突然の寒さにブルブルします……
本郷さんも寒さに弱そうですが、力石がいると
「ぬ? お主、寒いのか? 首巻き貸してやらぁ」
とか言いそうです。
「……襟巻きと首巻きって違うのか?」
なんて、本郷さんがぐっっっと答えに詰まりそうな質問をする力石の首元は、あったかいんだろうな!
(軽くラブな妄想投入しました。小話にはなんの関係もないです……)
今夜、飲みすぎて、時間を忘れてしまった。
無理やり帰ってもよかったけれど、本郷さんちに泊まる事にした。
正直な所、ほんの少しは期待もした。
けれど、そんな雰囲気のかけらもなく、酒に酔った状態でも、本郷さんはあっという間に布団を敷いてしまった。
「布団、よし! あ、力石、このパジャマ着ろ」
押入れの中から新しい包みを出してきた。
爽やかな青色のパジャマだった。
当然のように女物ではない。
「これ、俺に?」
「別に用意してた訳じゃないぞ。たまたま安売りしてたから、自分のために買ったんだ。買ったら……俺のサイズじゃなかっただけだ」
なんて粋な言い訳だろう。
思わず、手渡されたパジャマを抱きしめてしまう。
「そんな色、俺には似合わないしな」
「……似合うよ、本郷さん」
「そ、そうかな……?」
「本郷さんは格好いいからな」
普段はトレンチコートと、たまに黒っぽいスーツ姿しか見せてくれないけれど、本郷さんはカラフルな色合いも似合うと思う。
俺の知らない若い頃は、どんなにおしゃれだったのだろう。
「ほ、褒めても……パジャマしかないぞ……」
「ありがたくお借りします」
あらためてパジャマを広げて見る。
本郷さんはセンスがいい。
ふと見たら、本郷さんが不思議な顔をして俺を睨んでいた。
何か今、言い方を間違っただろうか。
「そ、それはお主の……お主に買って……いや……! パジャマの裾は、ズボンにインだぞ」
「え? それ本気で言ってる?」
「腹の虫が風邪ひくだろう!」
腹が冷えるはよく聞くけれど、そんな言い方は初めて聞いた。
本郷さんが言うなら本当にありそうで怖い。
「……腹に虫がいたらびっくりするぜ」
「俺だってびっくりするよ」
なぜか、顔を見合わせて笑ってしまった。
俺もつられてしまう。
本郷さんみたいに、豪快に笑えたら気持ちがいいだろう。
「悪い。つい大声になった……夜中に笑うの、近所迷惑だよな」
「泣くよりいいぞ」
「……それ、エッチな意味で?」
「バカっ!」
冗談だったのに、ポカリと叩かれた。
「着ろ! パジャマ」
「はいはい」
ようやく着替えに戻れる。
脱いだ服は枕元に放り投げた。
「こらっ、服が泣く!」
怒った声だけど、少しも怒っていない。
いちいち拾った俺の服を、本郷さんはきちんと畳んでくれる。
本郷さんの意外な一面を知った気がした。
酒が入っているからだろうか。
それとも普段からこんな風なんだろうか。
まだまだ知らない本郷さんがいるのは、普通に興奮する。
「おお、やっぱりそのパジャマは力石にぴったりだ」
パジャマのサイズは、俺にも少し大きめだけど、ゆっくり眠るにはちょうどいい。
俺の好みの肌触りで、このまま本郷さんに抱きつきそうになった。
「よく眠れそうだよ」
「そいつはよかった。裾も入れたな!」
言われた通りにパジャマの裾をズボンに入れたけれど、なんとなくゴワゴワして、眠れないような気がした。
こんな格好、小学生の時にはもうしてなかった。
「それじゃ、力石の陣地はそっち。俺がこっち。布団が足りない時は、毛布も出してあるから、勝手に調整してくれ」
「ああ、至れり尽くせりで……」
「おやすみ」
「え」
本郷さんは、当たり前のように布団の中に潜り込んだ。
そのまま三度ほどゆっくり呼吸をして、あっという間に夢の中だ。
まさか、ここまで寝付きのいい人だとは知らなかった。
「本郷さん」
「本郷さん」
少し体を揺すってみた。
それでも起きない。
「本郷さん」
「つくね……」
今夜、飲みながら焼き鳥の話はした。
先日見つけた店が美味かったから、また近い内に行こうと約束した。
俺が行きたいと言ったら、本郷さんがとにかく嬉しそうに笑ったのだ。
「俺の夢……見てくれてるんだな……」
「……んごっ……でかい……キ、ンタ、マ……食えん……」
俺と焼き鳥屋にいる夢を見ているのだと思ったのに、いきなりの下ネタに、頭を叩かれたような気がした。
全く。どんな夢だろう。
本郷さんの見ている夢が一緒に見られたら、一生俺は笑っていられそうだ。
追いつけないのが心底悔しい。
そっと、本郷さんの隣に潜り込む。
温かい体と、少し湿った汗の匂い。
体をくっつけようとして、膝のあたりを蹴られた。
これは、その気になる俺が悪いのか。
「本郷さんよ、俺が大人でよかったな」
鼻の先を軽く舐めてやった。
その途端、本郷さんが寝返りを打って、背中を俺の方に向けた。
「……!」
まさかの屁をこかれた。
気持ちは変わったりしないけれど、せめて俺も反撃くらいしたい。
眠る、大事な人に。
考えた。
考えて……
ズボンの裾から出したパジャマのボタンを全部外した。
素肌に近い格好で、温かい本郷さんに、くっついて眠る事にした。