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おもいつくままに

色々と止まらなくなり、ひとまず置き場所をつくりました。

32 ■ 冷たい手と温かい色

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32 ■ 冷たい手と温かい色

そろそろ寒さも穏やかになってくるでしょうか。
うっかり時期を外しそうです(涙)
甘いのをと思ったけど、いつも以上にすれ違いまくりで。








「ああ、寒い……今夜はよく冷えるなあ」
 
ガラリと入り口のドアが開いて、覚えのある声が聞こえてきた。
 
「いらっしゃい、奥、どうぞ」
「あ、どうも……あ」
「やあ、本郷さん」
 
ゆっくり顔を向けると、本郷さんが仁王立ちしていた。
 
「……お、おお、来てた、んだな」
「こっち、来れば?」
 
俺が座っている所が、この店で一番あたたかい。
なぜか、困ったような顔になった本郷さんは、いきなり自分の頰を軽く叩いて、俺の隣にやって来た。
 
「……今の、何?」
「へ? いや、気合をだな、ちょっと入れた」
 
座ると、いつもと同じ表情だ。
にこやかで、親しみやすい。
それなのに、本郷さんの動きは、想像がつかない。
 
「そんなに寒い?」
「おぅよ。あまりの寒さに、凍え死ぬかと思った」
 
大げさな言葉だと思ったけれど、そこまで寒いと、この店の熱い料理は何を食べても美味いだろう。
 
「熱燗と、魚の煮付け……それに」
 
壁に並んだメニューを指で確認しながら、本郷さんが注文する。
人の選ぶ料理なんて、あまり気にはしてなかったけれど、本郷さんの声だけは、耳を傾けて聞いてしまう。
どれだけ人がいても、俺の耳に飛び込んでくる声だ。
 
「力石は、寒くないか?」
「あ、俺? そうだなあ……そこまでは」
「今夜は雪になるって言ってたぞ」
「そうなんだ」
 
付き出しの切り干し大根を見て、本郷さんが笑顔になる。
 
「すごく腹減った……」
「本郷さん、お腹すいてるから、寒いんじゃない?」
「え? そんな事ってある?」
「満腹だと、寒さってあまり感じないよ」
「うむむ……なるほど」
 
本郷さんの燗がつくまで、俺の徳利を差し出した。
 
「ひとまず、温まってくれ」
「お、おお……すまん」
 
先にお猪口をもらって、本郷さんに注いだ。
何気に触れた指先は、確かに冷たい。
 
「いただきます」
 
グッと飲んで、一息つく。
これだけで、本郷さんが笑顔になった。
酒一杯で、この顔が見られるのなら、いくらでも飲ませてあげたくなる。
 
「冷酒の美味さと、燗酒の美味さは、もう全然違うよな」
「そうだな」
「俺な、冷酒を肴に、燗酒飲めるぜ」
 
もう酔っ払っている。
 
「本郷さん、ちょっと手を貸して?」
「お? 持っていくなよ」
 
伸びてきた手を握りしめて、改めて確認した。
本郷さんの言う通り、ものすごく指の先が冷たい。
雪で遊びすぎた、子供のようだ。
 
「何をやったら、そこまで冷えるんだ?」
「別に何もやってないんだけどな……」
 
俺の手から離れて、本郷さんが指先をさする。
 
「あ、熱燗来た。飲むか?」
「注ぐよ」
 
煮付けと、熱燗と。
どんどん本郷さんの顔が緩んでいく。
 
「働きすぎかな……」
「へえ、そんなに忙しいんだ」
「いや、まあ……」
 
あえて、日中の姿は聞かない。
本郷さんが言えば聞くし、興味はあるけれど、飲み屋でそれは無粋だ。
 
「あまり冷えすぎるのって、老化を疑った方がいいかもな」
「ろ、老化……?」
 
本郷さんの動きが止まった。
唸りながら、真剣に、考えている。
少しだけ、言い過ぎてしまったかもしれない。
 
「冗談だよ。老化より、風邪が先だ」
「俺はまだまだ若い、んだぞ……そりゃ、オジサンな部分は認めるけど……いや、認めたくないっ!」
「風邪はひいてないのか?」
「そこらは、ばっちり大丈夫」
 
