再びまた、ラブ増しのイチャイチャ週間で(そんな時期があったのか??)
なんか書きあがったら、変な話になった気がします……
本郷さんの家に泊まりに来た。
じっくりと、長い夜を楽しむつもりでいたのに、本郷さんはかなり酔っている。
「力石よ。今夜はトランプだ」
「え?」
「ババ抜き。こいつで勝負しよう」
ニヤリと笑う本郷さんは、抱きしめたいほど可愛い。
可愛くて、とぼけたところが多い。
今夜も俺をこたつに座らせたまま、布団を敷くと押入れの方に行ったのに、戻って来た時はトランプを持っていた。
酔っ払いにもほどがある。
勿論、こんな本郷さんを、さりげなく抱きしめるのが好きでたまらないのだけれど。
「いきなり……」
「俺は強いぞ」
「へえ」
組み敷く力は俺が強い、と思うのは、多分酒が入っているからだ。
酔っていない本郷さんなら、俺の腹にパンチくらい食らわしてもおかしくない。
ごそごそと、よく動く足で蹴られる可能性もある。
一度体験してみてもいいかもしれない。
「よし。いいか? くばるぜ」
几帳面にカードを混ぜる。
何度も何度も。
口元が何やら呟いているのは、念でもこめているのだろうか。
慎重にカードが配られた。
そっと開いて、お互いに確認する。
いくらか組みになったカードの山が、こたつの真ん中に増えていく。
一応、普通にババ抜きは出来そうだ。
「力石、ずいぶん減ったな……」
「そうでもないけど、本郷さん、酔いすぎてカードが見えてないんじゃないか?」
「そんな事はない。ちゃんと戦えるぞ。夜は長い」
「……長い、か」
今、俺は、お預けをくらっている状態だ。
気持ちよく酔って、このまま一緒に眠る予定だったのに。
身体の奥が熱いけれど、俺も酔いが回っている。
少し反応は鈍いかもしれない。
「じゃんけんで決めるぞ」
「何を?」
「先に引く方だよ」
「本郷さんからでいいよ」
「ぬ……」
眉を豪快にひそませて、本郷さんが口を尖らせる。
「確かに、俺が先なのはいいだろう。けど、力石が後だと言うのも、何やら恐ろしい作戦が立てられているようで、素直に納得は出来ない……」
「じゃあ、俺から……」
「ちょっと待った! そいつは困る」
「困る?」
「力石が、俺よりも先っていうのは……何もかもが崩れていきそうだ……ちょっと、ちょっと待ってくれ」
きちんと扇型に広げたトランプを見ながら、本郷さんが唸る。
別にどっちがどうなっても、これが終われば一緒に眠るのだ。
本郷さんが楽しく遊べたら、俺は別にかまわない。
「俺としては、力石が、楽しくないのは嫌なんだよ……」
「そうなんだ」
驚いた。
自分の事だけを考えているのかと思ったら、本郷さんはきちんと俺の事も考えていてくれた。
俺よりも酔っている夜なのに。
本郷さんの家に来ると、なぜか、一杯は多くすすめてしまう。
自分の家の気楽さからか、本郷さんは加減を忘れたかのように飲んで、倒れる。
倒れた身体を自由にする訳ではないけれど、好きなように扱うのが俺の楽しみだ。
転がすように布団に押し込むのもいいし、抱き上げて、宝物のように運ぶのもいい。
最後まで頑固な砦であるランニングを脱がせる楽しさは、興奮を越えてしまう。
かすかに匂う本郷さんの体臭には、酒とタバコも混じる。
そっと鼻を近づけて、どこまで追いかけるのは、そのまま側で眠る俺の特権だ。
本郷さんが言う通り、俺はマニアックなのかもしれない。
「決めた! 力石が引っ張れ!」
「……わかった。これ」
「えっ、考えもなくか」
本郷さんが悩んでいる間に、どれを選ぶか決めていた。
最近はほとんど遊ばないけれど、こういったカード遊びをする時の俺は、あまり時間をかけて選んだりしない。
勝っても負けても、そのうち終わるのだ。
さっさと進めた方がいい。
ハートのエースだった。
俺の持っていた一枚と合わせて、お互いの間に落とす。
なんとなく幸先がいい。
「本郷さん、どうぞ」
「お、おお。いくぞ……俺はだな、こ、こいつ……ぬおっ!」
奇声を発して、本郷さんがトランプを掴んだ。
もう少しで声をあげるところだった。
「ああっ! 何で……い、いや、何でもない、ぞ」
俺がジョーカーを持っていた。
本郷さんの配り方に文句を言うつもりはない。
あれだけ慎重に混ぜていたというのに、一番最初に配られた一枚が、ジョーカーだったのだ。
俺の運だろうか。本郷さんの運だろうか。
そのまま最後まで俺の手の中にあると思っていたのに、最初から本郷さんの手に戻るとは思いもしなかった。
「ちょっと待ってくれ。混ぜるから……」
「いくらでも待つよ」
「……あ、力石、向こうむいていてくれ」
「どした」
「見られてはたまらん」
さすがの俺も、本郷さんの混ぜ方を見ていて、ジョーカーを見つける自信はない。
けれど、あまりにも真剣な顔と声に、うっかり笑いそうになるのをこらえながら、俯いてあげた。
「むむ……力石の頭のてっぺん、初めてみたぞ」
「もしかして、薄くなってる?」
「そんな訳あるか、バカ」
トランプが混ぜられる音を聞きながら、何やら褒められたような気がして嬉しくなった。
「本郷さん……」
「まだ! 混ぜ終わってない」
「そんな時間かけてたら、一緒に眠れない」
「……む」
もしかして、本郷さんは俺との夜が嫌だったんだろうか。
今まで、何度か繰り返した夜に対して、そんな言葉は一度だって聞いていない。
心配になってきた。
「……俺が嫌?」
「バカ言うな! 俺は純粋に、おまえに勝ちたいだけだ」
「……いつだって勝ってるくせに」
ふらりと、あちこちの店で本郷さんと出会う。
俺が気に入っている店を、本郷さんも気に入っている。
選ぶメニューだって、いつも俺が美味いと思っていた物を選ぶ本郷さんだ。
きっと深い知識と行動力が隠されているのだろう。
多分、俺はまだまだ追いつかないのだ。
「本郷さんから、俺がジョーカーを選んだら、今夜はもう終わりにして布団に入ろう」
「でもそれって、全然ババ抜きになってない」
「一回通りは引き合ったんだから、ゲームはやったよ」
首を傾げる本郷さんは、やっぱり酔っている。
「じゃあ、行くよ」
「お……おお……」
「はい」
適当に選んだ。
箸を持つ本郷さんの右手が好きだから、右手に近い方の一枚に決めていた。
「ぬおっ! 力石、おまえの負けだ!」
それが、ジョーカーだったのは、俺の運の強さかもしれない。
「負けでいいよ。じゃあ、眠ろう」
「おお……って、あれ?」
本郷さんから残りのトランプを取り上げて、山と一緒にこたつの端に片付ける。
そのまま、不思議そうに固まっている手を握りしめて、そっと顔を近づけた。
手にキスをするのは、気恥ずかしい。
けれど、本郷さんの目が大きくなったり閉じられたりするのを見るのは悪くない。
ようやく、夜が始まるような気がした。