ここらで入れないと、来年になってしまうネタ…(もうすでにいくつかありますが)
当たり前なんですが、力石から見た本郷さんは、半端なく可愛い。
可愛い中に、格好いいを見出したい!
何が変わったわけでもないと思いながら、新年早々の店を訪れる。
年明けの酒は、いい日本酒を置いてある店がいい。
そう思って選んだ。
店主に軽く頭を下げて、ふと見たカウンターに、本郷さんが座っていた。
「本郷さん」
「……んお?」
赤い顔をしている。
すでに、十分酒と肴を堪能している姿だ。
やっぱり。
俺が行く店には、高い頻度で本郷さんがいる。
別に細かな好みの話をした事はないけれど、本郷さんが選ぶ店は大抵美味い。
安くて美味い店を見つける勘は、鋭いと思う。
そんな本郷さんに会えたのだ。
今年も、いい始まりになりそうだ。
「本郷さん。今年もよろしく、だな」
「おお、俺は勝つからな」
「?」
本郷さんの隣に腰を下ろして、今年最初の酒を注文した。
続けて料理も忘れない。
「力石よ。お年玉は貰ったか?」
唐突に、本郷さんが俺に話しかけてきた。
正月らしいといえば、らしいけれど、何を基準にしているのか、さっぱりわからない話題だ。
「え? 俺はそんな年じゃないけど。むしろ、あげる方だよ」
「へえ……」
俺の言葉に納得していない表情で、酒を飲み干す。
美味しそうに、本郷さんの喉が鳴った。
その姿を見ながら、そっと手を伸ばして、徳利を掴んだ。
まだ残る酒は温かい。
「本郷さん、どうぞ」
「おお」
今年初めてのお酌、だ。
いつも顔を合わせて飲む時は、自分のペースを大事にして、手酌が多い。
けれど、会話のきっかけに、徳利を向けるのはとても便利だ。
本郷さんとは、注ぐのも、注がれるのもいい。
「それじゃ、本郷さんはあげたんだ?」
「いや……あ、俺は、俺にあげたよ」
「え? それって、普通に貯金とか?」
「この酒が、お年玉。俺の。いいだろ」
そう言って、とろけるように笑った。
俺の心臓が跳ねる。
どうして、本郷さんは、可愛いとしか言いようのない表情をするんだろうか。
「……じゃあ、俺があげようか」
俺の注文した熱燗がやってきた。
多分、本郷さんが飲んでいるのとは違う銘柄だと思う。
ひとまずの料理も届いて、俺の前も華やかになる。
「はい。本郷さん」
「おお、すまんな」
お猪口を持つ本郷さんの指先から、何やら嬉しそうな気配が感じられた。
本当に、分かりやすい。
「アチっ……美味い……」
「いい温度だね。燗酒は奥が深いよ」
「たまらんな。この匂いも最高だ」
この店は、日本酒の品揃えもよくて、店主の燗のつけ方が絶妙に美味い。
麗しい匂いとは、燗酒のためにあるような気がする。
本郷さんも、ちゃんと知っているのが嬉しい。
「そうだ、力石。正月に飲む酒は、おそとって言うの、知ってたか?」
「……おそと?」
聞き返してしまった。
途端、本郷さんの口元が緩んだ。
「やっぱり知らなかったか」
「いや、知らないじゃなくて……」
「いいじゃん、いいじゃん。おそとは、実に正月だ」
本郷さんは、酔うと声が大きくなる。
俺は別に構わないけれど、すでに店内にいる他の客が、こっちをちらっと見ている。
「本郷さん、おそとじゃなくて、お屠蘇だ」
「おそ、と?」
「お屠蘇」
「おそと」
あっと気がついた顔をして、本郷さんが手を叩く。
「なるほど。言い間違ってたか。酔いが回ってるな、俺」
「……直ってない……っていうか、そんなに飲んでないだろ」
「今から飲む。おそとは縁起物だ」
ダメだ。本郷さんのおそとが直らない。
けれど、こんなにも嬉しそうな顔で、正月の酒を飲む機会は、来年までないだろう。
せっかくだから、間違ったままの本郷さんを楽しむ事にする。
お屠蘇も、おそとも、響きは似ているし、何より、本郷さんの声がいい。
「まさか、力石とおそとを飲むとは、思ってもなかったな……」
「……確かに」
本郷さんを知る前の俺は、どうしていただろう。
そんなに昔の事じゃないのに、さっぱり思い出せない。
どこで、どんな風に食べて、飲んで、酔っ払っていたのか。
「本郷さんと飲むと、酔いがまわるよ」
「……酔っ払え」
「ん?」
「今年もいい事がありますように、ってな」
本当にそうだ。
「酔っ払う事にする」
「よし、酔わせてやるぞ。楽しみだ」
俺の言葉に、本郷さんが追加の酒を注文した。
本当に嬉しそうだ。
見ているこっちも、嬉しくなってくる。
そういえば、どれだけ飲んだら動けなくなる本郷さんのように酔っ払うのか、俺は自分を確認した事がない。
今夜は、もちろん俺も酔うけれど、その倍は、本郷さんに飲ませてやる。
お年玉をあげる約束をしたのだ。
「本郷さんがいるだけで、楽しい正月だな」
「おうよ。さあ、飲んでくれ」
実に甲斐甲斐しく、俺についでくれる本郷さんの動きが、そろそろ怪しくなっていたのが、また楽しくてたまらなかった。