途中省略してますが、腐表現あり。今回、いきなり「力本」です。
元ネタはドラマ版からで、タイトルのシーンに深い感銘を受け、止まらぬ妄想が……。
ですが、もうマジで王道というか、考え尽くされてるというか……それでも書いた。ごめん。
ドラマ版の力石は、男っぽくて(原作もそうだけど、ちょっと違う)攻度高すぎるせいか、あっさり一線こえてしまったよ。
勿論、いつもの甘酸っぱい系のギャグです。
「本郷さん、ちょっといい?」
「へ?」
今夜もゴキゲンに飲んだ。
足取りも軽く店を出た時、一緒に飲んでいた力石に肩を叩かれた。
「もう少し、付き合って」
「お、おお……?」
強引な雰囲気は、帰るという選択肢を与えてくれない。
飲み足りなくはないけれど、力石が足りないのなら、付き合ってやってもいい。
そんな風に思っていたら、何やら怪しげなホテルの前に着いた。
「り、力石よ……」
もう少し付き合う、の、意味が違う。
ついて来た俺も俺だけど、ここで立ち止まる力石もどうかしている。
「二軒目、行くんだよ、ね?」
「ああ。ここ」
「へ?」
平然と、力石が入口を指差す。
あ、そうか。
ホテルに見せかけて、ここは隠れ家的な居酒屋なのか。
「……って、ちょっと待てよ、ここ、飲み屋じゃないだろ!」
「そんなことは言ってない」
「な、何、そんな冷静に、俺、と?」
動揺する俺は、軽く無視された。
力石が、ぐっと俺の腕を掴む。
「入ろう、本郷さん」
「へ! な、何のために?」
「それ、ここで聞く?」
ニヤリと笑われた。
今、周りに人はいない。
あからさまなホテルの前で、立ち話しているカップルが、いる方がおかしい。
いや、待て。カップルって。
自分で言いかけて、口から心臓が飛び出すところだった。
「ま、待って、力石……」
「心配しなくても、無理やり襲ったりしない」
耳が遠くに行ってしまいそうだ。
言葉の意味が理解出来ない。
「おそ、お、襲う? 襲うって、何?」
「冗談。もう少し、ゆっくり本郷さんと、話がしたいだけだよ」
力石は、正直者だ。
食に挑むスタイルから、勝手に俺が思っているだけかもしれないけれど、いつだって真っ直ぐに見る。
日常のことは、全く知らないけれど、なぜか妙な信頼感はある。
「う、ん……まあ、俺も、ある、かな」
「ね?」
力石の言うままに、俺はついて行くことにした。
「お……おお……」
「どうかした?」
「いや、目が、目が慣れなくて……」
入った瞬間、激しいめまいに襲われた。
この雰囲気だけで、一気に酔いが回ったような気になる。
部屋はごくシンプルで、想像していたようないやらしさはなかった。
ただ、広すぎるベッドがたまらない。
ふらついた俺の帽子に、力石が手を伸ばしてきた。
「な、何っ?」
「帽子。あっちに掛けておいた方がいい。形変わると困るだろ?」
「へ……あ、そうね……」
帽子がないと、妙に不安になる。
形が変わる?
どういう意味だ?
力石は、丁寧に俺の帽子を壁に掛けた。
そして。
くるりと、いきなり振り向いた。
「本郷さん」
「ひゃい!」
見事に裏返った声で、返事してしまった。
力石が笑い出す。
「そんな、緊張しなくていいのに」
「緊張なんて……して、ないだ、ろ……」
「そう?」
「そうだよ……うわっ!」
力石が、俺に顔を近づけてくる。
いや、顔だけじゃなく、身体ごとで俺にくっつこうとしている。
まるで飛び出す映画だと思った。
「なに、何、よ……?」
「……本郷さん」
無意識に、後ずさりしてしまう。
足に力を入れて、踏みとどまっているつもりなのに、力石から押し寄せてくる雰囲気が、異様に怖い。
「り、力石……」
「なあ、本郷さんのうしろ、もうないんだけど」
「へ?」
膝の後ろが、何かに触れたと思った瞬間、俺の視界は天井を見上げていた。
でかい、ふかふかのベッドを背に、倒れこんだのだとわかった。
力石が、俺を見下ろしている。
「ま、待って、これ、これって……マジで、待って……」
「本郷さん、イヤじゃないよな?」
「え……」
伸びてきた手が怖い。
首を絞められるのかと思って、思い切り固く、目を閉じた。
「ダメだよ、ここで目を閉じちゃ」
「い、いや、でも……」
「……脱がすよ、勝手に」
「力石っ!」
俺のトレンチ。
ベルトを緩められ、ボタンもあっさり外される。
「ちょ……と、待っ……」
「本郷さん、こんなに着込むなよ」
「へ」
「楽しいけどね」
スーツもボタンも、ネクタイも全部、俺から離れていく。
