中の人おめでとうございます! な日に、捏造小話です。
そろそろ二人の誕生日が知りたいなあ。
まあ、誕生日でも、普通に飲んでるだけだと思うんですけど。
※ またしても訂正すいません。本郷さんはきっとアホじゃなくてバカって言いますね…直しました。
「本郷さん、おめでとう」
「……何?」
楽しくビールをひっかけていたら、頭の上から声がした。
見上げると、笑顔の力石が、俺を覗き込んでいた。
「ずいぶん高い所に止まってるじゃないか……」
「俺? ああ、悪かった。座るよ」
椅子を引く音がして、力石の座る振動が俺に伝わってきた。
今度は近い。
腕が触れる位置だ。
「ほら、本郷さん、身体起こして」
「ぬ……」
どうやら俺は、カウンターで顔を埋めていたようだ。
それで、力石の位置が高く見えたのか。
ゆっくりと、頭を起こしていく。
グラグラするほどは酔ってない自分に安心して、力石に笑顔を返した。
「本郷さん、ビール、まだいく?」
「ん? そろそろ冷酒かなって……」
今、メニューをにらんでいたのだ。
そのまま、少しだけ崩れてしまったけれど。
「じゃ、俺も。すいません、冷酒おねがいします」
いつ聞いてもまっすぐに通る。
耳をくすぐってくれるこの声は、本当は、嫌いじゃない。
「力石、一杯目から、冷酒いくの?」
「ああ」
珍しい。
力石が俺に倣うとは。
思わず、その顔を見つめてしまった。
すぐに届いた冷酒は、よく冷えていて美味そうだ。
ありふれたコップまで、輝いて見える。
「はい、本郷さん。おめでとう」
「……それな、何? さっきも言ったぞ」
「今日、誕生日じゃなかった?」
「へ?」
唐突に言われて、店内にあるカレンダーをにらんだ。
「あ、今日……ああ、そうだ。忘れてた」
おめでとうは、誕生日。
誕生日は、俺。
「力石、よく覚えてたな」
「この間、言ってただろ。ここ数年、何の予定もなくて、一人で飲んでるだけだって」
覚えがなかった。
確かにその通りだけど、全くモテない状況を、素直に力石に告げていたなんて、その時の俺は絶対にバカだ。
せめて力石には、爆乳の美女に囲まれてウハウハな時間を過ごしている、くらい言えばよかったのに。
嘘がつけない。
「俺でもいい?」
「へ?」
「本郷さんの誕生日を祝うの、俺でもいい?」
「……お、おお……」
料理も来た。
本当に、力石の注文の仕方は見事だ。
俺が頼んでいない美味そうな皿が並ぶ。
「じゃ、あらためて。本郷さん、おめでとう」
「あり、が、と……」
コップを軽く合わせる。
とてもいい音がした。
正直、飲み屋で美人に囲まれて祝ってもらった年もあるから、ずっと一人だった訳でもない。
ただ、飲み屋でのお祝いは、後でものすごく財布に響いた。
次の年から、思わず避けてしまうほどに。
特定の相手という選択は、たしかにしばらくなかった。
だから、目の前にいる男が、しばらくぶりの特定の相手になる、のだ。
「俺の誕生日か……一年って早いな……」
「本郷さんっていくつになるんだ?」
「ん?」
ちらりと、力石の顔を見た。
なんて優しそうな目で俺を見ているんだろう。
そういえば、年の話なんてした事はなかった。
他にも色々。
ほとんど、俺の話なんてしていない。
それは力石も同じだけど。
言えば、もっと深い付き合いになるかもしれない。
「……二十歳」
「えっ」
力石がコップを滑らせた。
中身はもう飲み干して入ってない故に、大惨事には至らなかった。
「信じた?」
「いや、ここでそんな冗談が出て来るとは思ってもなかったから……」
「……おい、本気で二十歳だったらどうする」
「俺よりずっと年下だよ、本郷さん」
新鮮な衝撃だった。
力石は、出会った時からあからさまに俺より若い。
実は俺よりも年上で、若作りをしているオジサンだった、とは、間違っても見えない。
これで洗練されていて、クールで、格好いいのだから、俺が勝てるのは積み重ねた年齢と、食の組み立て以外になくなってしまう。
その、最後の砦は、怪しい時があるけれど、まだ負けを認めてはいないのだ。
「そうか。俺って力石よりも年下だったか」
「おいおい、本郷さん、それは……」
「まあいいだろ。今だけ、俺、年下」
どんな理屈だろう。
酔っている自覚はないけれど、今夜はそんな気分だった。
「わかった。それじゃ、今夜は年上の俺が、ご馳走するよ」
「へ? あ、そんなつもりじゃなくて……」
「何食べる? 肉いく?」
「いく」
思わず食いついてしまった俺に、力石が今夜一番いい笑顔を見せてくれた。