盆の前にツイッターで呟いていたネタを小話にしてみました。すいません……
(呟いて満足なのがツイッターの危険なところです。小話書かなくちゃ)
【起き抜けに、転んだ本郷さん。
広がる水を見ながら、なすすべもなく。
(…昨夜酔っ払って水飲みかけたまま、置きっ放しにしてた…)
(ま、そのうち乾くか)
起きて来た力石に 「このウスラトンカチ!」
あっという間に拭いてしまう魔狼。
「風邪引くよ」
優しく濡れてる本郷さんの後始末】
色気を投入するはずが、全然……全然そうじゃなかったです。
「……酔っ払ってはあ、いません、よぉ、っとな……」
不思議な歌とも呟きともつかぬ響きに目が覚めた。
ふと、枕元にある時計を見て、時間を確認する。
四時。
昨夜は酔っ払った本郷さんを送って、そのまま帰りそびれたのだ。
今の状況を把握して、目を閉じた。
一緒に眠ればいいという俺の提案をひたすら固辞した本郷さんは、畳に転がった。
どれだけ、後で身体が痛むと言っても、聞いてはくれなかった。
(力石が布団使え)
(だから、一緒に……)
(むむっ……そんな、ハレンチなのはダメだ)
(ハレンチって……)
もう何度か同じ夜を過ごして、深い接触だって繰り返してきた。
さすがに、呂律も回らないような酔っ払い相手に、無理やり何かするほど、俺も若くはない。
一緒に眠るだけのどこがハレンチなんだろう。
本郷さんの貞操観念は、不思議で、でも嫌いじゃない。
(おやすみ、力石)
(おやすみ)
そんな甘い響きを聞かされてしまったら、もう家になんて帰れない。
即座に眠りに落ちた本郷さんを、ゆっくり見守る事にした。
勧められた布団に横たわって、身体を伸ばす。
このまま、自然に眠れそうな本郷さんの布団はとても不思議だ。
何か特別な素材で出来ている、超高級な布団だとは思えない。
それなのに、不意にあがった他人の俺を安心させてくれる。
「……布団にも、その人の性格とか現れるのかな……」
俺の眠るところは、こんなにも落ち着かない。
自分の布団なのに、おかしい。
本郷さんがいるだけで、絶対に違う。
俺は、本郷さんがいると、眠れる。
「まあ、いいか」
明日の朝の事は、ひと眠りしてから考える。
今夜は俺がいる方が、急に本郷さんが気分を悪くしても対応出来るだろう。
そのまま、目を閉じたのだ。
「おしっこは、トイレ……トイレ、トイレ……」
起き上がった本郷さんが、フラフラと歩き出す。
どうやら、酔いすぎて吐くのではなさそうだ。
「トイレ……痛っ!」
こたつに当たる音がした。
膝の下くらいだろうか、かなりぶつけた。
そのまま、倒れ込んだような本郷さんの動きと、水が溢れ出す音がした。
水?