勢いよく、本郷さんが頷いた。
大げさな動きに、おかしくなってきて、ついからかってしまう。
 
「それだけ手が冷えてると、夜とか、なかなか寝付けないだろ」
「夜はな、こたつがあるから温かい」
「あのさ、それがダメなんだよ。ちゃんと布団で寝な」
 
深いため息をついて、本郷さんが呟いた。
 
「布団あっためる……カイロが、欲しいな……」
 
一瞬、戸惑ってしまった。
その言葉を、どう取ればいいんだろう。
 
布団の中で、本郷さんを抱きしめる、温かい存在。
 
戸迷う必要なんてない。
俺に向かって言ったけれど、多分、俺に対してではないはずだ。
 
「……あてはあるかい?」
「あて? 酒の? んっと……冷蔵庫になんかあったっけ」
「え」
 
完全に俺が固まってしまった。
本郷さんは、真面目な顔で考えている。
今のは、高度すぎる冗談ではなかったのか。
 
「やっぱ、生姜とか効かせてるのがいいかね。唐辛子とかの辛いのは、胃に優しくないか……」
 
まさか、こんなにも、言葉がすれ違う瞬間に出会うとは、思いもしなかった。
 
「いや、俺が言いたいのは、カイロの代わ……」
「ああ。待てば海路の日和ありってな」
「なんだよ、それ」
 
本郷さんの目が輝く。
全く意味がわからない。
 
「へえ……意外と力石も知らない事があるな……って、何、笑ってるんだ?」
「いや。なんでもない」
 
笑いがこらえきれない。
本郷さんが、完全に独り者だとわかった事が、なんだかものすごく嬉しい。
 
「ひとまず、その手だな」
 
本郷さんを温めるのは、手から。
言葉にする必要もない。
俺は本郷さんに、いい手袋を見つけてこようと思った。
 
側に俺がいなくても、温めてあげられる手袋がいい。
手袋なら、日中、側にいられる。
 
普段の本郷さんの姿から、似合う色を考えてみた。
黒っぽいのか。
明るい色か。
勿論、品物を見て、じっくり選ぶつもりではいる。
 
何気なく、店内のメニューを見ながら、閃いた。
 
「……今気がついたけど」
「ん?」
「本郷さんって、いなり寿司色だ」
「へ?」
 
目の前にある。
何かに似ていると思っていた。
ずっと考えていたのが、今、結びついた。
いなり寿司だったのか。
すっきりして、気持ちがいい。
 
「……いなり寿司色って……」
「いい表現だろ」
「食べる気か」
「……何を?」
 
本郷さんが、冷たい手を組んで、ぐっと力を入れている。
あの手は、すぐに温かくなるだろう。
早く手袋を見つけてこなければならない。
 
「……むむう……おまえのせいで、いなり寿司が食べたい……」
「共食いだ」
「……何!」
 
大きく口を開けた本郷さんを見て、流れるようにいなり寿司の注文をしてやった。


 

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プロフィール

HN:
タケル
自己紹介:
本力にどハマりしました。
そしてドラマ版を見たら、本郷可愛さにグッと胸掴まれて……(萌えは勝手です)結局、二人が好きなのだと、自分で納得。

小話は「■ 本力」「□ 力本」分けてみました。
ほぼ変わりはないけど、ひとまずの目安にしていただけたらです。
(小話が増えてきたので、自分の確認の意味も込めて、番号も振ってみました)

とにかくもう、二人が可愛くて(格好よくても含まれる)たまらんので、日常っぽい短い話や、覚え書き等、こそっと置いていきます。

※ 原作の感想は、金曜の朝頃、バレはないように萌え語ります……(この発散もしたくて作ったブログなので)


つぶやき @takerun_001
pixivID 18019731
サークル 本郷格好委員会

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