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おもいつくままに

色々と止まらなくなり、ひとまず置き場所をつくりました。

66 ■ 月とうさぎと力石と

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66 ■ 月とうさぎと力石と

満月の夜に更新していれば、大目に見てもらえたかもしれないのに……
いつもよりちょっとだけ甘い感じのお月見です。
そして、本郷さんは月のうさぎが好きっぽいと、勝手に決めつけてます。











力石は、今時の若者だから、きっと知らないに違いない。
中秋の名月。
不思議と、月がでかく、まんまるに見える夜だ。

「本郷さん、知ってる?」
「なんだ?」
「コップのビール。上から見てみ? 月っぽいぞ」
「へ?」

力石が手にしたコップを、俺の前に突きつけてくる。
コップは丸い。
ビールは黄金色で、月に似ている。
そして泡は、月を隠す雲だ。

「……ほんとだ」

悔しい。
なんと粋な見立てをする男だろう。
この場で、俺が、それを言いたかった。

「いい月の夜だな」

そう言って、力石は満足そうにビールを飲み干した。
じっと睨みつけていたけれど、力石の口元には泡のカケラも残らない。
実にきれいな飲み方だ。
俺がすると、絶対に泡が残る。

いつも、いつも、いつも。
全く、何が違うんだろう。

「本郷さん?」
「お、おお。秋が来ても、ビールは美味いぜ」

力石と月を見るなんて、今まで何度もあった。
折れそうに細い月。
きれいな三日月。
やや太り始めた半月の前。
そして、ゆっくりと戻っていくその姿。

「……思い出したぞ」
「何?」
「この前な、力石、太った月見上げて、笑った」
「……そんな事あった?」
「視線が、俺の腹を見てた」

肩がわずかに揺れた。
今、力石は笑った。

「あの時の月ね。半月からやや丸くなった感じが、食べ過ぎて腹出してた本郷さんに、すごく似てた」
「……こ、こいつ……」
「なかなか見られない姿だよな。本郷さんといると、いつも本気で楽しい」

バカにされたのか、褒められたのか。
拳を振り上げようと思ったけれど、大人気ないからやめた。

そっと月を見上げてごまかす。

今夜は、力石の希望で、屋台で飲んでいた。
少し冷えるけれど、酒と肴の美味さで問題はない。
駅の向こうで会わなかったら、俺は普通に店の中にいただろう。
こんなにきれいな月にも気づかず。

(せっかくだから、月を見ながら飲もうよ)

あの時点で、力石の粋には勝てなかったのだ。
まだ負けは認めたくないけれど、悔しい。

「今夜、天気がよくてよかったな」
「全くだ。うさぎも跳ねてるだろう」

月にはうさぎがいる。
俺が子供の頃には常識だった。
今でも、少し信じている。

「本郷さん、うさぎ、落ちて来たらどうする?」
「へ?」
「今夜みたいに丸い月、うっかり、足を滑らせそうだ」

らしくない発言に、月と、目の前の顔を見比べてしまった。
力石はちっとも酔ってない。
俺だって酔ってない。

「そうだな……ちょっと手を伸ばして、落ちて来たヤツ、全部俺が捕まえておこうか」
「……食べるのか?」
「おまえなあ……月から滑ってくるようなおっちょこちょいだ。酒でもごちそうしてやる」
「酔っ払ったら、帰れなくなるかもな」
「……ああ、そうか。長期滞在になる可能性があるな。そういえば、うさぎって、鳴いたっけ。あんまりうるさいと、俺んち的にまずいんだけど……」

途端に力石が笑い出した。

「……なんでそんなに笑うんだよ。普通だろ? だって、月って言えばうさぎだし」
「長期滞在っての、今、ちょっとキタ」
「勝手に笑ってろ」

二杯目は、早々に頼んでおいた熱燗がやってきた。
お猪口を受け取って、力石と分け合う。

徳利は俺がそっと掴んで、力石に向けた。
とくとくと、響く微かな音を、追いかける。
力石も、耳を傾けているようだ。

多分、音楽の趣味は合わないと思う。
年が違いすぎるのだ。
きっと若い力石には、俺の好きな音楽は理解出来ないだろう。

俺は、理解する懐の広さは持っているけれど。

「いい音だ」
「おお」

酒を注ぐ音に関しては、俺たちくらい感覚の合う関係はないかもしれない。

力石は、いいヤツだ。

「……本郷さん」
「ん?」
「うさぎに飲ませたらダメだよ」
「……あ、そうか」
「その分、俺が代わりに飲もうか」

思わず、頷いてしまった。
落ちて来たうさぎを捕まえていく夜は、力石が隣にいるのか。
それは、なかなか楽しい酒になるかもしれない。

「そういう月の晩が来たらな」
「ああ」

同じようなタイミングで、ぐっと酒をあおった。
 

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プロフィール

HN:
タケル
自己紹介:
本力にどハマりしました。
そしてドラマ版を見たら、本郷可愛さにグッと胸掴まれて……(萌えは勝手です)結局、二人が好きなのだと、自分で納得。

小話は「■ 本力」「□ 力本」分けてみました。
ほぼ変わりはないけど、ひとまずの目安にしていただけたらです。
(小話が増えてきたので、自分の確認の意味も込めて、番号も振ってみました)

とにかくもう、二人が可愛くて(格好よくても含まれる)たまらんので、日常っぽい短い話や、覚え書き等、こそっと置いていきます。

※ 原作の感想は、金曜の朝頃、バレはないように萌え語ります……(この発散もしたくて作ったブログなので)


つぶやき @takerun_001
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サークル 本郷格好委員会

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