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おもいつくままに

色々と止まらなくなり、ひとまず置き場所をつくりました。

20 ■ 金木犀は香る

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20 ■ 金木犀は香る

ちゃんとした話書くって……うそつき……
続きではないけれど、続きっぽい。名前出てくるので、ドラマ設定。
名前に関して、勝手な捏造を入れました(基本すべてが捏造ですが)

甘い……困ったぐらいに甘い……


 
 
 




 
 
雨が降ってきた。
せっかく咲いている金木犀も、この雨で散ってしまうだろう。
秋と冬の間の、甘い匂い。
魔法のように、空気まで甘くなっていた。
 
「……でさ、駅の向こうにいい店があったんだよ」
「へえ」
「ビールの泡が、もう神で。天国の柔らかさ……」
 
二日前に一緒に飲んだ本郷さんが、今夜もまた、俺の目の前ですっかり酔っている。
たまたま居合わせて、同じテーブルについた。
本郷さんといると楽しくて、さりげなく、飲ませすぎてしまったかもしれない。
そうわかっていても、まだススメてしまう。
 
「でも今夜は、熱燗が美味しい。すっかり秋だよね」
「おっ、力石、ゴキゲンだな。結構、結構」
「本郷さんのゴキゲンには、かなわないけど」
「そうか? おお……俺にはかなわないって?」
 
最近、少しわかったことがある。
本郷さんは、俺がほめると、ものすごくいい顔で笑うのだ。
これが、なかなか可愛い表情で、つい、見とれてしまう。
冗談でもなんでもなく、俺は、嬉しそうな本郷さんを見ているだけで、酒が飲める。
 
もちろん、そんな態度は、絶対、表には出さないけれど。
 
「この雨で、金木犀の花も終わる、か」
「おお。最近は、匂いも薄くなってきてたしな」
 
徳利を向けると、空いたお猪口を持つ本郷さんの手が、俺の前にきた。
ゆっくり注ぎながら、その手を観察する。
 
意外ときれいに切りそろえられた爪と、長い指。
どういう仕事をしているんだろう。
気にはなるけれど、聞くほど野暮でもない。
日中がどうであろうと、こうやって一緒に飲む本郷さんに変わりはないからだ。
 
「それでもまあ、まだ匂いは残ってる……あ、力石は、金木犀が嫌いだったっけ」
「え? 俺、そんなこと、言った?」
「言っただろ」
「……いつ?」
「この間、飲んだ時」
 
