朝イチに呟こうと思ったら、ちょっと長くなりそうだったので別に保存したところ、ザクっと削除してしまいました……(涙)
覚えてないので、新しく書き直そうと思います。
本郷さんの側で眠ると、楽しい夢を見るような気がする。
今夜は少し不思議だったけど、夢はいつだって不思議だ。
(力石、落し物だ)
(ありがとう。俺、何を落とし……)
(マグロ一匹)
(マグロ? 俺が?)
(お主がポケットから落とした)
(ポケット!)
ひと抱えもあるマグロを押し付けられて、どうしたものかと考える。
(刺身がいいんだけど、照り焼きも食べたいよな)
(ふむ……)
(煮付けも悪くない。けど新鮮なマグロは、まず刺身でさ……)
さすがの俺も、ここまででかいマグロは捌けない……
と、思った時に目が醒めた。
布団の端を抱えていた。
どうやら、本郷さんが布団を跳ね飛ばして、それを俺が掴んだ形で眠っていたらしい。
抱えていた夢の中のマグロはこれだ。
原因がわかると、夢は楽しい。
「……んがっ……りき、いし……いざ……」
俺の寝相が悪いと文句を言う本郷さんこそ、寝言がすごい。
起きているんじゃないかと思うくらい鮮明な時があって、本当に眠っているのか、何度確かめたかわからない。
「本郷さんが今まで付き合った人も、こんな寝言を全部聞いたんだろうか……」
自分の中に嫉妬なんて感情はないと思っていたけれど、本郷さんと出会ってそんな訳ない事が痛いほどわかった。
俺もまだまだ人間が出来てない。
本郷さんが好きで、ずっと一緒にいたくて。
でも、昔の話は聞けないでいる。
寝言はおいといて、起きている時はあれだけ格好いい人だ。
本人はモテないなんて冗談ばかり言うけれど、絶対に嘘だと思っている。
俺の知らない時間があるのは仕方がない。
今一緒にいるのが俺なら、それでいいのだけれど、この先をずっと俺が独り占めしたい気持ちは抑えられない。
これがワガママなら、俺は世界一のワガママだ。
「……本郷さん、マグロ、一緒に食べたいぜ」
眠る耳元にそっと囁いた。
まぶたがピクリと動く。
「マグ……ロンドン……」
曖昧な口唇が、不思議な単語を呟いた。
眠る本郷さんは、起きそうにない。
「ロンドン? なんで?」
本郷さんの頭の中に今すぐ飛び込んで、一緒に夢を見たい。
もともと、俺の夢に出てきたマグロだって、意味不明だ。
でも、トレンチコートを着た本郷さんが、マグロを抱えている姿は格好いいかもしれない。
「本郷さんくらい格好いい男を、俺はしらんぜ」
目が醒めないように、ゆるりと額を撫でた。
少し汗ばんでいて、そろそろ春も終わりだと思う。
もう少し暑くなったら、俺はすぐにでもクーラーを入れたいけれど、本郷さんはギリギリ我慢ができなくなるまで扇風機を使う。
そして、回る羽の前で声を震わせるのだ。
本郷さんちの扇風機は、そのためにあるような気がする。
「扇風機の前で『ワレワレ ハ ウチュウジン ダ』って言うの、なんでだろう」
オジサンの特権だと、本郷さんは主張するけれど、きちんとした歴史と理由を教えてほしい。
俺も一緒に真似をしたいのだから。
「本郷さんが宇宙人でも、俺はきっとマグロをご馳走するよ……」
「……んん……りきい、し……」
寝返りを打った本郷さんが、ものすごく大きな屁をこいた。
これもいつもの事だ。
恐ろしい臭いでもなく、音だけが派手な、本郷さんらしい屁だ。
さすがに、これだけは真似が出来ない。
本郷さんに尻を向けても、出そうで全く出ないのだ。
「屁にも愛される男……か」
大きく息を吸い込む本郷さんの頭を撫でる。
無防備な寝相は、まだまだ深い眠りを知らせてくれる。
「あ、俺も寝直さなくちゃな」
時計を見て、改めて時間を確認した。
もうひと眠り出来そうだ。
本郷さんに布団を掛ける。
扇風機の前に、薄手の布団か。
朝になったら確認しよう。
「おやすみ、本郷さん。マグロの夢、続きが見たいよ……」
背中にくっつくようにして、俺も眠った。