余裕のあるうちに更新を。
基本正月は、飲み屋さんお休みが多いので、本郷さんどうしているのか気になります。
その辺、力石の心配は全くしてない自分が不思議。まあ、力石は大丈夫っぽいもんね。
やきとり、こそっと営業時間の検索しました。開いてるよね、正月(と信じた!)
上記踏まえての、捏造過多です。
正月は、実家に帰っていた。
別に変わった事は何もない。
家族も、家も、自分の部屋だった所も。
穏やかで落ち着く。
「今年は、少し早いけど、もう帰るから」
以前と違うのは、俺かもしれない。
変わらないのに、何かが足りない。
あっさりと家を出て、駅に向かった。
「……足りないのは、酒か?」
正月の料理は堪能してきた。
酒だって、そこそこに飲んだ。
いつもよりは酔っている気もする。
通い慣れた道は、正月だけあって人気が少ない。
ゆっくり歩きながら、ふと、食べたい物を思い出した。
「せっかくここまで来てるんだから、やきとりでも食べて帰ろうかな……」
開いている店はあるだろう。
そんなあやふやな情報で飲みに行った事はないけれど、たまにはそういう賭けみたいなのもいい。
年明けの浮かれた気分が、珍しく、俺にいつもと違う行動をさせた。
「……さて」
駅を降りて考えた。
意外と店は開いている。さすが、やきとりの街だ。
点在してる店をあちこち覗いては、確認する。
「どこにしようかな。いつもの店か、新しい所で……」
俺にしては珍しく、悩んで足を止めた時だった。
「うぬっ、力石!」
「え?」
唐突に、見慣れた人が立っていた。
「……本郷、さん?」
「何やってる?」
「本郷さんこそ」
「俺は、無性にやきとりが食べたくなってだな、ここに」
「……ここまで?」
「お、おお」
信じられない。
俺はまだいい。実家からの帰りに立ち寄っただけだ。
本郷さんは、わざわざここまで来たのだ。
「なあ、本郷さん。今日って正月なの、知ってるよな?」
「勿論だよ。正月にやきとり、めでたいじゃないか」
おかしい。
笑いがこみ上げて来る。
「そいつはいいな」
本郷さんの主張は、謎な理屈が多いけれど、不思議な説得力がある。
騙されても、笑って許せそうなのは、本郷さんの雰囲気から来ている。
恐ろしい偶然で、正月から会えるとは。
今年も楽しい一年になりそうだ。
「本郷さん、店って決めてる?」
「ん……この前行った、三軒目から攻めようと思って来た」
「三軒目? どうして?」
「美味しかったから、酒の全く入ってない状態で、後から遡って攻めようかと……」
ここでのやきとりは、ずいぶん前に本郷さんと遭遇して、一緒に食べた。
初めてやきとりを食べると言うから、三軒ほど回って味比べをしたのだ。
あれは、なかなか貴重な時間だった。
いつもよりくだけた感じの本郷さんが楽しくて、俺も馴れ馴れしくしてしまった。
あの時の店を、本郷さんは、一人で回るつもりで来たのか。
穏やかな正月に、まっすぐ立っている本郷さんが、異様に格好よく思えた。
「じゃあ、俺も付き合う」
「おお。そいつはいいや。正月だからな、楽しくいこうぜ」
「ちょっといい酒でも飲む?」
「いいねえ、いいねえ。嬉しくなるよ」
にやけた本郷さんの隣に並ぶ。
「本郷さんって、その格好、ちっとも変わらないな」
「おまえこそ、正月だぞ」
お互いに、指をさして、笑った。
何も変わらなくはなかった。
本郷さんが、違う。いるだけで、楽しい。
「いい正月だ……」
「店が開いてたらな」
「……まあ、ね」
足がもつれそうになったのは、家で飲んで来た酒のせいだけではない。
もう少しで本郷さんにしがみつきそうになって、慌てて足に力を入れた。