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おもいつくままに

色々と止まらなくなり、ひとまず置き場所をつくりました。

19 ■ 金木犀

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19 ■ 金木犀

超短い小話……今回はとりあえずドラマ版の二人ですが、全く変わりはないです。
お互い、名前までは知らなかったよね……? で、察してください。
(今まで書いた話で一番恥ずかしいかも)





金木犀は、急に匂いが立ち込める。
木だけの時は地味なのに、花が咲くと一気に秋の気配を感じさせる。
色合いも、秋っぽくていい。
店に来るまでの、あちこちで見つけてしまった。


「本郷さん、もう酔った?」
「バカな。まだ徳利二本目だ」
「そう? ずいぶんゴキゲンだから」

今夜は熱燗。
昼間、あれだけ金木犀の匂いを意識すると、身体の中から酒が欲しくなってくる。
甘い日本酒も悪くないけれど、俺はやっぱり、辛口がいい。
鼻からも、喉からも、日本酒を堪能できる熱燗は、最高だ。

「そりゃね。そろそろ秋も本番だし、実にいいよ。この時期は酒が恋しい」
「いきなり、何?」
「金木犀がものすごく香る季節が来たからさ」

不意に、力石が黙り込んだ。

「どうした?」
「別に。ただ……」
「何、何よ」

強引に、徳利を差し向ける。
力石のお猪口で、表面張力の素晴らしさを教えてやる。
ぎりぎりの感覚がわかる今夜の俺は、まだ全然酔っていない。

「本郷さん。金木犀は、匂う、じゃないのか?」
「匂う?」
「今、花が香るって言っただろ」

何か、言葉を間違っただろうか。

「花は、香るで結構じゃないか」
「……そう?」
「匂ってもいいけど、香るの方が響きがいい」
「響きか……」

力石は、なみなみと注がれたお猪口の酒を飲むのが上手い。
悔しいぐらい、こぼしたことがない。
今夜こそ、あっと声をあげる力石の顔が見たかったのに。

「力石、美味いか?」
「ああ、とても」

飲み干して、にこりと笑った。
実に美味そうに飲む。

「本郷さんも、どうぞ」
「あ、ども」

力石からの、表面張力のお返し……

「おお! 力石よ!」
「あっ、ごめん」
「おいおい、もったいない」

ほんの少しだけど、俺の手に流れた。
慌てて指を舐める。

「大丈夫? 本郷さん。悪かった」
「平気だけど、珍しいな、こんな失敗」
「たまには、な」

お互い、お猪口に注ぐ対決は、もしかしなくても、俺の勝ちだ。
この勢いで、食に関しても、力石に圧勝したい。
今夜こそ、だ。

「もしかして、力石、もう酔ってるんじゃ……」
「……そうかもな」
「マジで? 力石、マジで酔った?」
「そんなわけないだろ」

笑う目は、本気だ。
口調も、全然乱れてない。
さっきの、注ぐ手だけが、いつもと違った。

ほんの少しだけ。

「あ、わかった」
「何?」
「おまえ、金木犀の匂いが好きじゃないんだ」
「ええっ?」

誰だって、好き嫌いはある。
特に金木犀は、昔からのトイレの芳香剤の印象が強い。
小さくて可愛い、オレンジ色の花なのに、トイレだなんて、気の毒すぎる。

「……あ、まてよ。トイレに行きたくなったとか?」

鼻で笑われた。

「本郷さん、今夜の酒、俺がおごるよ」
「……なんで? いきなり、どうした?」
「そういう気分になったから」

お猪口に注ぐ失敗をしたからって、俺におごっても帳消しにはならない。
それに俺は、食の宿敵におごられる義理はない。

「トイレに、ついてきて欲しいから……とかじゃ、ないよな? もちろん」
「……あそこにある、一番いい酒が飲みたくなったから、って理由はダメ?」
「む、むむ……」

そう言われると、俺も弱い。
喉から手が出るほど飲みたい、大吟醸。
ちらりと力石の顔を見ると、もう、断りきれない顔で笑っている。

「わかった、いや、よくわからないけど、俺も飲みたい」

俺が言ったと同時に、力石は注文した。
いつにも増して、見事な流れだ。

「……なあ、そんなにあの酒、飲みたかった?」
「まあね」

待ちかねた酒がやってきて、再び乾杯した。
冷酒も、いい。最高にいい。
胃袋の底から、大喜びだ。

「本郷さん、まだしばらく、金木犀って咲いてるかな」
「おお。あれぐらい、強烈に香る花もないからな。どこにいてもわかる」

また、力石が笑った。
今夜のこいつは、何がそんなにおかしいんだろう。

力石の笑顔を肴に、今夜はこのまま飲むことにする。

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プロフィール

HN:
タケル
自己紹介:
本力にどハマりしました。
そしてドラマ版を見たら、本郷可愛さにグッと胸掴まれて……(萌えは勝手です)結局、二人が好きなのだと、自分で納得。

小話は「■ 本力」「□ 力本」分けてみました。
ほぼ変わりはないけど、ひとまずの目安にしていただけたらです。
(小話が増えてきたので、自分の確認の意味も込めて、番号も振ってみました)

とにかくもう、二人が可愛くて(格好よくても含まれる)たまらんので、日常っぽい短い話や、覚え書き等、こそっと置いていきます。

※ 原作の感想は、金曜の朝頃、バレはないように萌え語ります……(この発散もしたくて作ったブログなので)


つぶやき @takerun_001
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サークル 本郷格好委員会

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