まだずっと先の話だし、そうなるかどうかもわからない状態ですが、ふと思いついたので、書いておきます。
ツイッターで呟くネタには長すぎた(笑)
一応力本設定にしてみたけど、いつか本力でもこういう日がきますように(ちなみに現時点で、力本の方が親密度が高い故にそうしました)
※追記 一部直しました。こそ→ほど(恥ずかしい)
いつもと変わらず、夜の店で出会って、一緒に飲んでいた。
唐突に、本郷さんから鍵を貰った。
「持ってろ」
その一言が、やけに大きな声で聞こえた。
「これ、俺に?」
「……最近、結構、一緒にいる事が多いから……」
本郷さんの家に飲みに行くのが普通になって、半年くらいになる。
今夜みたいに顔を合わせて、なんとなく飲み足りない時に、ふらりと吸い込まれる。
途中で酒を買うのも楽しいし、本郷さんのウンチクを聴きながら歩くのも悪くない。
基本、本郷さんがいる時にしか行かないから、鍵なんて必要ないと思っていた。
「いいのか?」
「……って、どういう意味?」
「不用心じゃない?」
目を丸くして、本郷さんが俺を見つめる。
「不用心って、何?」
「もしかしたら、俺が強盗に入るかも、とか」
一瞬の間が空いて、本郷さんが爆笑した。
目に涙を浮かべて、テーブルをバンバン叩きだす。
徳利が倒れそうになって、思わず伸ばした俺の手も一緒に叩かれた。
本郷さんは気づいてない。
「強盗って、強盗って! 力石が、強盗!」
「たとえ話だけど」
「ないない。絶対にない!」
清々しいくらいの自信はどこから来るのだろう。
「それは、ありがとう」
「一応、予備は一個しかないから、大事にしてくれ」
「……勿論だよ」
使われた形跡のない鍵は、作ったばかりでもなさそうだ。
あえて聞いてみる。
「本郷さん、これって、わざわざ……?」
「ん? 最初に二本もらって、そのまま今まで寝かしてた。だからこれしかないんだけど」
「ああ」
誰にも渡してない、本郷さんの家の合鍵。
くすぐったい笑いがこみあげてくる。
「……力石、まさか本当に強盗に入る気じゃ……」
「本郷さんち、何もないじゃないか」
「そんなところ、見てるのか!」
「何度も行ってるんだから、わかるよ」
本郷さんは、まだ反論したそうに唸っているけれど、軽く無視して酒を飲み干す。
実に美味い酒だ。
「そうだ、本郷さんの鍵、見せて?」
「ん? これか? 食べるなよ」
ベタベタなオヤジギャグは無視して、使い込まれた鍵を手渡してもらう。
「なくした事とかないのか?」
「鍵を? そうだな……そういえば、ずっとこれ一本だよ」
「へえ。本当に本郷さんは、几帳面だな」
なんとなく手の中で遊んでみた。
撫でてみたり、握ってみたり。
一瞬、違う想像が頭をよぎって、慌ててテーブルの上に置く。
眺めているだけでも楽しい。
「食った、食った」
会計を済ませて、一緒に外に出た。
月はもう、ずっと高いところにある。
「力石よ、今夜、どうする?」
「あ、今日は帰る」
「じゃあ、またな!」
引き止められるのかと思ったのに、あっさり本郷さんは行ってしまった。
このまま、本郷さんの家で飲み直してもよかったのに。
いや、今夜の本郷さんは、ずいぶん飲んでいたから、これから飲むのは無理かもしれない。
目の前で眠りこまれて、添い寝で済ます事が出来るほど、俺は酔っていない。
そっとポケットに手を突っ込んだ。
「あ」
本郷さんに貰った鍵が指の先に触れる。
それともう一つ。
「……ヤバ……」
慌てて取り出して、驚いた。
使いこまれた鍵。
これは、本郷さんのだ。
「さっき見せてもらって、返さなかったんだ、俺」
慌てて本郷さんの姿を探す。
ちょうど、少し先の角を曲がる所だった。
「本郷さん!」
この時ほど、本郷さんが分かりやすい姿でよかったと思った事はない。
トレンチコートと帽子。
絶対に俺は見逃さない。
「本郷さん」
「……お、力石?」
息が切れるほどの距離ではなかった。
けれど、鍵を手にして焦ってしまった。
少し乱れた息を整えながら、本郷さんに鍵を手渡す。
「あれ? これ、俺のか」
「本郷さん、ごめん。さっき返すの忘れてた」
「……俺こそ、完全に忘れてたよ」
受け取りながら、本郷さんは笑い飛ばしてくれた。
笑うのはいいけれど、気づかずこのまま家に帰ったら、入ることすら出来なくて困っただろうに。
「まあ、何かあったら、開けに来てくれ」
もう、ダメだ。
「……本郷さん、送って行くよ」
「へ?」
「こんな酔っ払い、放っておけない」
「……俺、全然酔ってないって」
「いいから」
強引に肩を抱いてやった。
本郷さんのポケットと、俺のポケット。
全然違う所に、同じ鍵が入っているのかと思うと、なんだかそれだけで嬉しくなって、俺の足は早まってしまった。