今年は本気で何もしないGWでした。
本郷さんと力石はどうしてたんだろう。と、そればかり考えてたけど!
朝から天気は不穏だったけれど、突然の大雨と雷に、出かける最後の気力もなくなってしまった。
今日くらいは外の空気を味わいたかったのに。
力石など、実家にも帰らず、俺の家にいる。
別に、帰れと言った記憶はないから、いてもいいのだけど。
「本郷さん、コーヒー飲むかい?」
「お、いいね……」
お主のコーヒーは美味いから……なんて普通に言いそうになってこらえた。
力石をつけあがらせてはいけない。
すぐに手を伸ばして来る。
前にそう言って、せっかくのコーヒーを冷ましてしまった事がある。
「ついでに、チーズケーキもあるぜ」
「なんだと!」
「本郷さんが寝てる時に、コンビニに行ってきたんだ。たまには甘いのもよかろう」
力石くらい行動の読めない男も知らない。
昨夜の俺は飲みすぎて、早々に潰れてしまった。
俺が眠っている間は、何をやってもどこに行っても、力石の勝手だ。
一人でコンビニに行こうが、雨に濡れて彷徨おうが。
「雨は?」
「ギリギリ保った。あ、声かけたらよかった?」
「いやっ、多分俺死んでた」
「だろうな」
笑う力石は、俺を大事にしてくれる。
そこは、痛いほどわかっているのだ。
「おお……こいつは美味そうだ」
チーズケーキは嫌いじゃない。
嫌いじゃないから悔しい。
俺が力石に用意して、力石を喜ばせたかった。
……あれ?
戦いに勝つ、と言いたいんだよ、俺は。
「……本郷さん? 違うのがよかった?」
「ブルブル! とんでもない! 俺ぁチーズケーキが大好きさ!」
今は大人しく従って置こう。
嬉しそうな力石も嫌いじゃない。
ずっと若く見えるのが、俺を大人っぽく思わせてくれていい。
「お……美味……」
「よかった。コーヒーにも合うよな」
最近はコンビニも美味しい物を置いてある。
少しだけ甘いのが食べたい時など、とてもいい。
「力石よ」
「ん?」
「酔っ払った帰りって、何で甘いのを買って帰るんだろうな」
俺が問うた時、力石はまさにチーズケーキを食おうとしていた。
一瞬動きが止まって俺の顔を見る。
悪い事をしてしまった。
食べる時の中断。
これが俺なら、爆発しているかもしれない。
心の中で。
「そうだなあ……酔ってないアピールと、楽しく飲んだ自分にご褒美?」
「ぬぬ? 自分にか?」
「だって、次の日に食べるんだろ?」
酔った次の日は、爽やかに目覚める時もあれば、朝からトイレに駆け込む時もある。
力石が泊まるようになってからは、トイレで吐くほど呑んだくれる事はなくなった気もする。
「気がついたら食べてるか……」
冷蔵庫をきれいにするのは俺の趣味でもある。
無駄な食材を残さない。
力石も同じようで、買い込んでもきちんと最後まで使い切る。
そこは、本当に好ましいと思う。
「ついでに、今夜もカレーにしたいんだけど」
「なんだ、力石。カレーに取り憑かれたか」
「天気が悪いとね……何か煮込みたい」
「カレーはいつ食べても美味いからな。ぜひともカレーでいこうぜ」
「よかった。実はもう下ごしらえはしてある」
「なぬ? 本気でお主、手際がいいな」
連休の始めもカレーだった気がする。
力石のカレーは美味いと思った。
そして、連休が終わる今日もカレーとは。
「ずっと一緒にいるんだもんなあ……」
「ん?」
「いや……カレ……カレーは、どうして辛いんだろうってな……」
俺は今、何を言おうと思ったのか。
「そこらは、これから一緒に考えようぜ」
力石のコーヒーとチーズケーキは、いつの間にかなくなっていた。
そっと、手が伸びて来る。
「待った! 俺はまだ食べてる!」
「……じゃあ待つ」
「いやっ、まだ朝だし、お主はカレーの準備をするんだろ?」
「全部終わったら……いい?」
返事のしようがない。
いい、なんて、絶対に俺の口からは言いたくない。
かと言って、いやなんて、言った事もない。
「カレーの出来による……」
「わかった」
力石がとんでもなく格好いい笑顔で俺を見つめた。
返事に失敗した気がしたけれど、こんなにゆっくり出来るのも、しばらくはないだろう。
「雨じゃなかったらな……」
「外がよかった?」
「へ?」
「屋外でも……俺は気にしないけどな」
飲みかけのコーヒーをぶっかけてやろうかと思った。