更新月間二日目にして寝倒れてました……
せっかくのイベントを一つスルーするという情けなさっぷりですいません。
(姑息にも二日の分として更新します)
きちんと取り決めをした訳じゃないけれど、俺が勝手に本郷さんの家に入り浸るようになって、ずいぶんになる。
酔った本郷さんを送り届けたのがそもそもの始まりだ。
帰るつもりだったのに、絶対にダメだと掴まれて、そのまま泊まる事になった。
こたつがあって、ゆっくり転がれるこの部屋は、とても居心地がいい。
本郷さんの匂いがするのもいい。
そう言うと
「へ? ままま……まさか、俺が恐れている加齢臭……」
なんて、この世の終わりみたいな顔をするから、冗談でも頷いたりは出来ない。
今夜は本郷さんよりも先に帰って、軽く飲む用意を済ませた。
こたつで飲む酒は最高だ。
一人でじっくり飲むのもいいけれど、本郷さんと一緒にいられる贅沢は、他の誰にも譲りたくない。
「……本郷さんが一人でよかったよ……」
こたつで転がって、天井を見上げる。
この部屋に泊まるようになった俺が一番怖かったのは、本郷さんと暮らす誰かが普通に帰ってくる事だった。
本郷さんに似合うのは俺だけ。
今から思うと傲慢で図々しすぎるけれど、本気でそう思っていたのだ。
誰も俺たちの間には入れない、なんて。
だから、俺だけだとわかった時は、思わず足が浮いてしまった。
本郷さんには絶対に内緒だ。
こんなにも嬉しい気持ちは、未だかつて誰にも感じた事がない。
「ただいま! おお、力石、帰ってるのか」
玄関のドアが開いて、本郷さんが帰って来た。
「おかえり、寒かっ……」
「ハッピー節分デー!」
ヒイラギを握りしめた本郷さんが、満面の笑みを浮かべる。
「……なんだ、それは」
「今日、節分だろ? ブームには乗らん俺だが、お主がいるなら別だ。節分を祝おうぜ」
そう言って、こたつの上に巻き寿司と鰯の塩焼きを置いた。
節分は祝うものではないと思うけれど、今夜は特別だ。
「……まさかな……」
「なんだよ、俺の陣立を笑うのか」
「いや、俺も……」
立ち上がって台所に向かう。
その間に本郷さんは着替えをして、こたつに潜り込む。
「同じ考えでさ」
巻き寿司と、鰯の塩焼きを並べた。
「なぬ? まさかの丸かぶり……!」
「ここでそれを言うか?」
笑ってしまった。
本郷さんは、言い方がおかしい。
俺を、腹のそこから笑わせてくれるのは、本郷さんだけだ。
「……カブカブの丸かぶり……こいつは責任持って、お互いに、食おうぜ……」
「一緒に食べたらいいだろ? 酒も買って来たし」
「ぬおっ! 俺とした事が、特別な酒を忘れていた……!」
途端に本郷さんが倒れ込んだ。
何やらブツブツ言いながら、嘆き悲しんでいる。
その側に腰を下ろす。
「節分ってさ、豆まくんだよな? 色々買った時に、おまけってもらったぜ」
「ええっ? 俺、もらって、ぬ! ぬぬ……やっぱり力石はモテっぷりが違う……クソ……」
大きな口を開けて、本郷さんが震えている。
さながら、豆を投げられる鬼のようだ。
「ほら」
「ん!」
本郷さんの口に、豆を放り込んだ。
カッと目が見開かれたかと思うと、そのまま味わって、飲み込んだ。
楽しい。
「もっと食べる? あ、豆って年の数だったっけ。本郷さん、いくつ?」
「……二十」
「え」
そういう冗談を言うとは思わなかった。
一瞬、笑いそびれた俺を見て、本郷さんが真っ赤になった。
「いや、すまん! そんな、若作りしてるつもりじゃなくて……」
若作り、なんて思った事がない。
本郷さんはいつだって若くて、本人が気にするほどオジサンでもない。
「その頃の本郷さんも、知りたかったな……」
「なんで?」
「格好よかっただろうと思ってさ」
今も、誰よりも目立つほど、本郷さんは格好いい。
もっと若かった頃なんて、どれだけ格好よかっただろう。
「……豆、食ってもいいぞ」
「え?」
「お主こそ、二十個食べろ」
「俺は、とっくに二十歳じゃないけど」
「遠慮するな。俺を褒めるくらいだ。豆大好きなんだろ」
何も始まってないのに、節分の豆は俺の大好物になった。
そこまで豆を好きな訳でもないけれど、せっかくの本郷さんの好意だ。
酒にあうかは、今から試してみようと思う。
「本郷さん」
「なんだ?」
ようやく落ち着いた本郷さんが、俺を見た。
「ハッピー節分デー!」
本郷さんよりも笑顔で、俺なりの冗談を決めたつもりだった。
「お主、そいつは変だぞ」
真顔でダメ出しされるとは思わなかった。
「あれ? 本郷さんが言い出したんじゃ……」
「そもそも節分っていうのはだな……」
思いがけない攻撃で、本郷さんのウンチクが始まった。
このオジサンっぽい癖も大好きだ。
本郷さんの話はずっと聞いていられる。
節分が大好きになった気がした。