色々と止まらなくなり、ひとまず置き場所をつくりました。
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「本郷さん、今夜雨だって」
「ああ、そんな天気予報だったなあ……」
俺の返事を聞きながら、力石は酒を飲む。
ちょうどいい感じのお猪口に、ゆるく冷めてきた燗酒。
色んな物が似合う男だと思うけれど、日本酒が似合うのは許せない。
俺も掴んで、そっと飲む。
「本郷さん、美味そうだ」
「俺?」
「いつも、美味しそうに飲むね」
今のは、褒められたのか。
穏やかに笑う力石に、つい頷いてしまった。
「天気と言えば……」
「本郷さん、傘……持ってないよな?」
「俺? 帽子も被ってるし、結構雨には強いぞ」
「いや。俺の方が強いと思う」
左手が、パーカーのフードをちょっと掴んで見せびらかす。
パーカーだからといって、力石が濡れていいわけはない。
「まあ、飲んで帰る間くらいは、雨も待っていてくれるだろ」
「そんなもんかね」
時々、年寄り臭い言い回しをする力石は、イカの沖漬けに凝っている。
ここ数回、会う度一皿は沖漬けを選んで飲んでいるようだ。
なんとなく、そういう事がわかるのは、不思議だけど嬉しい。
少しだけ、力石を知ったような気になる。
「ここの、美味いよ」
「沖漬けか?」
皿をこっちに向けて、力石が勧めてくれる。
正直、力石のおすすめで、口に合わなかった物などない。
力石の選び方がいいのか、俺との相性がとてもいいのか。
「いくらでも酒が飲めて……危険だよな」
そう言って、可愛い顔で笑いやがった。
「そいつは危険だ。俺も気をつけなくちゃな」
「本郷さんが酔っ払ったら、俺が連れて帰ってあげるよ」
「……それ、こっちのセリフなんだけど」
自信は全くない。
出来るなら、同じくらいの酔いで、俺がほんの少し勝っていればいい。
「雨降るとさ、酔いが覚めちゃうから勿体無いんだよな……」
「あれ、不思議だよな。雨の湿気で酔いが吸い取られるとしか思えない」
「力石もそう思うか?」
「次雨が降ったら検証しようか」
「おお!」
まだ降るとは決まっていない。
けれど、こうやって話していると、雨も楽しめるような気がする。
力石といるだけで、何もかもが違う。
「雨になったらさ、用意ドンで飛び出そうぜ」
「……本郷さん、それは絶対に走れなくて、すぐ倒れるって」
「おいおい……もう酔っ払い扱いか……」
「俺も倒れると思うけどな。一緒に」
酔っ払って倒れても、力石がそばにいるなら大丈夫かもしれない。
「なあ、そこで倒れても、まだ飲むよな?」
「本郷さんが飲むならね」
やっぱり、力石の言い方は格好よすぎる。
どちらからともなく手を伸ばして、お猪口を合わせた。
いい音がする。
もう少し飲む宣言にしては、とても優しい音だと思った。