一度、力石の手に渡って、床に落ちて。
どんどん俺が、薄くなっていくようだ。
「力……石っ、ちょっと、いい加減に……」
あっという間に恐ろしい姿にされて、俺は混乱していた。
全然力が入らない。
酒に酔ったとしていても、力石を押しのけて逃げ出す勢いぐらい、残っていてもいいのに。
パーカーを脱いだ力石の喉元あたりが目に入った途端、もうダメだと思った。
怖すぎる。
「……どこ、見てる?」
「えっ、ど、どこも……見て、な……」
慌てて視線をそらす。
力石が笑った。
「本郷さん、ちゃんと俺を見たら?」
「いやっ、いい! 全然、いい」
声は裏返ったまま。
息が苦しくなってくる。
「ふうん……」
「ひゃっ!」
首すじに噛みつかれた。
もう、逃げられない。
足をばたつかせてみたものの、力石は俺にまたがるようにして、完全に押さえ込んでいる。
両手はすでに、力石に握り締められていた。
逃げようともがくほど、指が絡み合う。
「いいって、言ったよな?」
「へっ……言って……ないんじゃ……」
「言ったよ」
耳元で、力石が囁く。
こいつの声は、こんな感じだったっけ。
甘く響いて、とろりと溶ける感じ。
ああ、純米大吟醸が飲みたい。
ではなくて。
「……本郷さん」
目を開けていられないのは、この声のせいだ。
力石が、急に優しく、なった。
「……なんで、こんなことに……」
柔らかいベッドには、全く慣れない。
ベッドのせいで、身体が痛むのだと思う。
薄い布団の存在は忘れて、大きく身体を伸ばしながら、痛むところをそっと確認した。
大丈夫、死んではない。
何度か息が止まった時を経て、ようやく俺が戻ってきた。
さっきまでは、記憶と共に、完全に遠くに押しやってやる。
それは、力石も同じであってほしい。
「本郷さん、シャワー、浴びる?」
ガラスの壁の向こうから、力石が顔をのぞかせた。
「……いい。後で」
そんな元気もない。
思いがけず、力石の本気を知ってしまった。
力加減を知らないわりに、手慣れた仕草が気に入らない。
俺だって、場数は踏んできたはずなのに、全くといっていいほど、力石には歯が立たなかった。
本気で悔しい。
いや、問題なのは、俺が、それをイヤではなかったことなのだ。
指を絡めた時点で、もうわかってしまった。
唇を交わすより、身体をつなぐことよりも、そんな初歩の段階で。
「……本郷さん、怒ってる?」
シャワーの熱と一緒に、白いバスローブにくるまった力石が戻ってきた。
妙にしおらしい姿には、さっきまでの怖さは欠片もない。
「なんで?」
「口、きいてくれないから」
「……普通にきいてるだろ?」
「その言い方が……」
ベッドの端に腰を下ろして、俺から距離を取っている。
「……力石よ」
ゆっくり身体の向きを変えて、伸ばせるだけ、手を伸ばしてみた。
こっちを見た力石も、そっと手を伸ばしてくる。
軽く、指の先が触れた。
「怒ってはない、全然」
ためらう力石の爪の先を、ぎゅっとつまんでやった。
怒っていたら、もう絶対に触っていない。
「あのな、俺が聞きたいのは、だ」
ちょっと本気の声を出してみた。
寝転がったままでは、そう怖い声にもならない。
力石が、神妙に頷く。
「結局おまえは、何の話があったんだ?」
「え……」
「ほら、話がしたいって言ってただろ?」
今夜のきっかけは、そこだ。
話をする間もなく、押し倒されてしまったけれど。
大事な話なら、落ち着いた今、ゆっくりと聞ける。
「話……あ、いや……そう、だっけ……」
力石の歯切れが悪い。
困ったような顔で、チラチラ俺を見る。
まさか、話はなかったというオチではないだろうな。
「あ、そうだ。さっきの店で、本郷さん、足裏マッサージの話、してただろ?」
「あ? ああ、あれね……」
思い出したくもない。
史上最強に痛かったマッサージだ。
いつもの整体に行っただけなのに、違う先生がいて、どれだけ叫んでもやめてくれなかった、あの痛いだけの記憶。
あまつさえ、俺の弱点を指摘されてしまって、もうあの整体には行けない。
「どれだけ痛いのかと思って」
「……おまえは、それが聞きたいだけで、俺を、ここに……ここで?」
「痛い思いしたんなら、ついでに気持ちがいいのも一緒に……」
「それ、全然関係ない!」
バカバカしい。
せっかく忘れていた痛みを、リアルに思い出してしまった。
「力石は、行ったことあるのか?」
「ないよ」
「じゃあ、あの痛みは分からんだろうな。絶対に」
