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おもいつくままに

色々と止まらなくなり、ひとまず置き場所をつくりました。

76■ 格別に寒い夜

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76■ 格別に寒い夜

バレンタインデーもすぎたのに、まだ猛烈に寒いです。
なので、暖かくなるような妄想を……






店を出た途端、すごい風の音と強烈な冷え込みに、身体が半分くらいになってしまったような気がした。

「ったく、この寒さはどうした事だよ……」

首をすくめて歩き出す。
今夜の店は、駅まで少し距離がある。
来た時はここまで寒くなかったのに。
陽のある夕方と、どっぷり暮れた夜の違いだ。

「ああ……寒い……」

もしもこのまま、ここで行き倒れるような事になったらどうしよう。
せめて、渋いのれんのある店先で眠りたい。
そんな事を考えていたら、何やら腹が軽くなってきた気がした。
なぜか今夜は、軽く一杯、引っ掛けただけだった。

俺の陣立はどこに行ってしまったのか。

「そこにいるの、本郷さん?」
「お?」

ひときわ、風の音がきつくなったと思った途端、クールな姿が現れた。

「や、やあ。力石じゃないか。風と共にやって来たのかと思ったぜ」
「もう酔ってるのか」
「今夜はちょっとだけだよ」
「ちょっとか……」

両手をポケットに隠した力石が、ニヤリと笑って、俺に近づいてくる。

「力石は?」
「俺、今から。今夜すごく寒いからな……もしも本郷さんに会って、まだ食べてないようなら、鍋にしようと思ってたんだけど……どうするかな」
「鍋!」

この寒さに魅惑の響きだ。

「腹いっぱい?」
「ちょっとだけだから、余裕はあるぞ」
「じゃあ、一緒に食べん?」
「よし来た」

うまい店だったのに、なぜか箸が進まなかったのは、力石の出現を予測していたからなのだろうか。
俺の予知能力。

「……すごいな、俺」
「何が?」
「え? 何って……まあ、なんでもないんだ」

わざとらしく笑って、力石にも笑いを強制する。
こいつはたまに笑う。
その笑顔がやけに若々しくて、日頃忘れている年の差を感じてしまうのだ。

力石は若い。
俺は、オジサンだ。

「店、もう少し先なんだけど、平気?」
「え? モチのロンよ。大丈夫」

不意に、力石の手が伸びて来た。
俺の前に差し出される。

「酔ってるなら、手を貸すけど」
「おお……」
「寒すぎるから、くっつくと暖かいかも」

思ってもみなかった。
この寒さに、ほんの少し、頼る物があればいいとは思ったけれど、それが力石の手には結びつかなかった。

もしかして、触れてもいいんだろうか。

「本郷さん?」
「じゃ、じゃあ……店の前まで……」
「よろこんで」

時間の流れがおかしくなった。
目の前の手に触れるだけなのに、俺の手がなかなか動かない。
全てが止まったかのようだ。

「手……」
「ん?」
「も、もうちょっと待って……」

力石の表情は変わらない。
見た事がないくらい、優しい目だ。

もしかして力石は、すでに酔っ払っていて、俺を女体と勘違いしてるんじゃないだろうか。
だとしたら、俺がその手を握りしめた瞬間、力石は飛び上がって驚くだろう。
俺の手は、どこからどうみてもオジサンの手なのだから。
急に楽しくなってきた。

「よし、力石、俺の手だ!」

ぐっと、力石の手を握りしめた。

「行こうか」
「……あれ?」

顔色ひとつ変わらない。
力石は酔ってなどなかった。

俺の手は、少し冷たい力石の手にしっかりと握られた。
俺も力を返すから、お互い、きつく握りしめ合うようになる。

鍋の店はそこだから、このままでもそう長くは歩かない。

「何か、あった?」
「ん? いや、力石の手は冷たいと思ってな……」
「本郷さんの手も冷たいよ」

顔が近づいてくる。
久しぶりに、力石の顔を間近で見た気がした。
俺を射抜くような視線の強さに、思わず目をそらしてしまった。

「けど、こうやってると暖かいな」
「……たしかに」

力石の声は楽しそうだ。
俺も、楽しくない、わけがない。

「着いた」
「ああ、ここか……」

前は通るけれど、入った事はなかった。
鍋なんて、一人では敷居が高い。

「そうか、力石がいるんだ。これからはちょっとためらってた鍋の店にも行けるな」
「ああ、いいね」
「すき焼きも、また行こうぜ」

力石が笑う。
俺も笑いながら、手に力を込めた。

そろそろ離す頃合いだけれど、俺から離す気は全くなかった。






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プロフィール

HN:
タケル
自己紹介:
本力にどハマりしました。
そしてドラマ版を見たら、本郷可愛さにグッと胸掴まれて……(萌えは勝手です)結局、二人が好きなのだと、自分で納得。

小話は「■ 本力」「□ 力本」分けてみました。
ほぼ変わりはないけど、ひとまずの目安にしていただけたらです。
(小話が増えてきたので、自分の確認の意味も込めて、番号も振ってみました)

とにかくもう、二人が可愛くて(格好よくても含まれる)たまらんので、日常っぽい短い話や、覚え書き等、こそっと置いていきます。

※ 原作の感想は、金曜の朝頃、バレはないように萌え語ります……(この発散もしたくて作ったブログなので)


つぶやき @takerun_001
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サークル 本郷格好委員会

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