原作からこそっと続き?を妄想しました。
本郷さん、あの時買った飴って、どうしたんでしょうね。
力石は、俺の時間にぶつけてくる、ような気がする。
「よう、本郷さん」
「あ、こんばんは……」
俺の挨拶の情けない事ときたら、本当に、どうしようもない。
こんばんはなんて、言わなくてもわかっているのに。
ふと見渡せば、あちこちの店で灯りがついている。
お互い、夜の始まりに足を突っ込んだばかりだ。
力石の格好よさを、俺が引き立ててどうするんだろう。
「もう食べた?」
「いや、まだ。今から」
「じゃあ、一緒にどう?」
「いいねえ」
思わず、同意していた。
力石と食べるのは、別に悪くない。
近くにいる方が、敵の陣立を確認する事が出来る。
それだけ、俺の力を見せつけてやる事も出来るのだ。
俄然、やる気が湧いてきた。
「本郷さん」
「へ?」
ポケットに突っ込んでいた力石の手が、不意に出てきた。
一瞬、殴られるのかと思った。
まさか、だ。
もしも力石に殴られたら、俺は殴り返せるんだろうか。
力では絶対に負けないつもりだけど、ヤツは名前に力と石が入っているのだ。
生まれながらにして、強さに恵まれているような気がする。
それに比べて、俺は本屋さんの本だ。
いや、俺は俺の名前が好きだから、別にそこはいい。
「ああ、これ、本郷さんに」
「へっ……?」
飴だった。
思いがけない袋が出てきた。
「俺、その飴知ってる……」
「今日、ちょっと用があってね。行ったついでの土産」
「土産……俺に?」
力石が頷く。
そっと、飴をもらった。
これは、俺も買った事がある。
ただ、普段飴を舐めないから、もしかしたらまだ部屋のどこかに転がっているかもしれない
「ぬおっ、ヤバい事を思い出した……」
「え?」
「あっ、いや、別に何でもないから……」
大げさに手をバタバタさせてしまった。
持っていた飴の袋が力石の腕にあたる。
「すまん!」
「……本郷さんって、不思議で楽しいな」
「どこが?」
「そういうところ」
笑う力石の方が不思議だ。
それよりも。
帰ったら、大急ぎで部屋を探して片付けよう。
蟻でもたかっていたら大変だ。
「そんなに飴、好きだった?」
力石には、俺が全身で喜びを表すほど飴が嬉しいように見えたらしい。
子供じゃないのに。
「あ、そうか。力石はタバコやらないから、飴を舐めるのか」
「……本郷さん、この間、ちょっと風邪気味で、喉が痛いって言ってたじゃないか」
「そうだっけ? あ、そうだった!」
思い出した。
タバコに絡む情けない先日だ。
禁煙に成功している力石に見せびらかすために、格好よく吸おうと思った。
その瞬間、変な気管に入ってしまって、死ぬほど咳き込んだ。
涙が止まらなくなるほど喉が痛かったけれど、タバコにむせたなんて、力石に言いたくなくて、風邪をひいたと言ったのだ。
風邪のせいで、タバコが吸えなかった、と。
力石は、うまく騙されてくれた。
「飴は、風邪にもいいけど、これは何やら、色んなご利益もあるらしいよ」
「そうか……ありがと」
俺が自分に買った飴と、全く同じ大きさで、同じ柄の包みだ。
多分食べない。
それなのに、腹の奥から声が出そうな、遠くまで飛んで行ってもおかしくないような、浮かれた気分に包まれる。
土産をもらうのは嬉しい。
「そういえば力石は……どこの店行った?」
「ん? もつ焼の……」
「あのオヤジの店な?」
「ああ、本郷さん、知ってた?」
大きく頷く。
「勿論だよ。あそこを知らないなんて、もったいないにもほどがあるぞ」
信じられないところで、力石を追い抜いた。
まだまだ俺も、勝ちの目があるというものだ。
「今度、一緒に行こうか」
「へ?」
「他にも、美味しい店はあるんだ」
「……ぬ……」
「あのもつ焼が気に入ったんなら、二、三、ハシゴ出来るよ」
「二、三……も?」
「ああ」
俺の勝利は、どこまで甘いのだろうか。
畳み掛けるような力石の攻撃に、思わず袋をやぶって飴を取り出していた。
贅沢に二個も、口の中に放り込んでやる。
「本郷さん?」
「甘い……」
「喉に効きそう?」
「おお……すごく」
力石に負けたのではない。
甘い飴に、勝てないだけだ。
「美味いな、これ……」
喋ると歯にあたる飴が、ガリっと音を立てる。
このまま噛み砕くと、歯も割りそうで怖い。
そうだ、俺は、歯医者が怖い。
「よかった。じゃあ、また近いうちに行こうよ」
「おお。それじゃ、今夜の行き先は……」
歩き始めて、ふと、力石と約束をするのは、新幹線で弁当食べた旅行以来だと思い出した。