うっかり寝てしまいました(涙)
独り言みたいな歌を歌ってる本郷さんに萌えすぎます。
力石じゃないけど、こっそり側で聞いていたい!
(自分で突っ込みますが、砂漠って事にしておいてください……すいません)
雪が舞う夜だ。
軽く飲んで帰るつもりが、入った店の隅でやや出来上がっているいつもの姿を見た途端、じっくり腰をすえる方向に決まった。
「おお、力石。寒かっただろ」
「少しね」
「パーカーがキラキラしてる」
本郷さんに言われると、水に変わった雪が宝石か何かのような気がしてくる。
払うのも惜しい。
「そういや雪って、積もるとキラキラして、眩しいよな」
「晴れた朝とかな」
「あの雪の中に飛び込むと、俺もキラキラするんじゃないか?」
「……本郷さん、そんな事したいんだ」
「しないよ! 俺じゃなく……そう、力石に全力でオススメする。モテるぞ」
「別にいい」
それがモテるという意味がわからないけれど、酔った本郷さんとの会話は楽しい。
俺も早く酔いたいと思わせるほどに。
「今夜の煮付け、すごく美味い」
「ああ、いいね。俺も食べようかな」
本郷さんの顔が輝いた。
全力で、俺に煮付けを勧めてくる雰囲気がすごい。
今本郷さんが食べている皿の残りを分けてもらってもいいと思ったけれど、俺が注文したのをまた分けるのもいいだろう。
「煮付けの歌が聞こえてくるぜ……」
最近気がついたけれど、本郷さんはよく歌う。
いや。歌というきちんとした物ではなく、独り言に節がついている形だ。
俺がいる事に気づくと、困ったような顔をするけれど、またすぐに忘れて歌い出す。
それらは、本郷さんのいない時間に思い出すような、中毒性のある歌なのだ。
本郷さんの声は不思議と耳の奥まで染み込んでくる。
笑っても、怒っても、歌っていても心地よい。
もしかしたら、本郷さんの職業は音楽家なのかもしれない。
「力石、もっと飲めば?」
「ああ、いただく」
本郷さんが向ける徳利が、軽く俺のお猪口に触れた。
この音もいい。
「おっと……もう残り、ない、か?」
耳の側で徳利を振っている。
残念ながら、酒の音は聞こえない。
「本郷さん。熱燗、もう一本いこうか。まだ飲むよな?」
「飲む!」
今年の冬は寒い。
つい、燗酒がすすんでしまう。
目の前に、美味しそうに飲み干す人がいるのも、いい肴だ。
「……雪の砂漠を、はるばると……か」
箸袋を折りながら、本郷さんが呟いた。
俺の箸が止まる。
「本郷さん、それ、雪だったっけ」
「え?」
「今の歌」
「……俺、歌ってた?」
無意識に歌うのも、本郷さんらしい。
「雪の砂漠……あ、あれ、月か」
「今気がつくかな」
「寒すぎるからなあ……たまにはいいだろ。今夜、寒い中をここまでやってきた力石の歌だ」
「そりゃ、光栄だな」
俺が来た事を歌にしてもらった瞬間、目の前に広い景色が見えた気がした。
本郷さんこそ、砂漠の真ん中にいてもこの姿のままだと思う。
「……何笑ってるんだ? 俺の間違い……」
「いや……」
世界中のどこに本郷さんがいても、俺は探せるような気がした。
「なんだっけ、間違い探しじゃないけど、絵の中にいる人を探すヤツ」
「何かあったな……」
百人いても、千人いても。
世界中の人が本郷さんと同じ格好をしていても。
「俺、本郷さんは見つけられる」
「じゃあ試しに、砂漠にでも行くか」
実にスマートな誘い方だと思った。
「……いいね」
「あのあたり、魚が美味いんだったな。カニとか」
「カニは魚?」
「海のお友達。山にはいないだろう」
本郷さんが、両手でカニの真似をした。
その手の動きがあまりにも可愛くて、笑うのも忘れて見入ってしまった。