何を置いてあったっけ。
蓋を開けたままのペットボトルが、こたつの上にあったはずだ。
「いかん。本郷さん、大丈夫か?」
慌てて起き上がって、電気のコードを引っ張った。
「おっ? いつの間に、自動で電気がつくようになったんだ? 俺んち、ハイテクだ……」
「ハイテクって、俺がいるから」
「おお、力石か」
こたつのそばに座り込んでいる本郷さんが、俺を見上げて笑った。
「なんかな、俺は今、水の流れの美しさを実感してるぞ」
「え?」
本郷さんの笑顔に、息が止まるかと思った。
見とれたのは本郷さんにではない。
ほぼ空になったペットボトルは、本郷さんの股間で逆さに立っている。
そこから腹、太ももから、足の方まで、しっとりと本郷さんは濡れていた。
「怪我してないか?」
「怪我? 大丈夫」
二リットルのペットボトルが、股間を直撃したのなら、こんな風ではいられないだろう。
そこは、安心した。
「あ、そうだ。本郷さん、それ、早く拭かないと!」
「流れた水がな、たまると、湖になっていくんだよ」
「バカ!」
大きく目を見開いた本郷さんの頭を軽く叩いて、俺は風呂場に飛び込んだ。
新しいタオルは、脱衣所の棚に突っ込んであったはずだ。
「バカ……って……? まさか、俺? 力石の方だよな?」
「本郷さん、ほら、タオル」
大した役には立たないとわかっていて、タオルを渡した。
何を思ったのか、いきなり顔を拭きだす。
怒る気持ちなんて、かけらもなかった。
「おお……力石、俺の湖……」
「本郷さん、これって、そのペットボトルの水をこぼしたんだよな?」
「そうとも言える」
タオルを探しながら、俺の中で気になることがあった。
本郷さんは、トイレを探して目を覚ましたのだ。
まさかと思うけれど、水をこぼした瞬間に、体内の水もこぼしてしまったんじゃないだろうか、と。
「……なあ、トイレって、今行く?」
「へ? ああ、そうだ。俺、トイレに行くんだったぜ」
ふらふらと立ち上がった本郷さんが、動きを止めた。
「……俺、トイレって、行くんだった? そんな感じ、全然ないんだけど……」
「……わかった。大丈夫だから」
全てを理解した。
本郷さんを風呂場に押し込んで、全部脱がせた。
軽くシャワーを浴びさせて、ひとまず、安心した。
「俺なあ、シャワーよりは、風呂がいいんだけど……」
「酔いが覚めたらな」
「おお」
新しいパジャマと下着を出してきて、着替えている様を確認する。
このあたり、酔っていても無意識に出来るらしく、着替えはきちんと一人で出来た。
あとは、ありったけのタオルを出してきて、畳の上をひたすら拭っていった。
そう広い範囲ではなかったものの、本郷さんが立ち上がった時に、少し広がってしまった。
ペットボトルの水と、水でない液体。
今夜くらい、俺がいてよかった事はないだろう。
「……すまんな、力石」
「ん?」
「起きてから……酔いが覚めてから、俺、片付けたのに」
「うん、それではちょっと遅いかな。畳に染み込むと厄介だ」
「すまん」
今度は大人しく布団に入ってくれた。
拭き終わって、タオルを洗濯機に突っ込んで、手を洗った。
後は全部朝になってから。
洗濯こそ、本郷さんに任せてもいいだろう。
ふと鏡にうつる自分の顔が、どうにもおかしくて、笑いが止まらなくなる。
これは、酔いの覚めた本郷さんに教えるべきなんだろうか。
「……まあ、いいか。普通に楽しいし……」
声に出して、頷いた。
本当に、本郷さんのする事は楽しい。
「力石、来いよ」
部屋に戻ると、すっかり布団と一体化したような本郷さんに誘われた。
さっき俺が同じ事を言った時は、ちっとも聞いてくれなかったのに。
「いいのか?」
「おお。寒いだろ」
「寒くはないけど……」
新しいパジャマの、本郷さんのそばに潜り込む。
肌触りがよくて、気持ちがいい。
何気なく、その延長を求めたい気分になってきた。
「……本郷さん、ひとつ聞いてもらいたい事があるんだけど」
「何?」
「ちょっとだけ、触ってもいい?」
「へ?」
酔っていても、ボタンはきちんと留まっている。
この几帳面さも大好きだ。
「おい、何を……」
「止まらなくなった」
「だから、力……!」
上から順番に外していく。
本郷さんの努力をなかった事にしてしまう快感も、悪くない。
「ちょっと、力石……力石って……!」
「うん。本郷さん、軽く、な」
「何がっ! こらっ!」
俺を止める手が、どうにもしがみついてくるようにしか思えなくて、ほんの少し、意地悪い夜を始めてしまった。