色々書き進めては、手が止まる状態なのは、萌えネタを頭に詰め込みすぎたせいだと反省。
(T田さんの映画を見すぎました)
そして、多分一番いかんのは、本郷さんと力石の揺るがない関係……
単行本を読み返すたび、けしから〜〜〜〜ん!ってなるこの、この満足感が!
満足してダメになる(笑)
今夜は寒いし、いつもの甘酸っぱい小話で、頭を切り替えます。
「本郷さん、寒くない?」
熱燗で、身体の芯から温まっている俺に、力石がおかしな事を言い出した。
「おまえ、酔ってるんだろ」
「酔ってないけど。ほら、今夜、雪になるって」
「へえ……そうなんだ」
「外は、風の音がすごいよ。ここでも聞こえるんだから」
天気なんてあまり気にしてなかった。
確かに、今日は昼過ぎから急に冷え込んで来た。
雪が降ってもおかしくない。
だから、今夜は天ぷらにしたのだ。
熱燗と、熱々の天ぷら。
最強の取り合わせがあれば、寒さなんて飛んで行ってしまう。
雪だって、いくらでも降ってきやがれ、だ。
「あ。力石は、海老が好きだったよな」
「……そうだっけ? まあ、なんでも好きだけど」
「ほら、食べたらいい」
「……どうした、本郷さん」
俺も海老の天ぷらは大好きだ。
むしゃぶりつきたいくらい、大好きだ。
でも、それを力石に譲ってやる、この心の広さ。
「俺に、温かさを感じるだろう」
力石が、俺の顔をマジマジと見つめる。
一瞬、ものすごくいい笑顔を俺に向けた。
ためらいもなく、箸を伸ばして、海老を取る。
「……いただきます」
「おう」
サクリと、いい音がする。
俺は、じっと力石の食べる様を見ていた。
「……本郷さんは食べないのか?」
「食べてるよ。俺は今、蓮根の穴について考えてたんだ」
「どういう……」
「なんで蓮根って、こんなに穴が開いてると思う?」
今の時点で、正しい答えは持ってない。
気持ちよく酔っている俺が、たまたま箸をつけたのが、蓮根だっただけだ。
力石は、真面目に考えている。
俺は、こいつの無言も、この顔も、嫌いではない。
「……そう、だな。いくつもの未来を、見通せるように、かな」
「へ?」
「例えば、海老の天ぷらだけど、本郷さんが、食べた未来もあった訳だろ?」
「……ほう……」
「何か、変わったかもしれないよ」
難しい事を言いやがる。
一瞬の間で、ここまで考えた力石と目があった。
「ま、そういうのも楽しいかな、って。大した答えじゃないけどね」
「むむう……」
いくつもの未来とは、大きく出られた。
その理屈でいくと、俺が、力石を完膚なきまでに叩きのめす夜があるという事だろうか。
いや、それは絶対に来る。
近い将来、必ず、確実に。
「……力石よ」
「ん?」
「俺は今、ちょっとだけ酔ってるけど、酔ってない未来もあるんだな」
「……まあ、そうなる、かな」
「おまえの方が、ベロンベロンに酔っ払って、二度とこの店に来られないって嘆く夜もあるんだな?」
「あ、それはない」
あっさりと否定された。
頭を殴られたようなショックがある。
「え、なんで?」
「俺、そこまで酔わないし」
「いや、でも今の話の流れじゃ……」
「酔いのコントロールくらいは、出来るからね。普通に」
己の情けない姿を思い出して、口元が震えてしまう。
酔いのコントロールって、美味い酒を飲んで、美味い料理を食べている時に、そんな気はつかえない。
もしや、そこが、俺と力石の差。
「本郷さんもだろ?」
「へ……」
「楽しく酔ってるんだから、いいんだろ?」
「あ……まあ、それは……ある、かも……」
「俺は楽しいよ。それに、本郷さんが二度と行けない店があるんなら、一緒に行ってあげるよ」
そう言って、力石は笑った。
どう聞いても、いい人でしかない。
思わず、顔を隠してしまった。
「力石……」
「俺にはそういう店ってないから」
感激したのに、最後の最後で叩き落とされた。
俺の耳にこだまする。
泥酔してないアピールか。
確かに、力石の酔っ払ってみっともない姿は、見た事がない。
「……蓮根、食べる」
「え?」
「俺も、未来を見る……」
ゆっくりと顔を上げて、力石を睨んでやった。
ベロンベロンに酔っ払った力石が、俺に介抱される夜が来ますように。
もっとみっともない、昼間の泥酔でもいい。
この先、いつか。
「本郷さんといると、寒いのを忘れるよな」
「……そう?」
「温かさは、しっかり受け取ったから」
熱燗の徳利がやってきた。
いつの間に追加したのか。
力石のこういう所が、憎い。
「俺からも、温かい所を」
「……これは、おまえじゃなくて、熱燗の温もり」
文句を言いながら、俺は、手にしたお猪口を、力石に差し出した。