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おもいつくままに

色々と止まらなくなり、ひとまず置き場所をつくりました。

18 ■ ビールの泡

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18 ■ ビールの泡

もうすっかり秋です、というか、季節感はなく、微妙に寒いです。
ビールよりも熱燗……でもやっぱりビール。
そんな感じの、いつもの話。そして、力石格好いい祭(脳内で勝手に開催中)






「生中ひとつ、お願いします」

店に入って、一番の幸せは、何よりもビールを注文するところから始まる。
あの繊細にして、甘さのかけらもない泡立ち。
丁寧な店のビールは、泡の味も違うのだ。

「はい、生中」
「どうも」

ジョッキに注がれた俺の幸せ。
ぐっと掴んで、一気に飲めるところまで飲む。

「ああ! もう、本気でビールに人生捧げてもいい!」
「……ほんと、幸せそうに飲むね」
「へっ」

いつの間に。
カウンターの角席を確保していた俺の隣に、力石が座っている。
後から来た力石は、今のところ、ここしか座るところがない。
何かの陰謀だ。

「お、おまえ、いつ来た?」
「今さっき。本郷さんに、声かけただろ?」
「……そう、だっけ?」

力石の前にも生中が置かれる。

「あ、しまった」
「ん?」
「いや、別に……」

ビール飲みたさに、肴が後回しになっていた。
こういう失態、力石は絶対にしない。

「本郷さん、注文まだ? だったらここのメンチカツ、ビールにあうぜ」
「そ、そう?」

俺がうっかりしたばっかりに、またしても力石に先輩ヅラされてしまった。
メンチカツにビールは、心の底から好きだけど、真似はしたく、ない。
悩んで、全然違う方向の料理を選んだ。

「そうくるか……」

嫌味にも聞こえる力石の呟きを流し、残りのビールを一気に飲んだ。
うまい。うますぎる。
ガマン出来ずに、おかわりだ。

「ときに本郷さん、今夜はビールだけ?」
「そうだなあ……日本酒もいいんだけど、涼しくなってきたからな。飲めるうちにガンガンビールを飲んでおきたい」

多分、力石よりは、ビール歴の長い俺だ。
いや待て。ビール歴だけじゃなく、酒歴も、飲み屋で飲んだくれ歴も、断然俺の方が長いはずだ。
力石が、俺より年上じゃなければ、の話だけど。

ビールは男の人生を豊かにする。
どれだけ疲れても、この一杯を飲み干すだけで、明日も頑張れるという気になるのだ。

まだ若い力石には、そこまでわからないのかもしれない。
そう思うと、より元気が出てくる。

「なるほど」

意味深な力石の頷きに、思わずその顔を覗き込んでしまった。

「……何か、あった?」
「いや。そこに、新しく入った純米大吟醸が、すごくうまそうだからね。どうかと思って」
「え……」

全然、気が、つかなかっ、た。
いつもの俺なら、絶対に気がつく。
大好きな日本酒。

「すいません、あの日本酒と……」

聞きたくない。
力石の、完璧に近い注文など、聞きたくない。

俺には、この繊細な泡立ちが待っているではないか。

「……泡といえば……ソー……プ……」
「下ネタ?」
「へっ?」
「違ったらごめん」

思いがけない力石のツッコミに、俺の心臓が跳ねた。
下ネタ?
この俺が、そんなことを言うとでも思ったんだろうか。

「ソープって……別に、いやらしい意味じゃなくて……単に、泡のアワで、英語っていうか」

何が言いたいんだ、俺。

力石は、我関せずのクールな顔で、日本酒に切り替えている。
最初の料理の組み立てから、ビールは一杯だけだと読み取れた。
ビールを浴びるように楽しんでいる俺に対する、嫌味だ。

「なあ力石、ビールの泡って、子供の頃は、甘いんじゃないかって思わなかった?」
「え?」
「ほら、アイスクリームっぽく見えてな。もう昔の話だけど、そっと舐めた時、あまりの苦さに吐き出したことあって。ずっとビールが怖かったんだ」
「本郷さんが? へえ……」

俺は、なんで昔の失敗を、力石に話しているんだろう。

「俺もやったことある」
「ほんと? すごい、シンクロだ」

意外にも、力石がこんな話にのってくれた。

「あの時の泡は、今と違って、もっと荒い感じだったな。固いというか」
「それ、フローズンじゃなくて?」
「違うよ。普通のビールだ。たまに、懐かしくなる」
「ふうん」

俺は、ずっと怖くて、力石は、懐かしくなるという、ビールの感想。
この差はなんだ。

「……こんな話してると、ビール飲みたくなってくるよ」
「そうだろ、そうだろ」
「次の機会に、ね。今夜は、もう、この酒が美味しくてさ……ほんと、どう?」

飲み干したお猪口を差し出されて、もうちょっとで受け取るところだった。

「それこそ、次の機会に。多分、近いうちに会う、だろ」
「……そうだな」

穏やかに力石が笑う。
こいつは、本当にいい奴なんだろう。
俺の食の宿敵でさえなければ。


俺が勝手に開催していたビール祭は、ジョッキ三杯で終了した。
腹いっぱいで、どうしようかと思っている間に、力石はさっさと引き上げた。

この店のビールはうますぎるからいい。
明日も飲んでもいいくらい、いい。

「……そうだ、次は、力石に会う前に、メンチカツだな」

心の中で誓って、ポケットから財布を取り出した。

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プロフィール

HN:
タケル
自己紹介:
本力にどハマりしました。
そしてドラマ版を見たら、本郷可愛さにグッと胸掴まれて……(萌えは勝手です)結局、二人が好きなのだと、自分で納得。

小話は「■ 本力」「□ 力本」分けてみました。
ほぼ変わりはないけど、ひとまずの目安にしていただけたらです。
(小話が増えてきたので、自分の確認の意味も込めて、番号も振ってみました)

とにかくもう、二人が可愛くて(格好よくても含まれる)たまらんので、日常っぽい短い話や、覚え書き等、こそっと置いていきます。

※ 原作の感想は、金曜の朝頃、バレはないように萌え語ります……(この発散もしたくて作ったブログなので)


つぶやき @takerun_001
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サークル 本郷格好委員会

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