昨日(106)はやや下ネタを混ぜてしまいましたが、あれはギャグです。
今夜はもうちょっとラブな方向を目指したい!
一応テーマは「うかつな力石」……ですが、もう何でもいい、かも。
本郷さんの家に来ると、こたつに吸い寄せられてしまう。
「お、力石。もう寝るのか?」
「……軽く冷酒でも飲むつもりでいるよ」
「焼酎、残ってるぞ」
本郷さんは、ビールと日本酒しか飲まない。
基本俺もそうだけど、たまに飲む焼酎や泡盛は、気分が変わって楽しい。
美味いもつ焼なんて、泡盛がものすごく合う。
そう言うと、本郷さんは口を尖らせるのだけど。
「ああ、芋か……そうだな、ちょっと飲んでもいいかな……」
本郷さんの家には、本郷さんの物しかない。
一人暮らしの長さを物語っているというか、誰もこの空間に足を踏み入れてないのだと改めて分かって、心底ドキドキする。
ここにいられるのは、今のところ俺だけ。
あれほど本郷さんが好きでたまらない爆乳関係も、現実には本郷さんに指一本も触れていないのだ。
特別すぎて、頭の芯から酔いが回る。
そんなロマンチックな気持ちで持ち込む訳ではないけれど、謎の何かに張り合うように俺が買ってきた物が、目につくようになっていた。
本郷さんは何も言わないし、片付けたりもしない。
日本酒やビールは、俺も飲むから買い足しておく。
つまみや肴は、一緒に出かけたり、帰って来る時に調達する。
慌ただしい朝に軽く食べられる物も、お互いに補充している。
そういえば、缶詰に関して、本郷さんはものすごく詳しい。
本郷さんの語るウンチクは、いつだって深くて楽しい。
俺はとても好きだ。
本郷さんの声や話し方は、俺の耳の奥に心地よく流れ込んで来る。
酒に酔っている時なんて、子守唄のようだ。
普段は、俺が眠る前に、本郷さんが落ちている事が多いけれど、そのうっかりしているところも、好きでたまらない。
優しく響く声を、この空間で聞いた人はいないなんて。
こんな贅沢があるだろうか。
「力石?」
声がした。
こたつに座ったつもりで、ゆっくりと背中を畳に吸い込ませて、天井を見上げていた。
本郷さんだって、同じ事をしているだろう。
真似をしたつもりはないけれど、この真似ならずっとしていたい。
「そんなところで寝るなよ。布団、敷いた方がいいか?」
「ん……十分くらいでいい。ちょっとだけ、こうしてる……」
うっかりしていた。
あまりの気持ちよさに、台所で飲み直しの準備に入っている本郷さんの存在を忘れていた。
俺もきちんと用意をする方だけど、本郷さんの用意も半端ない。
あれだけ食べ歩いている人だから、舌も目も、手も肥えていているのだろう。
不器用そうに思わせて、鍋など作らせると完璧だ。
「酔っ払ってるんじゃないぞ、力石」
本郷さんが枕元にいた。
まだ目は開く。
見上げて、笑ってやった。
「……酔ってない」
「そうか? んじゃ、答えてみろ。いちたすいちは?」
「さん」
こつん、と、軽く頭を叩かれた。
痛くも痒くもない。
けれど、甘さが広がっていく。
「……俺だけ飲むけど、いいよな」
「ダメ」
「適当に用意するから、ちゃんと起きられたら飲め」
立ち上がった本郷さんが、行ったり来たりする。
さすがに、俺の頭を跨ぐような人ではなかった。
けれど。
「……本郷さん、邪魔なら跨いでもいいよ……」
「バカ。背が伸びなくなるぞ」
「……そうなんだ……」
外見に不満はない。
今くらいで、本郷さんと並んで歩けるし、キスだって問題なく出来る。
「ま、俺としては、どっちでもいいんだけ、ど」
こたつの上でコップや皿の並ぶ音はしていた。
ようやく本郷さんが座り込む。
「力石も寝るんだな……」
大きく息を吸い込んでみた。
本郷さんの匂いがする。
「ビールも冷酒も、冷蔵庫にあるから、起きてから冷えたの飲めばいいよ」
「本郷さん、優しいな」
「そりゃ……大人の男だし。珍しい力石の寝てる姿で酒を飲ませてもらってるし?」
いつの間にか、俺が肴になっていた。
不本意だけど、しばらくこのままで、休んでいよう。
本郷さんが倒れるように眠る頃、俺はいつものように起き出すのだ。
「……本郷さん、甘いのと冷たいの、どっちがいい……?」
「ん? アイスかなんか? そいつは買い置きしてないけど……甘いの食べたい時ってあるよな」
眠る俺の頭を撫でる、本郷さんは優しい。
触れている手の優しさが、俺の睡魔に力を与えているようだ。
冷たいのは、すっかり去って行った。
目を開けられないほど眠い俺は、起きたら本郷さんに、とことんまで甘いキスをしようと思っていた。