しまった。これはクソ暑くてたまらん時期に書いたのに、アップしそこねてました(大分直したけど)そろそろ涼しいので、暑かった日を思い出していただけたら……。
中身は、タイトル通りです。
やっぱり仲いい(笑)
「それで、本郷さんは、クリスマスって暇なんだ?」
唐突に、力石が意味不明な話題を振ってきた。
クリスマスって、何を言い出すんだか。
このクソ暑くて、ダラダラ汗をかいてる時期に。
思わず、飲んでいたビールを吹き出しそうになる。
いや、吹き出してやってもよかったかもしれない。
力石の顔に。
さぞかし冷たくて、目もさめるだろう。
「おまえな、今がいつだと思ってるんだ?」
「真夏。ビールが最高に美味い暑さだ」
「……わかってたらいい」
力石も、グッとビールを飲み干す。
気持ちのいい飲みっぷりだ。
そして、一瞬のためらいもなく、追加のビールを注文した。
「飲むよな、本郷さん」
「おう」
絶妙なタイミングだ。
俺もまだ、ビールが足りなかった。
「で、クリスマスだけど」
「……力石よ。このクソ暑い夏に、なんでクリスマスが出てくるんだ?」
「自分が言い出したんじゃないか」
「俺が? 今?」
力強く頷いた力石の、髪の先が軽くはねた。
俺の視線が、勝手にその毛先を追いかけてしまう。
気づいた力石が、そっと頭を撫でた。
俺は、慌てて手元のポテトサラダを頬張る。
「本郷さんが言い出したよ。盆を過ぎた海にはクラゲがいるって話が、いきなりクリスマスになった」
覚えてない。
こんな早くから記憶をなくすほど、今夜はそこまで飲んでない……ことも、ない、か。
「間違ってはないだろ?」
「クラゲはな。けど、それがクリスマスに続く意味は分からない」
悪かった、酔ってた。
と、一言言えばいいのだけれど、余裕でビールを飲んでいる力石に対して、俺は絶対に謝りたくない。
「ん……ほら、クラゲのヒラヒラしてる部分。あれはクリスマスの飾りっぽいじゃないか」
「似てるかなあ」
首を傾げる力石の髪が、またはねたけれど、今度は強引に話を進める。
まともに戻しているのか、混ぜ返しているのか、当の俺にもよくわからなくなっている。
「ま、クラゲはおいとこう」
「そうだね。クリスマスの話だよ。本郷さん、暇?」
一瞬考えた。
考えても、ないものはない。
「……おお。別に、俺は何もないぞ」
「今から決定?」
「勿論」
なぜか力石が吹き出した。
「え? なんで? ここで笑う?」
「だって……そうか。意外」
力石の笑う理由がわからない。
「じゃあ本郷さん、今年のクリスマス、一緒に飲もうか」
「へ?」
「そんな先の話じゃ、お互い忘れてるとは思うけど。もしも覚えてたら」
クリスマスは、まだずっと先の話だ。
まだ夏も終わってないし、秋も遠すぎる。
約束にならない約束だ。
「っていうか、そんな先よりも、もっと早くに俺たち、顔合わせて飲んでる気がするんだけど……」
「それはそれ、だよ」
力石とクリスマス。
不思議な感じがして、ピンとこない。
それ以前に、クリスマスなんて行事、いつからやってないんだろう。
ケーキとプレゼント?
それは、子供の頃の記憶だ。
大人になってからのクリスマスは、あまり俺の人生で重要ではなかったせいか、全く思い出せない。
すでに顔も思い出せない相手と、食事くらいは、した、かも。
何が正しいクリスマスなのか自体、よくわからない。
「プレゼント交換、する?」
力石の一言に、再び俺はビールを吹き出した。
でもうまく、力石にはかからない。
「な、なんだ、そりゃ。子供のお楽しみ会じゃないぞ」
「そうだけど……俺、美味い大吟醸、本郷さんにプレゼントするよ」
「なに、大吟醸……?」
「本郷さん、好きだよね」
本気で喉が鳴った。
「じゃあ、俺は……」
言いかけて、言葉が詰まった。
力石と飲むようになって、ずいぶんになるけれど、俺は、こいつの好みの酒をよく知らない。
いつだって、俺が選んだ物の上を、平気でいくのだから。
下手な物を持ち出して、鼻で笑われてもたまらない。
「いいよ、本郷さん。酔ってる時の話だし」
「今の、冗談?」
「そうでもないよ。大吟醸は、ちゃんと覚えておく」
力石だけに、いい格好をさせたくない。
「じゃ、じゃあ、俺も、大吟醸を……特別な、最高品を」
「ほんとに? 楽しみだな」
子供みたいに明るい顔になった。
力石のこんな顔、初めて見るかもしれない。
「でも本郷さん、冷静に考えると」
「ん?」
「クリスマスって普通、シャンパンとかだよな」
「お……そうだっけ」
力石が、うまくビールを注ぐ。
絶妙な泡の立ち方で、俺の喉がまた鳴った。
「本郷さんも」
渡した俺のグラスも、完璧なビールが注がれた。
こいつは、本当に、何をやっても悔しいぐらいにキマる。
「……大吟醸のクリスマスは、俺たちっぽいよ。な?」
泡に気をつけて、そっと乾杯する。
何度やっても、乾杯はいい。
「なるほど。それはいいな」
「ビールが?」
「違うよ」
力石が、意地の悪い笑いを浮かべた。
髪の毛先がはねてるくせに、と、言わずに俺も、笑顔を返してやった。