ようやく、俺の方が優位に立てた。
人生において、足裏マッサージの痛みを知らない男がここにいる。
「興味はあるけど、機会がね……」
「そうか。結構おまえも、健康志向なんだな」
「いや、そこまで痛がる本郷さんに、興味あるって話」
「……おまえ、最低だ」
「あれって、痛むところが身体の悪いところなんだろ? 本郷さん、どこが悪いんだ?」
行ったことがないくせに、こんなことだけ知っている。
ああ、力石のイヤなところだ。
俺の痛かったところは、絶対に言いたくない。
「こ、こら、触るな!」
俺の手に触れていた力石が、ふと離れた。
ベッドの上を移動して俺に近づく。
器用に俺の足首を掴んだ。
またしても、一瞬の隙をつかれて、逃げようがない。
「へえ。足の裏って、あんまりじっくり見ないから新鮮」
「力石! こら!」
「どこが痛いって?」
「痛っ!」
思わず叫んで、身体中が固まる。
「そんなに力は入れてないよ」
「いや、本当に痛いって! ま、待って!」
力石は簡単に、身をよじる俺を抑え込む。
痛いという言葉しか出てこない。
「あ、足っ、離してくれ」
「ここ?」
「痛い! 力石!」
しまった。
いつの間にか力石は、俺で楽しんでいる。
目が、笑っている。
「さっきの方が、よっぽど痛そうだと思って。俺、反省したのにな。こっちが痛いんだ……へえ」
比べる対象が違いすぎる。
力石は、何もわかっていない。
「お、おまえこそ、これがどれだけ痛いのか、試してみたらいい」
「ああ、そうか。本郷さんがこれだけ痛がるんだ。興味あるよ」
力石が力を抜いた。
その瞬間、慌てて俺は身体を起こして、力石に横たわるように指示する。
素直に従った力石が、ゆっくり身体を伸ばした。
怒りをこめて、無造作に力石の足を引っ張った。
「……見える」
「へ?」
「裾、はだけた。別にいいけど」
見たくもないのに、見てしまった。
そんなことを言い出すと、俺のほうこそ、何もない状態だ。
すっかり忘れていた。
はだけた力石の、ギリギリのところに目をやって、あえて返事はせずに、そっと直す。
今度は気をつけながら、足を掴んだ。
「俺、こんな風に足を預けるのって、初めてだよ。本郷さん」
「よし、覚悟しろよ」
勢いをつけて、力石の足の裏に、親指を押し込んだ。
「……んっ……確かに、これは、痛い……」
「だろ? もっと痛いぞ」
あれ。何だか変だ。
力石は、軽く眉間にシワを寄せているものの、俺のように叫んだり、暴れたり、しない。
「痛いだろ?」
「……痛いけど、そんな、叫ぶほど?」
時々、足が跳ねるけれど、それでも力石は冷静だ。
位置を変えて、ぐいぐい押しても同じ。
「ああ。痛いところはあるよ、そこ、痛い」
「……それで、その反応か?」
さっきまでの俺の悲鳴は何だったんだ。
信じられない。
足裏をマッサージされても、力石はクールなのか。
「おまえも叫んでみろ」
「だから、叫ぶほどじゃ……」
「くっ! もういい」
さっさと、力石の足を放り出した。
またバスローブの裾がはねて、余計なものが見える。
今度は、力石も気にはしなかった。
身体を起こして、俺に触れるほど、近づく。
「で、本郷さんは、どこが悪かったわけ?」
「……言いたくない」
「聞きたいよ。本郷さんのことは、全部」
さっきと同じ。
力石の甘い声に、酒が飲みたくなる。
「秘密」
「……もしかして、頭?」
「へ……?」
痛いところが、悪いところだと知っている口で、頭と言った。
「バカ! 頭のわけ、ないだろ! 前立腺が、ちょっと弱ってるだけだっ……あ……」
「前……」
俺の腹の下に目をやった力石が、爆笑するまで、一瞬の間もなかった。
「それは……本郷さん、揉みほぐして、治さなくちゃ」
「もういい! こ、こら!」
「本郷さん、あんまり叫んでると、この部屋、どんなことしてるのかって思われるかもな」
「う……」
力石の言葉に、慌てて近くの枕を掴んだ。
無駄にでかい枕に顔を押し当てて、声を殺しながら、力石の視線からも逃げる。
「痛がる本郷さん、ほんと、いいよ」
「バカやろう……コロス」
「もっと言って。聞きたい」
「くっ……痛っ!」
調子にのった力石は、時間ギリギリまで、俺の足から手を離さなかった。
揉みすぎたら、揉み返しが恐ろしいのに。
次の機会があれば、今度は俺が、力石を揉み倒してやる。
息も切れ切れに、それだけは言った。
力石の力が、より強くなっただけだった。