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おもいつくままに

色々と止まらなくなり、ひとまず置き場所をつくりました。

71■ おにぎり

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71■ おにぎり

ジャムトーストのことを考えていたのに、なぜかおにぎりの話になりました。
どっちも本郷さんには似合うので、ヨシ。
なんて事ない話をしている二人も大好きです。






「力石よ、聞いてくれ……俺の悲しい話を」

本郷さんが完全に酔った。
こんな瞬間はなかなかお目にかかれない。
いつもは楽しそうに飲んで、ゆっくりと酔っていくのだ。
今夜はハイペースで酒を急ぎ、唐突に崩れた。
少し俺にくっつくようにして、バランスをとっている。
これは悪くない。

「どした」
「俺、今朝はご飯が食べたかったんだ」

珍しく、早い段階でおにぎりを食べているとは思った。
酒はいつもの半分。シメの時間ではない。

「なかったのか?」
「あったよ。最高のササニシキ。わざわざ取り寄せて、今朝に合わせて炊いたんだ」
「自分で?」
「モチのロン。他に誰がする?」

突っ込みたかったけれど、あえて口をつぐんだ。
昨夜も本郷さんは一人でいたらしい。

お互いの詳しい生活に関しては、まだ知らない事が多すぎる。
別に酒の席で打ち明けるような事でもないから、そのままにしているけれど、俺は、もっと知りたい。

本郷さんくらい不思議な人なんて、どこにもいないだろう。
日中何をしているのか。
俺と会わない時の食事は、一人なのか。
本郷さんと感覚の合う人が、他にいるんだろうか。

なんて、一つ聞いたら止まらなくなりそうだ。
こんな事で嫌われるのも、引かれるのも辛い。

本郷さんとだけは離れたくない。

「でな……って、あれ? 俺、何の話してた?」
「ササニシキのご飯」
「そうそう、朝食の陣立は、完璧だったんだ」

今気がついたけれど、本郷さんは、献立を陣立と言うらしい。
なかなか古風な言い方だ。
俺も覚えておいて、そのうち使ってみよう。

「そしたらさ、おかずが何もなくてな……」
「何もって事はないだろ。納豆とか、沢庵とか……」
「それら全て、前の夜に肴にしてた」
「ああ……」
「炊きたてのご飯の泣き声が聞こえてきたんだ!」

想像しただけでおかしい。
ご飯の前で右往左往する姿が見える。
悲しい時の本郷さんの顔は、実に悲しそうなのだ。

表現力が豊か、というのだろうか。
本郷さんには不思議すぎる魅力がある。

「で、食べなかったのか?」
「塩でおにぎりにした」
「へえ……」

伊達に長い間一人暮らしはしていない。
食事面も、外で食べるばかりでなく、きちんと自分で用意して食べられる。

本郷さんが、完璧な人間に思えて来た。

「そしたらな、ちゃんと丸くならないの」
「……そいつは……」
「こう、手で握ってな、丸くって呟きながら丸めたのに……」

丸く、丸く。
本郷さんの手が空気を丸める。

「三角になるんだよ」
「……その手つきだと、丸くはならないだろ。三角のおにぎり作ってるよ」
「え? 三角ってのは、角を尖らすだろ?」
「……角を尖らす?」

俺もつられて、手を出した。
本郷さんの真似をして、おにぎりを握る仕草をする。

「ぬ……力石のおにぎりは丸いぞ……」
「そう? 本郷さんと同じ手つきだけど」
「いや! その手は丸いおにぎりを握ってる! くそ……」

悲しそうな声が、沈んでいく。
本郷さんが、テーブルに顔を沈ませた。

「おっと……」

皿やコップにぶつかる前に、帽子を取ってやった。
隣の空いた空間に避難させる。

久しぶりに見た、本郷さんの後頭部だ。

俺は、本郷さんの頭の形も好きだ。
本人は、遠い将来、髪が薄くなる心配をしているけれど、これだけ健康的な食生活をしているのだから、気にする事はないと思う。
酒は飲むけれど、頭髪に影響はしそうにない。
しても、いい。

「本郷さん、俺、本郷さんの髪が薄くなっても、いいと思うよ」
「なぬっ! 俺の髪、そんなに薄いところがあるか?」

飛び上がった本郷さんが、さっきまでおにぎりを握っていた手で頭を撫でる。
頭のてっぺんから、こめかみのあたりと後頭部と、マッサージしているみたいに、ゆっくりと指が移動していく。
どっちにしろ、この手は優しい。

「それはない」
「嘘じゃないだろうな……」

そっと手を伸ばして、本郷さんの手の上から頭を撫でる。

「おい……」
「俺が保証する」
「力石の保証か……」
「ダメ?」
「……よしとしよう」

ちらりと俺を見て、嬉しそうに笑った。

「俺、髪は大丈夫なんだってさ」

誰に言ったのか。
思わずあたりを見回してしまった。

「力石って、いい奴じゃないのか? もしかして」
「いい奴だよ。いつも」
「よし。いい力石に、酒をごちそうしよう」

徳利が追加された。
酒は嬉しい。

「あ、本郷さん、今の話の、本郷さんの握ったおにぎり食べたい」
「なぬ? あの謎の形を?」
「丸くても、三角でも、おにぎりはおにぎりだろ」
「……まあ、そうだけど……だな、よし。食べに来い」

今の言葉の響きは気に入った。

甘い返事を返してしまいそうな気がして、慌ててお猪口を手にとって誤魔化した。



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プロフィール

HN:
タケル
自己紹介:
本力にどハマりしました。
そしてドラマ版を見たら、本郷可愛さにグッと胸掴まれて……(萌えは勝手です)結局、二人が好きなのだと、自分で納得。

小話は「■ 本力」「□ 力本」分けてみました。
ほぼ変わりはないけど、ひとまずの目安にしていただけたらです。
(小話が増えてきたので、自分の確認の意味も込めて、番号も振ってみました)

とにかくもう、二人が可愛くて(格好よくても含まれる)たまらんので、日常っぽい短い話や、覚え書き等、こそっと置いていきます。

※ 原作の感想は、金曜の朝頃、バレはないように萌え語ります……(この発散もしたくて作ったブログなので)


つぶやき @takerun_001
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サークル 本郷格好委員会

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