初めて書いたネタが桜でした。
呟きも含めると、結構繰り返している気がするんですが、まだまだ足りない……!
同じ木の枝でも、昨日と今日では少し違うし、今日と明日ではまた違う。
本郷さんと力石が、ずっと一緒に見ていたらいいなあと、マジでしみじみ思うのです。
(これいつも言ってて…しつこくてすいません)
桜の枝を折ってはいけない。
自分の庭の木ならいざ知らず、桜はそっと見上げるのがいいのだ。
そう言われて育ってきたせいか、花びらが散ってきたら、口を開けて追いかけてしまう。
雪じゃあるまいし。
子供の頃、何度笑われた事か。
今日は店先に大きな桜の木がある居酒屋を選んだ。
天気がよければ、外でも飲める。
この季節だけの贅沢だ。
夜桜もいいけれど、ゆっくり飲みながら見るなら日中がいい。
運のいい事に、今日は他に外で飲む客がいなかった。
俺だけの桜だ。
腰を据えて飲もうとしたら、力石がやってきた。
「ここの桜で一杯とは……本郷さんもよく知ってるよな」
「……お、おお」
「一緒に飲む? あ、一人が好きだったっけ?」
俺が桜を独り占めしているように聞こえた。
冗談じゃない。
「いいよ、一緒に飲もうぜ。桜は二人くらいで見るのが楽しい」
「へえ……そりゃ光栄だな」
笑う力石が、俺の隣に腰を下ろした。
一緒に飲む相手は、力石でなくてもいい。
けれど、今は力石がいい。
「本郷さん、何飲むんだ?」
「燗酒」
「ああ、俺もだよ」
力石は俺の食における、最大のライバルだ。
いつだって、俺が見落として悔やむ陣立を決めてくる。
今度こそ俺の勝ちだと思っても、力石の底力は恐るべきものがあるのだ。
悔しい。
けれど、ここまで俺を本気にさせる相手はいない。
「本郷さん、ほら、見てくれ」
力石が差し出したお猪口の中に、桜の花びらが浮かんでいた。
「おお! どうした、それ」
「今、偶然ここに落ちた」
「なぬ……ぬぬぬ……おまえは、桜の花びらにも選ばれた男なのか……」
羨ましくないわけがない。
お猪口で花びらを受けるのは、とても難しい。
俺も昔、何度か挑戦した事がある。
待ちきれずに追いかけて、ふらふらになって泥酔した記憶が蘇る。
花びらを追うのは、酒が回るだけだ。
力石は、情けない泥酔姿を晒す事もなく、ごく自然に桜を手に入れた。
「今までこんな事なかった。本郷さんといるからかな」
「お……」
力石が、お猪口を俺に差し出した。
「何?」
「取り替えっこしよう」
「え……」
何かの企みかと思う。
力石は笑顔で俺を陥れるのだ。
騙されてはいけない。
けれど。
今日は力石と飲んで、桜を見る。
多分、明日も力石と一緒がいいと思う。
この笑顔に騙されて、またしても敗北を味わう事になったとしても、今年の桜は力石と一緒に見たい。
「ありがとう」
桜の花びらの浮かぶ燗酒は、今まで飲んだ事がないくらい、美味しい気がした。