どうしても寝てしまう、日付の変わるタイミング……
生活リズムを改めなければと思う、妄想最優先脳。
力石は崩れない。
悔しいけれど、酔っ払った醜態を見せてくれない。
元々酒に対する耐性があるのか、鍛えすぎてきたからか、それとも、俺に対するライバル心からなのか、計りかねるところはある。
「なあ」
「ん?」
今夜は冷酒だ。
久しぶりに辛口が喉から胃袋に流れて行く幸せを感じる。
酒は美味い。
力石が持ってきた一本だとしても、美味い物は美味い。
よくこんな美味い酒を知っている物だと思う。
俺よりもずっと若いくせに。
「力石って、酔う?」
「いきなりだな。本郷さんこそ、もう酔った?」
ぶんぶんと頭を振った。
「今ここに、なんでも叶えてくれる神様が現れたら、俺、絶対に力石を酔わせてくださいってお願いするけどなあ」
「そんなのでいいんだ。宝くじはどうなった?」
「ぬっ!」
力石は知っていた。
俺が密かに億万長者を夢見て、宝くじを買い続けている事を。
「そりゃ……宝くじがいい……よ」
酔った力石の無防備な姿も見てみたい。
なんたって、俺がなんども晒しているのだから。
「そんなに言うなら、酔うまで飲んでもいいけど」
「おいおい、今夜の力石は話がわかるな」
優しい笑みを浮かべながら、力石が冷酒をあおる。
美味そうに喉がなる。
俺も追いかけて飲む。
「本郷さんの方が先に潰れて、酔った俺を見られなかった場合は、どうなるんだ?」
「へ?」
考えてもなかった。
力石が単体で酔っ払って腹を出したまま、そこらで寝転がる姿しか、想像してなかった。
そんな子供っぽい力石に、毛布をかけてやる大人な俺。
それがやりたかったのに。
そうだ。
俺が酔っ払ってしまう場合もあったのだ。
「むむむのむ……」
「二人一緒に転がってたら、まだ寒いから、絶対に風邪ひくと思うな」
考えれば考えるほど、力石の言い分が正しい気がしてくる。
「……もしかして、俺が先に酔っ払うから、おまえは酔えないのか?」
「それはないよ。本郷さんといると、結構本気で飲みに入ってしまう」
手元の四合瓶が空いてしまった。
最後の一滴を力石が注ぐ。
「この酒、美味しかったよな」
「ああ。いい酒だ」
「そのうち、酒を買いに行く旅行とか、どう?」
「いいなあ! 俺、そういうの好きかも」
何やら視界が明るくなった気がした。
嬉しい時、世界は広がるのだ。
力石は、そのタイミングをとてもよく知っていると思う。
「……とりあえず、今夜は……」
ぐっと、力石が近寄ってきた。
「本郷さん」
「はいっ」
なぜか、名前を呼ばれると背筋が伸びる。
「間近でなら、酔った俺を見せてあげるよ」
「よ、酔ってない、だろ、それは」
耳元で囁く力石の意地の悪い声に、一瞬で俺の酔いが深まった。