。
「楽しくて、食べるものが美味しかったら、俺の勝ちって感じ」
「本郷さんの勝ちか?」
「俺でいいの! そう決めた!」
どこか納得出来ないけれど、それ以上に楽しい気持ちにさせてくれた今夜だ。
このまま本郷さんちの風呂で、楽しみな温泉の夢を見ようと思った。