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おもいつくままに

色々と止まらなくなり、ひとまず置き場所をつくりました。

43 ■ 懐かしい泡

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43 ■ 懐かしい泡

久しぶりの小話です。まだ夏が終わってなくてよかった……
リハビリがわりに、短めの小話いっときます。甘さぶっこんだ感じで。


※ 当初のタイトルは「ビールの泡」でした。過去に同じタイトルがあったので、サクッと変更したんですが、なぜか表示されるアドレス?は変更前のまま…どう直すんだろ?








「おっ、きたきた」

本郷さんの声はわかりやすい。
ビールが来た時と、日本酒が来た時で、少し声のトーンが変わる。
観察していると、どっちがより好きだと言うのではなさそうで、その弾んだ響きに、俺は本郷さんの注文した酒の流れと今夜のゴキゲンさを知る。

「やっぱりビールだな」

今夜は俺が先に飲んでいた。
一人でいるのも気楽でいいけれど、本郷さんがいるのは断然違う。
あっという間に酔っ払う姿に、俺もずいぶん気を許せるようになった。

「だって暑いし。ここは、この泡が最高でたまらんだろ」
「まったくだ」

この店で飲むビールは、泡が繊細で実にうまい。
適当に注がれた泡だらけのビールとは一線を画している。
本郷さんも同じ気持ちだったようで、しばし、泡について語り合った。

「なあ、力石よ」
「ん?」
「ビールの泡ってな、子供の頃、ものすごく憧れたりしなかった?」
「……そうだなあ……」

子供の頃の記憶なんて、本当はずっと遠い。
昔何があったかより、目の前にいる本郷さんが、何を食べて楽しんで、何を飲んで酔っ払っての方が深く記憶に残っているのだ。
忘れたくない事が、最近はとても多い。

「またしても、ヒミツ、か」
「別にそうじゃないよ」

隠す訳ではないけれど、思い出すのに時間がかかって、本郷さんにはいらぬ想像を働かせてしまう。
このひねた顔も、見ていて飽きないのだけれど。

「まあいい。男はミステリアスな方がモテるらしいからな」

ビールの泡の思い出が、ミステリアスかどうか、本郷さんの感覚は、やっぱりおかしい。
こっそり笑いながら、そっとビールを楽しむ。

「あ。そういえば、麦茶を振った事はある、かな……」
「麦茶?」
「泡立てて、ビールだって言って……」

本郷さんは笑うと思った。

遠足だっただろうか。
実に子供らしい思い出だ。
母親に持たせてもらった水筒の色まで思い出す。
あれは、いくつくらいの頃だったか。

「……なんで、そんな……」
「え? どうした?」

突然、本郷さんが両手を震わせた。

「酔っ払ったのか? 大丈……」
「明確に年の差があるってのに、なんで俺と同じ事をやってるんだ?」
「本郷さんと、同じ?」
「そうだよ。俺もそれやった! ついでに水筒吹っ飛ばして、どれだけ怒られたことか」

この世の終わりに出会ったような、本郷さんの表情がおかしくて、可愛い。
悲しい眉の形に我慢できなくなった。

「なっ、何を笑う、力石」
「多分、子供はみんなするんだよ、それ」
「みんな……か?」
「そ。俺も、本郷さんも」

本当かどうかはわからない。
けれど、確実に知り合う予感もなく、時間も場所も全く違うところで、本郷さんと俺は、同じ事をしていたのだ。

「……なるほどね」
「何がなるほどなんだよ、力石は……」
「ビールの泡の話がさ、不思議な話になったと思って」

今初めて、あの時水筒を振り回していてよかったと思った。
目の前にいる、情けない顔をしている人と、同じ思いを分かち合えるのだから。

「振り回した泡って、薄い気がするんだよね」
「あ、それ、俺も思った。けど、飲んだら麦茶なんだよな」
「そうそう」

頷いて、ビールを飲む。
大人になった今、麦茶はビールになった。

「……ああ、ビールはうまいよ。大人になったって気がするよな」
「俺はずっと大人だけど?」
「ナヌ?」

唐突に、本郷さんは偉そうな声になった。

「……先に麦茶で騙されていたのはおまえだ」
「ちょっと待ってくれ。本郷さんの方が年上なんだから、先に麦茶ビールでゴキゲンだったのは、本郷さんだよ」
「いやいやいや、大人は俺。おまえは、子供」

すでに酔っ払いだ。
目のあたりが赤くなって、口元が嬉しそうに緩んでいる。
この本郷さんと飲むのは、いつだって楽しい。
いや、酔ってなくて、難しい話をしている本郷さんとだって、俺は楽しい。

それにしても、ビールを飲み干す俺を子供扱いとは。
本郷さんから見て、俺はいくつくらいなんだろうか。

これも、酔って考えるには楽しいネタだ。

「……まあいいか。今夜は最高にうまいビールなんだから、楽しく飲もうぜ」
「おう! おかわり、行くか?」

本郷さんの注文の声が、まっすぐに店の中を通った。 

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プロフィール

HN:
タケル
自己紹介:
本力にどハマりしました。
そしてドラマ版を見たら、本郷可愛さにグッと胸掴まれて……(萌えは勝手です)結局、二人が好きなのだと、自分で納得。

小話は「■ 本力」「□ 力本」分けてみました。
ほぼ変わりはないけど、ひとまずの目安にしていただけたらです。
(小話が増えてきたので、自分の確認の意味も込めて、番号も振ってみました)

とにかくもう、二人が可愛くて(格好よくても含まれる)たまらんので、日常っぽい短い話や、覚え書き等、こそっと置いていきます。

※ 原作の感想は、金曜の朝頃、バレはないように萌え語ります……(この発散もしたくて作ったブログなので)


つぶやき @takerun_001
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サークル 本郷格好委員会

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