二人の休みとか勤務とか、全く不明な状態で話を進めています。
不意に「明日休みだけど」とか言いそう、力石。
明日が休みの夜は、きっと楽しい事が待っていると思われます。
「本郷さん、今夜の肴、出来たよ」
台所でいい匂いをさせていた力石が、嬉しそうな顔で皿を持って来た。
早くビールが飲みたくてたまらなかった。
「おお……美味そう!」
「本郷さんのはこっちだぜ」
「へ?」
俺の前に出された皿に乗っているのは、赤いソーセージ。
「タコだ!」
「切れ目入れるの、意外と難しいのな。俺、初めて知ったよ」
「へえ……」
力石の言葉は謙遜だ。
誰が見ても、どこから見ても、完璧としか言えないタコさんがある。
「これが、俺の?」
「こどもの日だから」
「何を……」
俺が言いかけた途中で、力石は台所とここを往復した。
用意していたのはソーセージだけではなかったのだ。
唐突に豆腐もある。
ポテトサラダと、イカの刺身。
全く統一感がないけれど、俺がいくらでも酒の飲める、大好きな品ばかりだ。
「ひとまず、こどもの日に乾杯」
「ちょっ、ちょっと待て。こどもの日で飲むのか?」
「飲まない?」
ようやく腰を落ち着けた力石が、俺にビールを注いでくれた。
俺もお返しに、力石のコップに芸術的な泡を立てる。
今夜は、お互いの休みがあって、力石が泊まりに来る事になっていた。
別に休みじゃなくても力石は泊まりに来る。
少し遅くまで俺が寝ていると言ったら、力石が肴を用意すると言ったのだ。
「なんでもいいぞ、別に。家で飲む時は、適当にあるものでやってるし」
「じゃあ、俺が適当に作るよ」
「力石、料理も出来るのか?」
「出来るってレベルじゃないぜ。適当だから」
「……むむ……」
ただでさえクールで格好いい魔狼の力石が、料理まで出来るとなったら、どこに弱点があると言うのだろう。
一応、俺も一人暮らしは長いから、自分の食べる料理くらいは作れる。
人に振る舞えるかどうかは不明だけど。
そこを、力石は軽く乗り越えた。
やっぱり俺の先を行く男だ。
「力石、すごいな……」
「何が?」
「こんな……用意出来て」
「ソーセージ焼いただけだぜ。後は買って来ただけだし」
力石は涼しい顔で答えて、ビールを飲み干す。
そう言うけれど、このポテトサラダは、俺が好きな店のだ。
わざわざあそこで買って来てくれたのかと思うと、少しは抱きしめてやってもいいと……もう少しで流されるところだった。
「タコだって、手が込んでる……」
「そこはな。本郷さん、絶対に似合うと思ってた」
箸で掴んで、食う方向を考える。
頭からか、足からか。
「えっ、俺、こいつ?」
「俺のイメージの本郷さん」
ずいぶん、子供っぽく思われたものだ。
潔く大口を開けて、一息に食った。
美味くてため息がもれると、力石が笑う。
「こういうのも楽しいな」
「ん?」
「家飲み。本郷さんといると、いっぱい楽しい事がある」
気恥ずかしい事を言う力石だ。
今夜は信じてやってもいい。
「言っておくけどな、力石よ」
「ん?」
「今日がこどもの日って、おまえが言ったんだよな?」
「ああ」
「じゃあ、今夜は添い寝で寝かしつけてやる」
力石の目が丸くなった。
一瞬だけ、俺が勝った。
「それって……」
「たまには子供の夜もいいんじゃないか?」
「そうきたか……」
目の奥が笑っている。
しまった。
力石に、考える機会を与えてしまった。
「ちょっと待った、添い寝って、俺言ったぞ。言ったからな?」
「添い寝ね。いいよ」
「……何か考えてる?」
「別に。添い寝か……」
念を押す力石の声が、嬉しそうだ。
タコさんを一口で食べたバチが当たったのだろうか。
力石の攻撃をなんとかかわす方法を考える事にした。