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おもいつくままに

色々と止まらなくなり、ひとまず置き場所をつくりました。

62 ■ おでんの楽しみ

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62 ■ おでんの楽しみ

一巻一話から妄想しました(初心に帰った……訳でもないんですが)
あの出会いがすべての始まり。

一度行った店も、きっとまた行ったりするんでしょうね、二人とも。









日中はまだ暑い。
しかし、夜になると、夏とは違う冷え込み具合に、おでんと熱燗を楽しみたくなった。
そうなればもう、行く先はおやじさんのおでんだ。

暗くなっていく道を、足取りも軽く、屋台を目指して歩いた。
少し急いでしまうのは、あの店が美味いからだ。
一刻も早く食べたくてたまらない。

「……やっぱ、小走りになっちゃうんだよなあ。あの屋台だけは」

オジサンをも走らせる味だと考えると、ため息がもれるほど素晴らしい。
いや、俺はまだそこまでオジサンではない、と思っているけれど。

「食べるぞ……っ……」

俺が今日一番目の客、のはず、だった。
身体中の力が抜けて行く。

「あ、本郷さん」

力石が、笑顔で俺に手を振った。
すでに屋台と一体化して、なんの違和感もない。

「や、やあ……来てたんだ……」
「今夜はおでんと熱燗。もう絶対にこれだと思ってね」
「……俺と、おんなじ……」
「え?」
「いやっ、そうだよな。今夜はおでんだよな。おやじさん、酒!」

はいよ、と、優しい声が響く。
実に心に染み渡る。

力石の隣に腰を下ろして、ちらりとその皿をにらんだ。
驚いた事に、力石の皿には輝くばかりの玉子が乗っていた。
俺の大好きなおでんの玉子だ。

「あ!」
「……どした?」
「いや、いや! なんでもない」

今夜の酒は、祝杯だ。世界中に報告したい。
なんということだろう。
力石がとうとう俺の真似をしやがった。
玉子は以前、俺が注文していた一品だ。

力石のくせに、今夜は俺に、会わないと気を抜いたのだろうか。

「嬉しそうだな、本郷さん」
「そんな事はないさ。あ、おやじさん、俺、バクダ……あ、いや、ちくわぶ」
「はいよ」

一瞬、血の気が引いた。
何気にバクダンを言うところだった。
それこそ、以前力石が食べていた物だ。
あぶない、あぶない。
俺がマネっ子になってどうする。
目の前の勝利が、音を立てて崩れていく。

