不明も不明な誕生日なんですが、今日はドラマ版力石の中の人の誕生日なので(おめでとうございます!!)何事もなかったようにお題にしてみます。
甘さ、いつも以上に!!
「あ」
まだもう少し飲めそうな夜。
力石がカレンダーを見て小さく呟いたのを聞き逃す俺ではなかった。
「どうした、力石」
「……ん? ああ、別に」
「別にって声じゃなかったぞ」
「……あのさ」
こたつでくつろぐ俺の側に、くっつくように座って来た。
「誕生日だ、と思って」
「俺の?」
「……本郷さん、今日?」
「違った!」
ウッシッシと笑ったけれど、力石にはウケなかった。
「あのさ、実は今日、俺の誕生日」
俺の誕生日。
俺、は、俺ではなく、力石。
「え! 今日? お前の誕生日? 初めて知ったぞ!」
「ああ、初めて言った」
複雑そうな顔で笑う。
「ちゃんと言ってくれよ。そうか今日か。何座だ? モテ男座か」
「なんだよ、それは」
今度の冗談は通じた。
最近、力石はとてもよく笑う。
こんな風に爽やかに笑われると、この笑顔だけでどれだけの美女たちを撃ち落として来たのか、なんて考えるだけで悔しくなってくる。
こっそり風呂場で真似してみたけれど、俺の笑いは格好いいとは思えなかった。
「あんまり……本郷さんには言いたくなかったんだけどな」
言いにくそうに、それでもはっきり力石は言った。
俺には言いたくない。
そう言われてようやくわかった。
俺くらい鈍い男もいないかもしれない。
「すまん力石。悪かった」
「え?」
「モテ男のお主の事だ。今日は特別な日だろ?」
「……まあ、特別といえば、特別……かな」
あれだけとっかえひっかえ、美女と食事を共にしていた男なのだ。
誕生日という一年に一度のイベントは、それは華やかなものだろう。
「いつまで俺んちにいるんだ?」
「ええ?」
「早く美女たちと楽しんでこい」
「……ちょっと……」
「俺とした事が、朝から力石独り占めにした形になってないか? 美女に恨まれるなんて、倒れそうだよ」
ペチリ、と、額を叩かれた。
一瞬息が止まる。
「本郷さん以外と一緒にいる気なんてないぜ」
「だって、俺に言いたくないって、美女との約束してた事をだろ?」
「そんなの一つもしてない」
力石の言葉をゆっくりと考える。
その時間を力石はきちんと俺にくれた。
「誕生日が来たら、嫌でも自分の年と本郷さんを比べて……まだまだ自分が追いつかない事がわかるだろ?」
「誕生日って、ひとつ年が近づくだろ?」
「え」
力石が大きく目を見開いた。
まさか。
そんな事に気がついてなかったのだろうか。
「お主、オジサンになるんだぞ? 嬉しくないだろ」
「……そうか、本郷さんに近づくんだ……離れるんじゃなかったな」
「俺の誕生日が来たら、離れるかもしれないけどな。それまでは……」
「すごく嬉しい。一番の誕生プレゼントだ」
こたつが跳ねるかと思った。
力石が全力で俺に抱きついてきた。
俺に近つくのが嬉しい?
力石はおかしくなったんじゃないか?
「おまえな……」
「よかった、本郷さんといられて」
抱きついて来た力石は全く離れようとしない。
重い。
今日誕生日を迎えた男は、重い。
「なあ、誕生日のプレゼントだけどさ」
「おまえ、もらえる気でいるのか? 絶対にやらんぞ」
「そう言わずに。本郷さんの時間をくれよ」
高級時計とか、なかなか手に入らない酒なんて言われたらどうしようかと思ったのに、力石は甘く囁いて来た。
「そんなの……今一緒にいるだけで……これがそうじゃないのか?」
「やっぱり?」
俺の首すじに顔を埋めてくる。
魔狼だけあって、狼みたいな仕草だ。
狼と犬の区別がつかない俺だけど、力石がそれらの群の中にいたら絶対にわかると思う。
「くっ、くすぐったい」
「まだ何もしてない……」
力石の言葉に気がついた。
俺の鈍さも半端ない。
俺の時間って、何の事だ?
手を握られて、指が絡められる。
力石の手は熱い。
「おい……」
「じっくり楽しむからさ。今日の時間は、全部俺にくれよな」
時計を探した。
あと数時間はある。
「じゃ、じゃあ力石……俺の誕生日も同じで返せよ」
「大歓迎だ」
唐突に耳を噛まれて、漏れそうになる声をぐっと堪えた。
ゆっくり、俺の時間は力石のものになっていく。
「おお、おめでとう……」
忘れてしまう前に、力石の髪の毛の中に言葉を押し込んでみた。
この先に待つ、気持ちのいい繰り返しを、俺は誰よりも知っている。
「いい気分だなあ。毎日、俺の誕生日でもいい?」
「バカ! 誕生日は一日だけ」
一瞬、何もかも忘れて甘えそうになった。
誕生日に年が近くのはひとつだけだ。
まだまだ力石は年下だ。
「本郷さん……」
「甘えてもダメ」
「……じゃあ、本郷さんが甘えてくれ」
言い返そうとした言葉は、全部力石の口唇に吸い込まれていった。
誕生日だから、今夜はずっとそばにいる。
今夜も、だ。