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おもいつくままに

色々と止まらなくなり、ひとまず置き場所をつくりました。

22 ■ 夜明けのコーヒー

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22 ■ 夜明けのコーヒー

今時、これは通用するのか……?
たまにはボケボケの力石もアリってことで(勿論、それでも格好いいのが力石!)
結局は、楽しく飲んでるいつもの感じ……で、熱燗飲みたい。







「そうだ。本郷さん、ちょっと聞きたい事があるんだけど」
「……俺に?」

唐突に、力石が切り出してきた。
寒さも深まってきて、もう冬だと言ってもおかしくない秋だ。
それでも俺は、ビールが美味くて、まだまだ楽しめる。

今夜も相変わらず、力石はふらりと現れて、俺の隣で飲んでいる。
どこで俺がいる店を嗅ぎつけてくるのか、一度聞いた方がいいかもしれない。

しかも力石は、そろそろ燗酒を投入するべきか、と悩んでいた俺を笑うかのように、熱燗をぶち込んできた。
俺が見つけられなかった一品を、さりげなく注文するという、嫌味も込めて、だ。
悔しい。

そんな力石からの問いかけに、思わず姿勢を正してしまう。

「コーヒーは好き?」
「へ? 好き……だけど」
「よく飲む?」
「……割と……普通に」

酒を飲んでいる席で、コーヒーの話になるとは。
力石の野郎、早速酔っ払ったのか。

「あのさ、それじゃ、夜明けのコーヒーって、飲んだことある?」
「は?」

何の冗談かと思った。
マジマジと、力石の顔を睨みつける。

ここで色っぽいネタを持ち出してくるとは。

笑い飛ばしてやろうと思ったけれど、力石の顔は大真面目だ。
顔色ひとつ変わってない。

「……力石よ、それ、何かの冗談か?」
「え? 夜明けに飲むコーヒーだろ?」

夜明けのコーヒー。
確かに。
言葉通りに取れば、力石の言い方に間違いはない。

「……そ、そうだけど……」
「本郷さんは、好き?」
「へっ?」

これはまた、答えに困る質問だ。

俺の知っている夜明けのコーヒーには、深い意味が込められている。
それは、一夜を共にした恋人同士が寄り添って飲む。
そういう場面を、映画やドラマで何度も見た。

「……いや、好きとか、は……」

俺は大人だ。
知っていても、何の問題もない。
逆に、知っていない方がおかしい。

そういう事にしておく。

「り、力石は、飲みたい、とか……?」
「美味しい店があるならね」
「え」

どう見ても、力石が冗談を言っているようには思えない。
もしかして。
力石の年代では、もう通用しない言葉なんだろうか。

「本郷さん、一緒に行く?」
「ひゃっ、な、何を!」

俺の頭の中で、恐ろしい情景がぐるぐると回っていた。
力石と、夜明けのコーヒー?
どこで?

「……? そんなに驚く事?」

涼しい力石の声が恐ろしい。
知らない者の強みだ。

「……あ、あのな、夜明けのコーヒーってのは、海沿いのホテル、とかで……」
「お、いいね。海沿いってのが、また美味しそうだ」
「シ、シーツの……海で、おぼ、溺れ、て……」

俺は大人だけど、言いにくい言葉はある。
下心があるような言葉は、酒を飲んでいる時に言ってはならない。

いや、下心も何も、目の前にいるのは力石だ。
力石なのだ。

下手な誤解は、六回にも七回にもなる。

「お、溺れて……ろ、六回……いやっ」

うまく伝えられなくて、もどかしい。
声が大きくなったり、小さくなったりで、多分、力石にはちゃんと届いてないだろう。

「六回、溺れる?」
「……そうじゃないけど、色々な、大変、なんだよ……」
「よくわからないけど……溺れて冷えるから、熱いのが美味しいって事?」
「ああ! まさにそうだ!」

