短い話ばかりなので、なんのアレにもなりませんが、今回100話目!
甘酸っぱい(最近少ないかも)のと、甘すぎるのと、ラブ増し。
ここらを妄想からめて、延々書き出して行きたいです。
今回はすごく普通の話になりましたが。
力石が食べているエビフライは、俺が分けてやった一匹だ。
この店はとにかく揚げ方がいい。
美味しいエビフライが、ものすごく美味しいエビフライに格上げされている。
「美味いか、力石?」
「ああ。すごくね」
ちょうど、エビの頭に齧り付こうとしていた力石に話しかけてしまった。
大口開けた顔を見るなんて、なかなか俺も幸運だ。
「本郷さんは食べないのか?」
「食べるよ、モチのロン」
いつもなら、力石よりも先を制する俺だけど、今日は違う。
先に店に入っていたのは俺。
向かい合わせに座った力石が注文しようとした物を、先に注文していたのは俺。
そして、エビフライを分けたのも俺。
二度ある事は三度ある。
あれは本当だった。
「嬉しそうだな、本郷さん」
「え? そう?」
うっかり、口元が緩んでいた。
クールな大人の男にあるまじき醜態だ。
唐突に力石が笑った。
「食べなよ、本郷さん。これ、本当に美味しい」
「お……おおよ」
輝くような力石の笑顔が、猛烈に俺の食欲を煽った。
力石よりも大きな口を開けて、エビのシッポに噛り付いた。
「シッポから?」
「え? 食べるだろ」
「俺、頭からいく」
そのクールな言い方。
途端に俺が格好悪い気がしてきた。
いつもの俺だって、男らしく頭からむしゃぶりつく。
カリッと揚がったここのフライは、頭の先からシッポまで、食べ尽くしても足りないくらいなのだ。
「ああ! 失敗だ!」
「失敗?」
「ケツから攻めた……」
「……ケツって……」
「まさかこのエビも、ケツをバリッと食われるなんざ、思ってもなかったはずだ」
かわいそうな事をしてしまった。
「それにな、魚は頭から食べると、頭がよくなるって言うだろ? 俺、正反対の事やっちゃったよ」
「……こいつはエビだけど……」
「ぬ。肉と魚に分けたら、確実に魚の仲間だろ。俺は魚の方に持っていくぞ」
「なるほど」
力石と意見が合った。
ついでに視線も合わせて、俺から笑ってやった。
「美味い物は、どんな食べ方をしても美味しいって事だな」
「おっ……」
俺が言いたかった事を力石が言いやがった。
悔しい。
今日は俺が力石の一歩前に出るはずだったのに。
「それと、一緒に食べる人な」
力石がビールを飲み干す。
俺も負けずに一杯あけた。
「すいません、ビール追加で」
「俺も」
半歩、力石に出遅れた。
俺はもう酔ってしまったのだろうか。
「本郷さん、マカロニサラダ食べる?」
「おお、食べる食べる。大好き」
さりげなく聞き流したけれど、今日の美味さのひとつは、力石にもあると思う。
力石がいると楽しい。
絶対に負けたくない気持ちと、流れるような陣立を見ていたい気持ちと。
その両方が俺を楽しくさせる。
半歩出遅れたら、大股で二歩くらい飛び跳ねたらいいのだ。
「よし! 食べるぞ!」
「俺も」
冷えたビールがやってきた。
いつものように、コップを重ねる。
何度聞いてもいい音だ。
笑う力石を肴に、一口飲んでやった。