猛烈な睡魔に倒れ、夢の中で更新してました。
あらためて、ラブ甘いっときます!
※ 書き間違い発見…追記しました。
(おもちゃ→お菓子)
「お、力石。珍しいな」
初めて、力石がタバコを吸っている姿を見てしまった。
俺がトイレに行く時には吸ってなかったのに。
一人になるチャンスを狙って、コソコソしていたのだとしたら、とんだ恥ずかしがり屋だ。
「タバコ。お主、やめたとか言ってたジャン」
わざとらしく指摘したら、すぐに口から離した。
珍しいサイズの、見た事ない小さなタバコだ。
こいつ、普段吸わない分、特別な格好いいのを選びやがって。
「吸ってないけど」
「へ?」
「貰い物」
よく見たら、何かが変だ。
じっくりと、力石の顔に穴があきそうなくらい睨みつけて、気がついた。
「お菓子……?」
「そう。シガレットチョコ」
「なんと……」
喫煙者のくせに、見分けられなかった自分が情けない。
力石がチョコレートをくわえているなんて、普通は思いもしないだろう。
「騙すつもりはなかったけど、騙せた?」
「バカ!」
チョコレートと堂々と書いてある箱を俺に手渡してきた。
先にこの箱を見ていたら、気がついたかもしれないのに。
「バレンタインの頃に実家に帰ったら、親にもらったんでね」
「親? 親から? お主の親って、どういう……」
わかった。
季節ごとの重要なイベントでも、平気で実家に顔を出す力石は、家族から心配されているのだ。
「……力石よ、親に心配かけるな」
「何、それ?」
「お主がモテ男なの、親は知らないんだろ? だから心配してひとつだけでもとチョコを渡すのだよ」
モテすぎる息子と、モテない息子。
どっちも大事に代わりはないだろうけど、将来を考えたら、モテる方がいいに決まってる。
「心配か……本郷さんも心配する?」
「なんで俺が?」
「……そりゃそうだな」
笑う力石が、軽くチョコを折って食べ始める。
シガレットチョコの、懐かしい味を思い出す。
「俺も昔、よく食べたぜ」
「そうなんだ?」
「それくわえてたら、大人になった気がしてさ。うっかり「ぷはあ、酔っちまったあ!」なんて言って、周りに大笑いされたもんさ」
タバコとお酒の区別がついてなかった。
今思うと、ありえないくらい、純真な子供だった。
「本郷さんにもそんな時代があったんだなあ……」
「まあな」
「食べる?」
「……懐かしいから、一本もらうぜ」
手の中で遊んでいた箱から、一本取り出してくわえる。
タバコじゃないのに、すっかりタバコの気分だ。
「格好いいな……」
「何?」
「タバコを吸う本郷さん」
真剣な声に、思わず紙ごとチョコレートを食べてしまった。
「本郷さん!」
「タバコじゃなくてチョコだぞ。いや、大丈夫、ヤギだって紙食べるし……いや! さすがにヤギだって、こんな紙は食わん!」
ガマンできず、口の中に残る紙を吐き出した。
せっかく力石に褒められたというのに、俺はちっとも格好よくない。
「大丈夫?」
「……死んでない」
イヤな感触だ。
口も眉も曲がってしまう。
思い出してしまった。
子供の頃、シガレットチョコに憧れた俺は、今と同じ事をしてしまったのだ。
あの時は親に叱られて、それ以来このチョコレートは我が家で禁止になった。
好きだったのに。
「……その顔……」
さっきから、格好悪い俺を見ていた力石が吹き出した。
倒れるしかない。
「俺も子供の頃に、同じ事やった」
「……マジか?」
「今の本郷さんの気持ち、すごくわかる」
わざと言ってくれているようには思えなかった。
「離れてたし、時代も多分違うけど、俺と本郷さんって似たところあるな」
確実に俺は、力石のようにモテてはいないけれど。
俺も、嬉しい。
「……そいつは、いい話だ。運命感じるぜ」
「ほんと? すごく嬉しいな」
手を伸ばした力石が、俺から正しいタバコの箱を取った。
流れるような仕草で一本、口にくわえる。
「ん……」
「あ、ごめん。ライター……」
慌てて渡したライターで、実に格好よく火をつけて、煙りを吐く。
「格好よすぎだ、お主、反則!」
「え?」
俺を見た瞬間、力石はむせた。
二度、咳をする。
「久しぶりすぎて、喉にきた」
そう言って笑った力石は、やはり格好よすぎた。