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おもいつくままに

色々と止まらなくなり、ひとまず置き場所をつくりました。

60 ■ 狐の尻尾

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60 ■ 狐の尻尾

唐突に、四巻最初の話の後って感じで。
リベンジ、果たせたか? 的な話(のつもりです)










いつだったか、史上最大に気を抜いて酔っ払った姿を、力石に見られた夜がある。
忘れもしない。
お狐様をお参りした後、ゴキゲンで吸い込まれた最高の店での出来事だ。
あの時の俺は、狐にいたずらした訳でも、雑に何かをやらかした訳でもない。
それなのに、力石に何度も肩を叩かれて、ようやく気づいた時には、口に物をいっぱい詰め込んでいたのだ。
子供じゃあるまいし。
あんな情けない姿は二度と晒したくない。

「あっ……」
「どした?」
「い、いや、何でもないよ、うん」

あの時の心の傷は癒えた。

そう思った今夜、じっくりゆっくり飲むつもりで、再びこの店を訪れたのだ。
穏やかに飲み始めていたのに、不意打ちで、力石と遭遇した。
笑顔で相席をしたものの、思い出すのは前回の苦い記憶ばかりだった。

べろんべろんに酔っ払った、情けない俺の姿と、それを笑う力石の悪魔のような顔が、頭から離れない。

「本郷さん、今夜四合瓶とは、攻めるね」
「だってここ、こんな美味いのが安いんだよ」
「ああ」

そう言って笑う力石は、熱燗を二合、じっくりと楽しんでいる。
今夜の俺は、冷酒と決めたのだけれど、力石が飲んでいるとたまらなく美味そうに見えて困る。
もちろん、この場で、冷酒と熱燗を比べる愚かな俺ではない。

「力石よ、冷酒も飲んでみてくれ」
「ありがとう。こうやって飲み比べるのも悪くないな」

笑う力石に、隠された邪心がないのか探ってみる。
睨んで、睨んで、目があった。
今夜はどうも、悪魔ではないらしい。

「本郷さんも熱燗、飲む?」
「うぁっ、お、おお。いただくぜ」

力石は、実に爽やかでいい男だ。
飲み屋で顔を合わせるだけの付き合いで、ここまで長くなった相手は、今までいなかった。
この先も、ずっと変わらず俺の前にいるだろう姿は、簡単に想像がつく。
そのくらい、力石は、当たり前のような存在になっている。
食の宿敵ではあるのだけれど。
それはそれ、これはこれ、だ。

「本当に美味いな。本郷さんは、酒の選び方もいい」
「そうかい?」

さっそく俺の冷酒を片手に、牛煮込みを食べている。
俺が頼もうと思っていた一品だけど、そっと箸を伸ばしてしまう。
結局は、一緒に食べる事になるのだ。

力石に褒められると、美味さが倍になった気がする。

「そうだ。さっきの、何?」
「へ?」
「何か思い出したんだろ?」

言われるまで忘れていた。

「……ああ。狐のな、尻尾について、ちょっと……」
「すごく気になる話だな、それ」
「ほら、九尾の狐っているじゃん」

大した話じゃない。
力石に説明しても、鼻で笑われるような内容だ。
それなのに、俺はじっくりと説明している。
力石がきちんと聞いてくれるからだ。

「あれって、尻尾が九本もあって、重くないのかなって……よく見る絵とか像だと、尻尾、バランスよく立ってるじゃないか。ああいうの、どんな加減で力入ってるのかなとか、な」
「……なるほど……」

力石が真面目な顔になった。
軽く目を閉じて、唸っている。

「いや、だからそんな、大して考える内容じゃなくて……重いんだったら、一本くらい分けてくれてもいいんじゃないかって」
「……本郷さん、狐の尻尾が欲しいのか?」
「だって、冬は暖かそうだろ。首にこう、くるっと巻いてさ……」

俺は何を言っているんだろう。
酔いのせいもあって、変な方向に話が流れてしまった。

思いついた時も、思い出した時も、そんなに深くは考えてなかったのに。

「本郷さんは、寒いのが苦手なんだな」
「……へ?」

目を開いた力石が、まっすぐに俺を見ている。
この目に、俺は弱い。

「俺、寒いのは結構平気だから、狐の尻尾が暖かいなんて、考えた事もなかった」
「いやっ、俺もそこまでは……」

徳利が向けられる。

「熱燗、どうぞ」
「あ、ありがと……」
「これで暖かくなったらいい」

正直、寒いのが苦手な訳ではない。
今の、力石の優しさが、ものすごく嬉しかった。

「そうだよな。たとえ重くても、狐の尻尾は狐の物だ。俺がもらうなんざ、とんでもない話だよな」
「……ハハハ! あ、すいません」

いきなり力石が笑い出した。
謝ったのは、店の人や周りに対してだ。

「本郷さん、まいったよ」
「何がだ」
「ほんと、優しすぎる」
「俺?」

熱燗は、俺が最後を飲み切った。
力石の表面張力の技が冴え渡る。

「この最後の一滴。美味いよな」
「……俺が飲んですまん」
「本郷さんだからいいよ。俺、その冷酒もらうから」
「おお……」

力石が、冷酒を注いでいる。
意味もなく、その手と、コップをじっと見つめてしまった。

前回は、心の底から力石に笑われた事を悔やんだけれど、今夜はそこまで落ち込む事はなかった。






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プロフィール

HN:
タケル
自己紹介:
本力にどハマりしました。
そしてドラマ版を見たら、本郷可愛さにグッと胸掴まれて……(萌えは勝手です)結局、二人が好きなのだと、自分で納得。

小話は「■ 本力」「□ 力本」分けてみました。
ほぼ変わりはないけど、ひとまずの目安にしていただけたらです。
(小話が増えてきたので、自分の確認の意味も込めて、番号も振ってみました)

とにかくもう、二人が可愛くて(格好よくても含まれる)たまらんので、日常っぽい短い話や、覚え書き等、こそっと置いていきます。

※ 原作の感想は、金曜の朝頃、バレはないように萌え語ります……(この発散もしたくて作ったブログなので)


つぶやき @takerun_001
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サークル 本郷格好委員会

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