可愛くて格好いい甘さ……ってどんなの??
二人が仲良く飲み食いしてたら嬉しいだけの妄想です。
エイプリルフールで嘘をつくなんざ、子供のやる事すぎて、オジサンの俺にはピンと来ない。
俺が今嘘をつける相手が力石しかいないというのもある。
「……恐れているのか? 俺は」
本当みたいな嘘を真面目についたとしても、力石は鼻で笑いそうだ。
少し俺に近づいて
(……そいつが何だって?)
なんて言われたら、ある事ない事、全部喋ってしまうかもしれない。
力石は魔だ。
嘘がつけない。
「……さん、本郷さん……」
「ぬ!」
しばらく前から呼ばれていたみたいだ。
力石が困った顔をしている。
「ど、どうした? 兄弟」
「兄弟じゃないけど、本郷さん、追加の注文はどうする?」
倒れるかと思った。
この俺が、食の戦いの途中で別の事に気を取られる事があるだなんて。
「す、すまん。別に酔っちゃいないんだが……」
「ああ。今夜はほとんど飲んでないぜ」
テーブルの上にはビールの大瓶が一本。
二人で一本なら全然飲んでない量だ。
「もしかして風邪気味とか?」
「全然! 普通! 超元気!」
頭をブンブン振ったら目が回るかと思った。
「本郷さん……」
「ああ、大丈夫……次、選ぶよ」
壁に貼られたメニューに目をやる。
力石の選んでない物。
力石が悔しがりそうな物。
肉か、魚か。
野菜か、甘味か。
「あ、おでん」
「え?」
「俺はここでおでんを投入するぜ」
以前はここまで思わなかったけれど、おでんは力石との出会いの一品だ。
店先で見つけてしまうと、つい注文してしまう。
「……俺も、おでんな気分だ」
お。
今力石が俺の真似をした。
俺の真似。
「何か言った?」
「ま、まね……マネーロンダリングってのは、本当にけしからんな」
「……そういう話にも明るいんだ、本郷さんは」
唐突に力石が謎の単語をぶつけてきた。
経済が、犯罪が……聞き取れない。
俺のマネーロンダリングは、力石が突然俺を真似してきたから浮かんだ言葉だ。
詳しい事なんざ、何も知らぬ。
「俺、昔は普通にお金を洗うんだって思ってたよ」
「力石が?」
「ああ。洗うの大変だなって言って、笑われたなあ」
これは、格好悪い姿をアピールしながらも、格好よさを際立たせる力石の作戦だ。
力石にしか出来ない。
「想像出来んよな、そんなお主」
「結構、間抜けな子供だったよ、俺」
その頃に出会いたかった。
さすがに子供の力石に負ける俺だとは思わない。
「俺も子供の頃はそんな感じだったぜ……」
「本郷さんこそ想像がつかない」
「え? ほんと?」
「トレンチコートに帽子かぶって生まれてきたんじゃないのか?」
ハハハ、と力石が笑った。
そんな赤ん坊、絶対に嫌だ。
「ならお主はパーカーを着たままだな?」
「写真、見る?」
「えっ! マジで?」
思わず身を乗り出していた。
力石の顔とくっつくくらい近づいて、慌てて飛びのく。
俺の前世は絶対にバッタだ。
人の少ない時間帯でよかった……
「嘘だけど、今日は嘘ついてもいいもんな」
「エイプリルフールか……」
「……嫌だった?」
「とんでもない! 俺も嘘つくぞ」
聞かせてくれ、と言って力石は目を閉じた。
なぜここで目を閉じるのか訳がわからない。
「俺の嘘はな……マネーロンダリング……は、マネーロンダって名前の指輪があるっての、どうだ?」
顎に指をあてて、格好いい仕草を演出した。
目を開けた力石が俺を見る。
「……指輪、欲しいんだ?」
「へっ?」
「本郷さんが欲しいなら、プレゼントするけど? 指輪」
そっと伸びてきた手が、俺の薬指を選んで握った。
手が震える。
力石からの約束。
欲し……。
「バカ! 俺だってエイプリルフールくらい理解してるぞ!」
「あ、やっぱり? 本郷さんが一番驚くような事をずっと考えてたんだ。そこは褒めてくれ」
格好いい力石が、突然年下の可愛い顔を見せる。
俺は、こういう力石にも弱い。
「褒めはせん」
「え、マジか」
「その代わりに……」
追加の注文は、この店で一番美味しい日本酒にした。
「奢るから飲め」
「……本郷さんも飲もうぜ」
「モチのロン」
コップで乾杯した。
飲みながら
(これこそが、三三九度だろ、どうだ?)
って言うべきかどうか悩んで、やめた。
今までにないくらい、大人な俺だと思った。