ある意味、答えに行き着いて、俺は安堵した。
これは、力石の読解力を褒めた方がいいんだろうか。

「本郷さんって、面白い」
「へ……?」

力石の口元が笑いを堪えている。

「あれ? 力石……」
「今の、ウソ。本郷さん、ひっかけてみた」
「何!」
「どういう答えをくれるかなって、ふと思って……」
「あのなあ!」

思わず立ち上がってしまった。
手をあげる訳でも、怒鳴りつける訳でもない。

「本郷さん、まあ、飲んで」
「……お、おお」

力石が飲んでいたお猪口が差し出され、無意識に受け取る。

「少しさめたけど、燗酒はゆっくり変わる温度で、香りも味も楽しめるよな」
「確かに……」

大人しく座り直して、力石から注がれた酒を飲む。
美味い。
確かに、美味い。

「機嫌、治った?」
「……思い出した。何だ、今のは」

笑う力石に対して、俺はちっとも怒ってない。
いつだって、力石が何か注文するたび、イライラしてしまうけれど、決定的な怒りには結びついてないのだ。
勿論、怒るようなら、こうして飲んでないと思う。

「何で見たのかな。夜明けのコーヒーって言い回しがあるって。本郷さんは、どう解釈してるのかなってね」
「……参考に、なったか?」
「ものすごく」

頷きながら、力石が笑う。

思い返したくもない。
俺は今、力石相手に、どういう説明をした?

「……言っておくけど、俺は、酔ってるからな。ちゃんとした答えになってないはずだ」
「わかってるよ。ただ、シーツの海に溺れるって言葉を、リアルで聞くとは思わなかったから……」

テーブルに顔を伏せて、力石が肩を震わせている。
どうせなら、笑う顔を俺に見せたらいいのに。

「……悪かったな」
「意外と詩的だな、本郷さん」

顔をあげた力石は、もうすっかり元どおりだ。
冷静に戻るのが早すぎる。

「なんだ、そりゃ」
「熱燗、飲みたくなるって話。飲むよな?」

力石の話こそ、全くつながりがない。
俺は何も言ってないのに、熱燗が追加される。

「コーヒーじゃないのか」
「……飲みたい?」
「いや。今は熱燗で」

冷酒ほどではないけれど、熱燗も、うっかり飲みすぎてしまう。
鼻からも酔って、多分、気を抜くと泥酔するだろう。

このまま酔っぱらうと、帰れなくなって、力石いうところの正しい意味で、夜明けのコーヒーを飲みそうだ。
当然一人で。

「……まあ、何が正しいのか……ちょっと悩むところだけど……」
「熱燗の話?」
「あ、ああ。そう、だよ」

力石の手元に、新しいお猪口がある。
俺のは、さっきまで力石が飲んでいた奴だ。

「コーヒーは、コーヒーで、改めて」
「……お、おお」
「熱燗、楽しもうぜ。まだ肴も充分あるし」
「よし」

ごまかされたのか、流されたのか。
力石に笑いを提供しただけの、今夜の俺だけれど、少し熱い燗酒の美味さに、全て許す事にした。

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プロフィール

HN:
タケル
自己紹介:
本力にどハマりしました。
そしてドラマ版を見たら、本郷可愛さにグッと胸掴まれて……(萌えは勝手です)結局、二人が好きなのだと、自分で納得。

小話は「■ 本力」「□ 力本」分けてみました。
ほぼ変わりはないけど、ひとまずの目安にしていただけたらです。
(小話が増えてきたので、自分の確認の意味も込めて、番号も振ってみました)

とにかくもう、二人が可愛くて(格好よくても含まれる)たまらんので、日常っぽい短い話や、覚え書き等、こそっと置いていきます。

※ 原作の感想は、金曜の朝頃、バレはないように萌え語ります……(この発散もしたくて作ったブログなので)


つぶやき @takerun_001
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サークル 本郷格好委員会

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