思い返しても、全く記憶になかった。
本郷さんが覚えていて、俺が忘れるなんて、絶対にありえない。
きっと別の話を、酔った本郷さんが勘違いしただけだ。
 
「俺、嫌いじゃないよ」
「じゃあ、好き?」
「ああ、好き……」
「そうか。力石は、好きか」
 
頷いてから、本郷さんの顔を見つめてしまった。
変な誤解を招くようなタイミングだった。
思わず、恥ずかしくなって、視線を外してしまう。
 
今の嫌いじゃないも、好きも、金木犀に対してだ。
深い意味は全くない。
多分。
 
「金木犀って、そんなに、特別な花でもないのに」
 
そう言いながら、俺の中で、金木犀は特別な存在になりかけている。
本郷さんが好きだと言った……いや、言ってない、けど。
今の会話は忘れがたい。
 
「オレンジ色で、可愛いじゃないか」
「ふうん。本郷さんって、可愛いのが好きなんだ」
「いや、そうじゃないけど」
 
眉間にしわを寄せた本郷さんが、小さく首を振る。
一瞬だけ、大人っぽく見えた。
 
「でかい木をバサバサ揺すって、足元をオレンジ色でいっぱいにしてみたいだけ」
「なんだよ、それ!」
 
想像して、吹き出してしまった。
大人でもなんでもない。
コミカルな本郷さんの動きだ。
トレンチコートの色と、オレンジ色の小さな花は、不思議とよく似合う。
 
「そういうのって、せっかく咲いてる花がかわいそうだろ」
「……むむ……それじゃ、ごめんなさい」
 
ダメだ。
なんとも言えない表情だ。
可愛いって、真正面から言いそうになる。
 
燗酒じゃ、間に合わない。
 
「すいません、冷酒、お願いします」
 
思わず、酒の力に頼ってしまった。
落ち着くために。
 
「ずるいぞ、力石。俺も……いや、俺は、あの生原酒の方で」
「……いいね、本郷さん」
 
いつだって、本郷さんは、まっすぐに手をあげて注文する。
この伸びた手が、真面目な性格を表しているようだ。
指の先まで見つめて、納得した。
 
「……ごめん、か。優しいな、本郷さんは」
「おい、おまえに言ったわけじゃないぞ。金木犀にだぞ」
「はいはい」
 
冷酒が届いて、また、本郷さんと乾杯する。
 
数え切れないくらい、コップの重なる音を聞いた。
誰と合わせても、音は同じだろうけど、本郷さん以外と乾杯する気はあまりない。
酒がきたら、すぐに飲む。
そこに挟むのは、本郷さんだけでいい。
 
「そうだ、本郷さん。俺の名前って知ってる?」
「へ? おまえの、名前?」
 
さりげなく聞いてみた。
苗字は名乗ったけれど、名前までは言ってない。
本郷さんが知ってるはずはないのだ。
それなのに、聞く俺は、酔っぱらい相手に意地悪だと思う。
 
「知ってるよ、もちろん」
「え? ほんとに?」
 
驚いて、声が大きくなる。
もしかして、本郷さんも、俺に興味を持っていてくれたんだろうか。
 
「力石は……タロウ、だ」
「? 違う。全然、違う」
「じゃあ、セブン?」
「……なんの話? それ」
 
あくまでも、知らないとは言いたくないらしい。
悩んでいる本郷さんが、本格的に唸り出した。
途中から、面白い事を言ってやろうと考えているのが、その顔から伝わってきた。
面白いのは本郷さんの方だ。
 
「本郷さん、ごめん。もういいから。冷酒飲んでよ」
「おお……」
「……俺、馨っていうんだ」
「どんな漢字?」
「……ん、今言っても、本郷さん、覚えてられないと思う」
 
思い出すと、笑ってしまいそうになる。
 
この間会った時、やっぱり金木犀の話になって、本郷さんは、
(金木犀が香る)
と、何度も言ったのだ。
 
花が香るのと、俺の名前は、何の関係もない。
けれど、音の響きは同じだ。
本郷さんから名前を呼ばれたような錯覚で、心が躍った。
 
「今度、説明するよ」
「そうかい」
 
本郷さんの真似をするわけではないけれど、ぐっと酒を飲む。
ひやりと冷たく、喉を伝わる酒は、気持ちがいい。
 
このまま、俺も、酔ってしまおうか。
 
「……かおる、か」
「え?」
 
不意打ちの本郷さんの声は、とてもまともに聞こえた。
もしかして、酔っているようにみせかけて、全く酔ってなかったんだろうか。
 
「おまえの名前って、いい響きだよな」
「……前も言った、本郷さん」
「へ? 俺、今初めて名前を知ったんだけど……」
「あ、そうか……あれは金木犀の花のことだったから……違った」
 
けれど、やっぱり俺の名前は褒められた。
踊り出しそうになる気持ちを堪えるのは大変だ。
 
「俺は好きだな」
 
息が止まった。
本郷さん、今、なんて言った?

「昔好きだった映画、思い出すよ」

映画か。
細かく聞いて見たいけれど、きっと俺の知らない映画だろう。

「あ、ああ。ありがと……俺も、気にいってるんだ」
 
かろうじて、それだけ言えた。
本郷さんの赤い顔は、酒の酔いからなのか、照れているのか、ちっともわからなかった。
 
 

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プロフィール

HN:
タケル
自己紹介:
本力にどハマりしました。
そしてドラマ版を見たら、本郷可愛さにグッと胸掴まれて……(萌えは勝手です)結局、二人が好きなのだと、自分で納得。

小話は「■ 本力」「□ 力本」分けてみました。
ほぼ変わりはないけど、ひとまずの目安にしていただけたらです。
(小話が増えてきたので、自分の確認の意味も込めて、番号も振ってみました)

とにかくもう、二人が可愛くて(格好よくても含まれる)たまらんので、日常っぽい短い話や、覚え書き等、こそっと置いていきます。

※ 原作の感想は、金曜の朝頃、バレはないように萌え語ります……(この発散もしたくて作ったブログなので)


つぶやき @takerun_001
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サークル 本郷格好委員会

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