ずっと一緒にいる妄想ばかりなんですが、寒い季節なのでいいよね〜〜!
一昨日は寒かったのに、今日は驚くくらいに暖かい。
「力石よ、ちょっと散歩に行かないか?」
「いいね。ついでに酒でも買って来ようぜ」
嬉しそうに笑う力石は、俺の部屋でこたつに潜り込んでいても格好いい。
くそ。
うっかり見とれてしまう。
「お主なあ、せっかく俺が健康的にも散歩って言ってるのに、酒かよ」
俺だって酒を買うついでは大好きだ。
でも言い出しっぺが力石かと思うと、つい嫌味を言ってしまう。
なんという天邪鬼な俺なのか。
「……じゃあ俺だけ買って帰るから、本郷さんはお茶飲んでたらいい」
「バカバカ! そんなの酒の肴が許してくれん! そもそもついでの酒ってのはな……」
「ハハハ、冗談だよ」
爽やかな笑顔でとんでもない事を言ってくれる。
力石の冗談は、まだまだ甘いところがありすぎるのだ。
散歩の途中で、しっかり教えてやらないといけないだろう。
「本郷さん」
「ん?」
パーカーを着て、力石はいつもの格好になる。
どこにでもあるグレーのパーカーなのに、力石が着ると恐ろしい迫力の魔狼になるのが不思議でたまらない。
別に、力石ごときに恐れている俺じゃないんだけど、真正面から睨みつける事なんて出来ない。
「トレンチコートって、本郷さんに一番よく似合ってるよな」
「……そ、そう?」
心臓が止まるかと思った。
力石の奴、何をたくらんでいるんだろうか。
俺を褒めても、酒を一杯多めに注いでやるくらいしか考えつかない。
「普通、それだけ着込んだら、結構太って見えると思うのに、スラッとハンサムに見えるし」
「ハンサム? マジでか!」
力石に褒められて悪い気はしない。
けれど、ハンサムだと言われた俺は、さっぱりモテる気配がないのだ。
「行こうぜ」
答えの出ない悩みに沈んでいく所だった。
慌てて帽子を被って、外に出る力石の後を追う。
「ここの階段も慣れたぜ、俺」
「そうだなあ」
「本郷さん、どれだけ酔っ払っても、ここはちゃんと上がれるんだもんな。不思議だよ」
古いアパートの二階。
ここに住んで、どのくらいになるだろう。
力石は生まれてなかったかも、なんて。
「力石がいて当たり前の階段か」
俺が降り切るのを、待っていた力石が手を伸ばしてきた。
「何?」
「……何って、俺がいて当たり前なら、一緒に手をつないで行こうぜ」
「真昼間じゃん!」
慌てて両手を振り回してしまった。
夜なら、手をつないで歩く事もある。
温かくて、迷う時には二人一緒だ。
今は、あまりにも目立ちすぎる。
「ダメかな……?」
力石ががっかりした顔をする。
ああ……がっかりしてもモテ男はモテ男の顔だ。
格好よすぎる。
「だってさ、どう見てもお主に介助されてるオジサンだろ」
「介助!」
力石の顔が輝く。
俺を年寄り扱いする気なのか。
「だったら、俺、一生介助する」
「バカ! 冗談じゃない。俺はまだまだ元気なんだからな!」
「手をつなぐ理由になるなら、別にいいのにな」
「俺がやだ!」
いやだと言ってるのに、力石はそっと手を握りしめてきた。
「こやつっ……」
「そこの角まで」
「え」
「今はそこの角まで。今度はもう少し先まで」
そこの角は、あっという間に着いてしまう距離だ。
たとえば、大勢の人がいたとしても、そこまでなら……まあ。
「よし……」
俺も、力石の手に指を絡めて、ぎゅっと力を込めた。
「本郷さん。散歩のついでの酒は、俺がおごる」
「すごくいいのを選ぶぞ?」
「いいよ」
機嫌のいい力石につられて、俺も笑顔になってしまった。