強化月間の嘘つき(すいませんすいません)
やっぱり甘い二人が好きです。
ちょっとだけ捏造妄想はいりました。
力石の実家が気になりすぎるなあ(原作に出て来たら恥ずかしすぎる!)
自分のいびきで目が覚めた。
真っ暗な夜は、ちょうど真ん中をすぎた頃か。
「……ぬ……四時か……」
真ん中なんて、とっくにすぎている。
明け方という人もいるだろう時間だ。
まだ外は暗いけど。
何か、変な夢を見ていた。
うっかり、起きたタイミングで忘れてしまった。
「あれ?」
無意識に、枕元で充電中のスマホを掴む。
何やらメッセージが届いている。
「……力石だ」
昨夜は会わなかった。
というのも、力石はこの近辺にいなかったから当然だ。
埼玉の実家に顔を出す、と言っていた。
晩ご飯くらい一緒に食べてから、帰る時間はあるだろうと思ったけれど、そこは力石の時間だ。
俺が引き止める事などない。
しばらくずっと一緒にいたから、何やら調子がおかしい気がする。
力石に会わない夜。
俺一人の夜。
けれど、これが普通なのだ。
俺の選んだ店で、俺の陣立に打ち震え、勝利の美酒に酔いながら帰る。
いつも一人。
別になんの問題もない。
「……力石の奴、こんな時間に……腹でも痛いのか?」
そっと画面を見る。
短いメッセージが届いていた。
(おやすみ。言いそびれた)
「なんだ、こいつは。こんな時間に送ってくるか?」
思わず起き上がって、部屋の電気をつけた。
もう一度、じっくりと画面の文字を見る。
(おやすみ。言いそびれた)
力石の声が聞こえてくるようだ。
顔と、伸ばしてくる手と、熱い……。
「あ、そうか。力石は今から眠るのか……」
一人だと、おやすみの挨拶なんかしない。
ずっと忘れていた感覚だ。
「……ちょっと待てよ……」
慌ててボタンを押す。
こんなやりとりも、慣れない。
俺がオジサンだからではなく、相手がいなかっただけだ。
「もしもし、力石? 俺だ」
間違った。
メッセージには、メッセージで返せばいいのに、無意識に電話をかけていた。
「……本郷さん?」
「おはよう、力石」
「……おはよう……どした?」
電話の向こうで、声が笑う。
「今、おまえのメールで目が覚めた」
「え? そいつは悪かった……ごめん」
「ちょうどよかったよ。俺も、言いたかったから」
電話の向こうに力石がいる。
機械ごしの声だけど、力石に間違いはない。
「おやすみ、力石!」
「……え? 今、俺が起こしちゃったんだろ?」
「寝直す」
「……一緒にいるみたいだな」
力石の言葉に、スマホを落とすところだった。
「本郷さんの声が聞けて嬉しいよ。明日は……早い時間に帰る」
「お、おお……」
「おやすみ、本郷さん」
「……おやすみ」
通話が切れた。
俺から、切った。
わざわざ、力石の声が聞きたくて電話したような形になってしまった。
そんなつもりは全くなくて、ついうっかり、手が滑っただけなのに。
言葉と気持ちと手は、バラバラに動く。
「埼玉、そこじゃないか。何、地球の裏側にいる人に対するような……俺……」
力石は眠る。
俺も眠る。
離れていても、一緒にいるのと変わらない。
「……明日、早い時間って、どのくらい早いんだろ……」
冷蔵庫と、買い置きのビールを確認しようと思って、やめた。
帰って来てからのお楽しみだ。
「さて、寝直すか」
寝付きのよさは、俺の方がいい。
今夜も、絶対に俺が先に眠ってやる。
「……夢の中で待っててやるのも、アリか? 力石の奴、意外と迷子になるんじゃないか? なんたって、俺の夢の中だもんな……」
力石から、甘すぎる一言が届いていたのに気がついたのは、すっきり爽やかに目覚めた朝だった。