「……莫大な借金を抱えた、とか?」
「へ? 誰が?」
「ないか。本郷さん、そんなに嬉しそうな顔してるんだもんな」

柔らかく、力石が笑う。
玉子が似合う男だ。

「今、言いかけた言葉の続きを考えてみた」
「……バクダ……ああ、っと……バクダッドって、何県だったかなって」
「県?」
「あ、いや、国」

すでに、力石には酒が入っている。
なかなか酔っ払った姿を見せないヤツだけど、今夜は後からじっくり飲み始める俺の方が有利だ。
たまには、酔わせてやってもいい。

「バクダッドはイラク」
「へえ……力石は物知りだな」
「普通だろ」
「イクラ、食べたくなってくるなあ……」
「本郷さん、単純」
「むむ……」

酒を飲み、ちくわぶにかじりつき、腹の中を落ち着かせる。
そしてゆっくりと、鍋の様子をにらんだ。

ちくわぶから始まった夜は、どう進めていけばいいのだろう。
力石に張り合って、予定外の陣立になってしまった。

「牛スジ……」
「牛スジ……」

思わず、力石と顔を見合す。
今、確実に言葉が重なった。

「同じ事、考えたな」
「お、おお……そのようだな……」
「おやじさんのは、本当に美味しいです」
「ありがとうございます」

俺よりも、先におやじさんを褒める作戦に出た。
笑うおやじさんと、力石との間に何かが芽生えたように思えた。

いかん、いかん。
負けてはいられない。
けれど、このままでは負ける。

重なった牛スジから、俺は大根、力石はちくわに道が分かれた。

「……そうだ、力石よ」
「ん?」
「ちくわって、なんで穴が空いてるんだと思う? 楽しい答えを頼むぞ」
「楽しいって……」

俺の顔をじっと見て、力石はちくわを見つめた。
不思議そうな力石の顔を、初めて見た気がした。
なかなか、悪くない。

魚のすり身を竹に巻きつけて焼く、というのがちくわだけど、そんな答えは当たり前すぎて面白くない。
酔った力石の、酔った答えが聞きたいのだ。

そうだな、と、小さくつぶやいて、力石は考え込んだ。

「本郷さんが、美味しいって食べるため」
「へ? それ、答え?」
「そう」

自信たっぷりに力石が頷く。
むむ、と、唸ってみたけれど、納得がいかない。

「ちくわ……作る人がみんな、俺を知ってるわけないしさ……」
「けど、本郷さん、ちくわ好きだろ?」
「そりゃ……好きだよ」

俺が頷いた途端、力石が笑顔になった。

「だろ? よかった。本郷さんも好きで」

力石が、箸で分けたちくわを、俺の皿によこした。

「本当に美味しいよ。一緒に食べよう」
「お、おお……あっ、力石も、大根、一緒に……あっ!」

力加減を間違えた。
同じように、箸で分けようとした大根は、皿から飛び出して、力石の方に飛んで行った。

「ごめん! 悪かった! 熱くないか? 火傷……」
「大丈夫だよ、生地厚いから」

大根は、力石の股間に落ち着いた。

「けど……いかん、もしも役に立たなくなったら……」
「……役にって……ハハハハ!」

あらぬ所に大根を乗せたまま、力石は笑い出した。
慌てた俺が大根を取り除いて、おしぼりを渡した後にも、その笑いは止まらなかった。

「すまん、力石。クリーニング代払うから」
「いいよ。このくらい。どうにでもなる」
「けど……」
「それより、本郷さんに笑わされたのがさ……」

ようやく落ち着いたと思ったのに、また力石が笑う。

「そんなにおかしかったか?」
「本郷さん、最高」
「今の、大根が?」
「止まらなくなるから、熱燗、もう一杯いこう」
「お、おお」

ロールキャベツと、フクロも一緒に来た。
これらは、早く注文しないとなくなってしまう。
どれも美味いこの店の中でも、人気の一品だ。

「本郷さんと飲むと、酔いがまわるなあ……」
「えっ! おまえ、酔ってるのか?」
「酔うよ、普通に」

力石の顔を覗くだけでは、酔っているのか嘘なのか、全くわからない。
けれど今夜は、力石の言葉を信じてやってもいい。

「帰れる?」
「勿論……本郷さんだって、泥酔しても帰り着くんだろ?」
「そりゃ、俺は大人だし」

再び力石が笑い出した。

わかった。
俺は、笑う力石が嫌いではないのだ。

「なあ、もっと笑っ……てろ、辛っ……!」

言いかけた俺の言葉は、唐突に効いたおでんのカラシが、一瞬で途切れさせた。

「何?」
「いやっ、ほんと、今夜は美味いよ」
「そうだな」

もう二度は言えない。
ぐっと、熱燗を煽って、力石にも追加を勧めた。






 

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プロフィール

HN:
タケル
自己紹介:
本力にどハマりしました。
そしてドラマ版を見たら、本郷可愛さにグッと胸掴まれて……(萌えは勝手です)結局、二人が好きなのだと、自分で納得。

小話は「■ 本力」「□ 力本」分けてみました。
ほぼ変わりはないけど、ひとまずの目安にしていただけたらです。
(小話が増えてきたので、自分の確認の意味も込めて、番号も振ってみました)

とにかくもう、二人が可愛くて(格好よくても含まれる)たまらんので、日常っぽい短い話や、覚え書き等、こそっと置いていきます。

※ 原作の感想は、金曜の朝頃、バレはないように萌え語ります……(この発散もしたくて作ったブログなので)


つぶやき @takerun_001
pixivID 18019731
サークル 本郷格好委員会

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